社会の高齢化にともない、日本人の2人に1人は生涯で一度はがんになると言われている(国立がん研究センター「最新がん統計」2017年)。
最近は免疫の仕組みを利用した薬も開発され、日々治療法は進化している。しかし、ひとたびがんになると気になるのが「余命」という言葉。
ところが、医師と患者のあいだで、この余命の捉え方にズレがあり、要らぬ誤解を招いているという状況がある。米国でがん研究を行う大須賀覚医師に、がんにおける「余命」の正しい捉え方について寄稿していただいた。
余命宣告というのは、ドラマなどでこのシーンが良く登場することなどから、一般の人にとっては進行がんの治療において必須のもののように思われています。しかし、実際には余命宣告は必須ではなく、また医師と患者の間で様々な誤解を生む、要注意な事象の1つでもあります。
しかし、そのことはあまり一般の方には知られていません。今回はそんな余命宣告について私なりに解説して、どのようなことが問題で、本来はどうあるべきかを考えてみたいと思います。
一般の方の理解としては、余命宣告は同じ病状にあるがん患者が平均的に生きられる時間、つまり、あとどのくらいの期間を生きられるかの予想と考えていると思います。
この余命宣告はかなり正確で、例えば3年と言われたら、その前後数ヵ月の短い期間でほとんどの人が亡くなるものと思っている人も多いようです。
また、最も問題なのは、余命宣告されたら生き残る可能性がほとんどない、と勘違いしてしまうことも多く、この点が医師が思っている余命と相違があり、大きな勘違いを生む根源となっています。また、余命宣告という言葉はあまりに重い言葉であって、これが与える精神的なダメージも大きな問題となります。
実際の医療において、余命宣告はどのようにされているでしょうか? 実は、余命宣告にはこうしなさいという明確なルールがあるわけではなく、医師が行っている方法も様々です。
中には、誤解を生むため好ましくないという考えから、そもそも余命宣告しない医師もいます。それに対して、治療の厳しさを理解してもらうために、必ず伝えている医師もいたりします。また、8ヵ月などの1つの数字をいう医師もいれば、2〜3年などとかなり幅をもたせて伝える医師もいます。
医師側が告知する目的は、患者側に情報を提供するのみでなく、患者側が期待していた予後よりも早くに亡くなり、治療が悪かったのではとトラブルになるのを防ぎたいという意図もあります。
医師側の問題点としては、全ての医師が完全に患者側の余命に対する理解の程度や、受け取り方を把握していないことで、時に余命宣告することで医師患者関係が悪くなるケースも実際に見受けられます。