【シゴトを知ろう】リサーチャー ~番外編~
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クイズ・バラエティ・ドラマなどさまざまな番組の企画・制作のためのリサーチを行うリサーチャーの仕事。その第一線で活躍してきた喜多あおいさんは、最近は「調べる」ことを教える活動にも力を入れているそうです。そんな調べ物のプロである喜多さんにリサーチ能力を磨くコツや、悲喜こもごも!?のリサーチャーの習性についてのお話などを伺いました。
この記事をまとめると
- 何かに触れて感情を動かすことで「連想力」を鍛えよう
- 日常会話では固有名詞と数字を意識して入れてみよう
- 憧れのスターを基点に社会を学べることもある
アイデアはゼロから作られるのではなく経験値が集合したもの
――リサーチャーとしての能力を鍛える方法はありますか?
何かを見たときに別の引き出しがポンポン開いていくような「連想力」を鍛えるといいかもしれません。特別な訓練は必要ありません。何かに触れたときに感情を動かすことを意識してみてください。何もないときは書店で本の背表紙を眺めたり、本や雑誌をめくるだけでも目に入ってくる情報が頭を刺激してくれます。
リサーチャーは調べたものをもとに企画・構成する力も求められますが、それを鍛えるには日常会話で固有名詞と数字を入れて、話を具体的にすることを意識するといいですよ。「自分には想像力や発想力がないから」と思っている人がいるかもしれませんが、あらゆるアイデアがあふれている現代ではゼロからアイデアを発想することは難しく、経験値が集合したものがアイデアになるんです。ですからたくさんの情報を自分の中に集積することが大切です。
――リサーチのスキルはどんなことをするにも役立ちそうですね。喜多さんは高校時代は憧れのスターの情報をリサーチしていたそうですが、そうしたことから始めるのも良いのでしょうか
特に日本や私が好きな香港のような小さな国ではスターが社会に与える影響は大きく、憧れのスターを基点に社会の動きを学べることもあります。誰かを好きになると、その人に関係するもの全てを知りたくなりますよね。そうして知ったことがどこかで別の場所でつながることがありますが、私はその幸せな循環があるから調べ物の仕事を続けてきたともいえます。
私が最初に好きになったスターは長嶋茂雄さんなのですが、彼が尊敬する佐倉惣五郎という江戸時代の名主についてもたくさん調べました。おかげで当時の年貢のしくみや歴史を学ぶことができ、その知識が仕事に役立ったこともあります。今ならTwitterでその人のファンをフォローすれば、どんどん情報が入ってきますよね。今だけでなくこの先ずっと定点観測していくと、その人を軸に社会の変化も感じられて楽しいですよ。
情報の「裏を取る」のはリサーチャーの習性
――リサーチャーになりたいと思ったらどうしたらいいのでしょうか
最近はリサーチ会社も増えましたから、片っ端から受けて相性を確かめてみるといいと思いますよ。気をつけてほしいのは構成作家さんの事務所で募集されているリサーチャーの求人です。私もそこからキャリアを始めたのですが、周りからは作家志望の見習いリサーチャーだと思われ、それをマイナスに感じたこともありました。作家さんの事務所でリサーチャーを貫くなら、それなりの覚悟が必要です。勉強できることはたくさんありますがリサーチ会社に入るのが早道かもしれませんね。
――リサーチャーの職業病のようなものってありますか?
何かのキャッチコピーで「日本一!」「世界一!」「ここだけ!」というのを見かけると、「本当にそうなの?」「断言して大丈夫?」と人ごとながらドキドキします(笑)。
プライベートでも気になる情報を見つけたらつい裏を取ってしまうという習性も。先日も鷹の生態に関する記事を読み、興味を持ちました。鷹は衰えてくると、自らクチバシを折ったり羽をむしったりして、痛みを伴う再生をすることでさらに強くなるという内容だったのですが……「人間も同じかも!」と感動しつつ、念のため調べました (笑)。そしたら、その話のニュースソースになったと思われる情報を見つけ、さらにそれがデマであることを検証した信憑性の高い記事を見つけてしまったんです……。「いい話だな〜」で終われば良かったのですが(笑)。
――それはショックでしたね(笑)。でも世の中には誤情報も多いので「裏を取る」ことは大事な習慣ですね
そうですね。実は鷹の話もその後「うそだったと言ったほうが面白いからそうしているのかも!?」と疑ってさらに調べたんです。そしたら動物の習性に関して、動物園の飼育員さんと野生動物の研究者とでは見解が異なる場合があることがわかりました。なので正解はまだ分かりませんね。
この話からは「正解は一つではない」ということも分かります。誰かにとっての真実が自分にとっての真実であるとは限りません。その人の立場や見ているものによって答えは変わりますし、時間が経って進歩して意見が変わることもあります。それを知ることで救われる人はたくさんいるのではないでしょうか。Twitterでも意見が対立しただけで争いになったり炎上したりすることがありますが、情報の扱い方の作法を知るだけでそうした無用な被害を減らせますし、人に対してもっと寛容になれると思うんです。
――そのために「調べ物」のノウハウを教えることも始めたそうですが、具体的にどんな活動をされているのでしょうか
大学の先生や企業の方などから声がかかり、「調べ方」に関する講座や講演などを行っています。また、私がリサーチを担当したNHK/Eテレの『メディアのめ』というメディアリテラシーを学ぶ番組は小学校の授業でも使われています。私も講師の一人として出演したのですが、番組を観た子どもたちから辞書を引く楽しさを知ったという反応がありうれしかったですね。今後はもっとこうした活動を広げていきたいです。まずその一環として昨年、掲載写真の背景にあるような「辞書と事典の資料室」を、オフィスとして開設しました。
――情報社会に生きる現代の高校生にとっても「調べ方」は重要なスキルですね
高校生の皆さんに「調べ方を学ぼう」というと、「自分は勉強が苦手だから」「そこまでバリバリ働くつもりはないから」と敬遠する人もいるかもしれませんが、むしろそういう人にこそ、要領よく生きていくための情報は助けになると思うんです。自治体の助成金の情報などもそうです。情報格差は今後ますます広がっていくでしょうから、基本的なことだけでも知っておいてほしいなと思うんです。たくさんの人の役に立ちたいと思っていますので、興味のある方・オフィスを見学したい方・質問のある方はぜひご連絡くださいね。
大好きな「調べること」を軸にキャリアを深めた喜多さん。その原点が憧れのスターの情報を調べることだったというのは、きっかけは身近なところにあると感じられるエピソードだったのではないでしょうか。皆さんにも、今好きなこと・やりたいことに将来につながる種が潜んでいるかもしれませんね。
【profile】株式会社ズノー 知的生産計画室 執行役員/テレビ番組リサーチャー 喜多あおい
http://www.zuno.tv/
この記事のテーマ
「マスコミ・芸能・アニメ・声優・漫画」を解説
若い感性やアイデアが常に求められる世界です。番組や作品の企画や脚本づくり、照明や音響などの技術スタッフ、宣伝企画など、職種に応じた専門知識や技術を学び、実習を通して企画力や表現力を磨きます。声優やタレントは在学しながらオーディションを受けるなど、仕事のチャンスを得る努力が必要。学校にはその情報が集められています。
この記事で取り上げた
「リサーチャー」
はこんな仕事です
テレビやラジオの番組を制作する際に、「ネタ」となる情報を調査するのが仕事。仕事の流れとしては、まず企画のコンセプトに合う情報を新聞や雑誌、インターネット検索などを通じて調査し、企画会議に提出する。そして、会議で決定した内容にふさわしい取材先を探し出し、取材交渉を行うまでを担当。企画の内容によって必要となる情報は変わるため、特定の事柄に詳しいことよりも、どのような種類の情報でもきちんと探し出せる「リサーチ能力」が求められる。ADや放送作家がこの仕事の役割を兼ねている場合もある。