「プロのための著作権研究所」所長(所員なし,募集中)
の弁護士・診断士の柿沼太一です。
問:私はある放送局のディレクターです。私がディレクション
をし,当局が制作し放送した番組について,ある電子掲示板に
「この番組の録画DVD持っている人いませんか。コピー
させて~」という書き込みを発見しました。
個人的には番組が人気を博しているのは嬉しいのですが,
やはり会社的にはこのような無断コピーは困る,という訳
で書き込みをした人に,やんわりと注意をしたいのですが,
法律的に可能でしょうか。
答え:
まず,当然ご存じかと思いますが,テレビ番組を
個人的に視聴するために録画することは,著作者等に
許諾無く自由に出来ます(著作権法30条1項等)。
いわゆる「私的使用のための複製」ですね。
では,「私的使用のための複製」が自由に出来る以上,
このような「私的使用のための複製」したものを誰彼
構わずコピーさせたり,あるいは「コピーさせてあげますよ」
と言ったりする行為は適法なのでしょうか。
それをされると「私的」と言ってもほとんど制限が
かからないので,実質的に自由に著作物を利用できる
ことになってしまいますよね。
それではおかしいので,「私的使用」であっても
「目的外使用」である場合は無許諾での使用は許されない
ということになっています。
具体的には,著作権法40条1項1号において
以下のように定められています。
次に掲げる者は、第二十一条の複製を行つたものとみなす。
一 第三十条第一項、(中略)に定める目的以外の目的
のために、これらの規定の適用を受けて作成された著作物
の複製物(次項第四号の複製物に該当するものを除く。)
を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物を公衆に提示した者
(後略)
つまり,私的使用のために複製することは適法であっても,
それを「頒布」したり,「当該著作物を公衆に提示すること」
はダメですよ,ということになっています。
そして,「頒布」とは,著作権法2条1項19号において
以下のように定められています。
十九 頒布 有償であるか又は無償であるかを問わず、
複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の
著作物又は映画の著作物において複製されている著作物に
あつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として
当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含む
ものとする。
特定人では無く,「公衆」(一般的には「不特定多数」の
人を意味しますが,著作権法では,「特定かつ多数の者」
も含みます)に譲渡したり,貸したりする行為ということですね。
このような行為をすることは,たとえ私的使用のために
複製した者であったとしても,著作権法21条の「複製」
をしたことになってしまい,著作者の許諾無しにそのような
行為を行うことは著作権法違反になります。
本件のようなネットの掲示板の書き込みに対して当該DVD
を提供する行為は,不特定の第三者に対して著作物を譲渡
する行為,すなわち「頒布」に該当しますので,アウト
ということになりますね。
もっとも,逆に言えば「特定少数」の人に対して私的複製物
を譲渡する行為,たとえば,友人間で,TV番組を録画した
DVDをやり取りするような行為は「頒布」には該当しません
ので,目的外使用とは言えず,適法ということになります。
今日はここまで。