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【社説】

「残業代ゼロ」 議論尽くされていない

 「残業代ゼロ」との批判のある高度プロフェッショナル制度(高プロ)を含む関連法案が衆院通過の勢いだ。修正が検討されているが、過重労働への懸念が消えない。やはり法案から削除すべきだ。

 「働き方」関連法案は、安倍内閣が最重要法案と位置付ける。それだけに政府・与党の国会審議は結論ありきで進められてきた。納得できる審議ではない。

 自民、公明両党は法案処理を加速させるため強気の国会運営も辞さない構えだが、働く人の命にかかわる法案だ。拙速な採決は慎むべきである。

 高プロは法案の柱のひとつである。年収の高い専門職を労働時間の規制から外す全く新しい働き方だ。議論して詰める課題は多い。

 与党と日本維新の会、希望の党は高プロの適用を受けた労働者が自らの意思で解除できる規定を新たに盛り込むことで合意した。

 高プロ適用には働く本人の同意が必要だが、そもそも経営者と比べ立場が弱い労働者は求められれば同意させられる懸念がある。それを本人の意思で解除することはさらに難しいのではないか。

 国会審議で問題になっているのは、長時間労働規制の枠から外す働き方になれば際限なく働くことになるという不安だ。野党が「働かせ放題」と批判する点はここにある。労働時間把握がされないと労災認定もされにくくなるとの指摘もある。

 政府は、時間も含め仕事の進め方を自ら決められる裁量のある人の働き方だと言う。だが、多くの人に仕事量を自分で決められる裁量権はないことが実情である。

 国会審議で加藤勝信厚生労働相は、高プロにもニーズがあると説明したが、そのヒアリング対象となった労働者は十数人だけだったと認めた。裁量労働制を巡る厚労省のずさんな調査といい、議論の前提となる情報も十分に提供されていない。

 一方で、非正規雇用の待遇改善を進める「同一労働同一賃金」に関する議論は低調だ。

 国会開会中にも、裁量制で働く二十代男性が過労死認定されていたことが分かった。長時間労働をさせる温床になっていないか。裁量制は法案から削除されたが過労死が起きている。働く人の健康をどう守るのかは今国会で議論すべき課題だろう。

 論点の多い八本もの法案を一括提案した政府の責任も重い。

 とても議論が尽くされたとは言えない。 

 

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