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カンヌ最高賞・是枝監督「万引き家族」が問う、いびつな家族のきずな

「家族を描く理由」を本人も知らない

「家族とはなにか?」を問い続けてきた

第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にて是枝裕和監督の「万引き家族」がパルムドール賞を受賞した。

審査委員長のケイト・ブランシェットは閉会式で今年の大きなテーマを「invisible people(見えない人々)」であるとしたが、まさに是枝監督は一貫して「見えない人々、家族」を描いて来たとも言える。

2004年、同映画祭において柳楽優弥が史上最年少および日本人として初めての最優秀主演男優賞に輝いた「誰も知らない」、2013年審査員賞に輝いた「そして父になる」、「歩いても歩いても」「海よりもまだ深く」「海街diary」……昨年公開され日本アカデミー賞作品賞を受賞した「三度目の殺人」でも、理想や標準とされる「家族のかたち」から外れた人々の姿を可視化させ、「家族とはなにか」を問いかけ続けている。

 

昨年12月、拙著『無戸籍の日本人』(集英社)の文庫化にあたり、巻末に収録する対談を是枝監督にお願いした。

「誰も知らない」のモデルとなった子どもたちは、出生届が出されない「無戸籍児」だった。今年で事件から30年、映画公開からは14年目となるが、こうした大きな社会的問いかけをされたにも関わらず、無戸籍問題は解決を見ていない。

拙著は無戸籍当事者たちの暮らしや政策決定現場を書いたノンフィクションであるが、冒頭で「誰も知らない」について言及していた。

是枝監督は今回の受賞作となった「万引き家族」の撮影予定をずらして、対談に応じてくれた。その理由を「責任」という言葉を使って説明した。

つまり、映画監督とは、映画を撮り終えても、それを社会に対して発信した以上、その影響がいろんな形ではね返ってくることに対しても「撮った側の責任」があると。

「正直言うと、仕方がないから」と苦笑いしたが、映画が公開されて相当の月日が経っても、是枝監督は日々、自分が作り出し、世に問うた作品とその影響に対して真摯に向き合い、社会的責任を果たそうとしているのである。

「万引き家族」も含め、作り続けられる作品もその役目を担っているのかもしれない。

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「巣鴨子ども置き去り事件」から30年

「誰も知らない」のモチーフとなった「巣鴨子ども置き去り事件」とは1988年東京都豊島区で発覚した保護責任者遺棄事件である。

母親ひとりで、4人の子どもたちを育てていたが、長男に養育を託し、母親は長期不在を繰り返す。実質育児放棄状態の中で、大家が警察に通報。三女が長男の友人に暴行を受けて死亡していたことが発覚する。

捜査の過程で、子どもたちは全員出生届が出されていない無戸籍児だったことがわかる。学校からも、社会福祉の枠からも外れた、まさに「誰も知らない」存在だった。

事件の翌年、当時20代だった是枝監督はこの一家をモチーフに脚本を書き始める。

当初タイトルは「誰も知らない」ではなく、「大人になったら、僕は」だった。