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【安倍番の掟】『隠し廊下』がクセモノ
更新産経新聞の政治面には「安倍日誌」という記事が毎日、掲載されている。安倍晋三首相が何時何分に、どこで、誰と会ったのか。その動静が克明に記録されている。この安倍日誌を作るのも、首相番の仕事の一つだ。
なかなか骨が折れる。一国の首相ともなれば、一日に何人もの要人や著名人と面会する。首相番は官邸に訪れる全ての人物に駆け寄り、宛先が首相かどうかを確認する。首相宛なら、その人物の名前と面会時間を安倍日誌に反映する。
誰に会うか、宛先を明かさない来客も多い。そんな時は、マスコミ各社の首相番が詰める「番小屋」と呼ばれる部屋に設置されたモニターで行き先を確認する。
モニターには首相と菅義偉官房長官の執務室前の廊下が映し出されている。その人物が首相執務室に入ればビンゴ。首相の面会者と判断することができる。
ただし、官邸にはいくつもの“隠し廊下”がある。そこを通れば、番小屋のモニターに映らないように首相執務室に入ることもできる。
しかも、首相と官房長官の執務室は室内の扉でつながっている。この扉を使い、記者には来客は官房長官宛てと見せかけ、実は首相と会っているケースもある。首相番にとって隠し廊下やこの扉は、実にやっかいな“クセモノ”だ。
こんなエピソードがある。今年4月8日、胡耀邦・元中国共産党総書記の長男、胡徳平氏が官邸を訪れた。表向きは官房長官に面会とのことだったが、後日、実は首相とも会っていたことが日中関係筋から明らかになった。冷え込んでいる日中関係の改善のきっかけを模索するため、意見を交わしたという。
当然、8日の安倍日誌に胡氏の名前はない。ただ、午後5時33分から6時6分までの間に“空白の33分”がある。そしてその時間帯は、胡氏が官邸を訪れていた時間帯と一致する。手元の記録では、胡氏は午後4時54分に官邸に入り、6時8分に出ている。
首相番としては歯噛みする思いだが、後の祭りだ。しかし、これはほんの一例に過ぎない。オープンにされていない面会者は、このほかにも無数にいるはずだ。それを念頭に、安倍日誌を裏読みしてみるのも、一興かもしれない。
(石鍋圭)
石鍋圭(いしなべ けい)32歳、B型。経済誌の記者を経て平成25年、産経新聞入社。同年11月から政治部官邸クラブ総理番。趣味は録画したTVドラマを休日に一気に鑑賞すること。おすすめは「MOZU」と「軍師 官兵衛」。歴史小説、警察小説も愛読。