米、イランに「史上最強の制裁」 イラン強く反発
マイク・ポンペオ米国務長官が21日、イランに「史上最強の制裁を科す」と包括的戦略を発表した。これに対してイランのジャバド・ザリフ外相はは、米国は自らの「失策」にがんじがらめになっていると反発した。
ポンペオ長官は、米英独仏中ロ6カ国とイランが2015年に結んだ核合意によって解除した経済制裁を復活させると発表。「イラン政権に対して、前例のない経済的圧力」が科せられることになり、制裁の効果が出るようになれば、イランは「経済を生き延びさせるのに必死になる」と述べた。
米国による核合意以前のイラン制裁は、イランとの貿易をほぼ全面的に禁止していた。例外は、「イラン国民の利益を意図した」、医療・農機具の輸出など一部の活動に限られていた。ドナルド・トランプ米大統領は8日、オバマ前政権が締結したイラクとの核合意から離脱すると発表した。包括的共同作業計画(JCPOA)と呼ばれる合意は、イランの核計画制限と引き換えに、国連と米国、欧州連合(EU)が同国に科していた経済制裁の解除を定めたもの。
ポンペオ長官は、具体的にどのような新措置を検討しているか明らかにしなかった。その一方で、財務省が15日、レバノンのイスラム教シーア派武装組織「ヒズボラ」の資金調達を支援したとして、イラン中央銀行のバリオラ・セイフ総裁に経済制裁を科したことなどは、「始まりに過ぎない」と強調した。
長官は、イランとの新しい取引交渉の前提条件として、シリアからの完全撤退や、イエメン反政府勢力への支援停止を挙げた。
米政府のこの発表を受けて、イランのザリフ外相は、米国が「古い慣習に退行している」ものの、イランは他の核合意の当事国と主に解決に向けて協力していると述べた。
イランのハッサン・ロウハニ大統領は、前中央情報局(CIA)長官のポンペオ国務長官がイランと世界全体に成り代わって何かを決断する資格があるのかと問いただした。
ポンペオ長官は、イランに対する米国に包括的戦略に同調するよう諸外国に呼びかけた。しかし、EUのフェデリカ・モゲリーニ外務・安全保障政策上級代表は、米国を批判し、2015年核合意放棄がどうやって中東の平和改善につながるのか、ポンペオ長官は明示できなかったと指摘した。
モゲリーニ氏は、核合意に「代わるものはない」と述べ、イランが約束を履行するならばEUは合意を堅持すると言明した。
この一方で、核合意締結後にイランとの取引を開始した欧州企業は、イラン投資を継続するのか米国との取引を優先するのか、二者択一を迫られている。
イランは世界有数の産油国で、年間数十億ドル分の石油と天然ガスを輸出している。
国際制裁が科せられている間、イランの産油量と国内総生産(GDP)は大きく後退した。
米国の制裁は即時に復活するわけではなく、イランと取引する企業には契約内容によって3カ月や半年の猶予期間が与えられる。
ポンペオ長官は、対イラン制裁についてEUの同調を想定していると明示したほか、「オーストラリア、バーレーン、エジプト、インド、日本、ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、韓国、アラブ首長国連邦」も名指しして、支援を求めた。
なぜ米政府はイランが中東の脅威だと
イスラム教シーア派を国教とするイランは、イラクからレバノンまで他の中東地域に点在するシーア派地域に対する影響力を拡大してきた。
イスラエルは、イランがレバノンのヒズボラ運動を支援していることを強く警戒している。イスラム教スンニ派の盟主を自認し、長年イランと対立してきたサウジアラビアは、イランがイエメンの反政府勢力を支援していると非難する。
シリア内戦ではバシャール・アル・アサド政権を支援する数少ない外国勢力で、多数のシーア派民兵や軍事顧問をシリアに送り込んでいることも、米国をはじめ諸外国から警戒されている。
イランは、自国の核開発はあくまでも平和的原発利用のためだと主張している。核合意では、兵器級プルトニウムが製造できないよう重水施設に変更を加えることに同意した。
しかし、イスラエルはイランが核兵器をひそかに開発していると主張してきた。トランプ米大統領は、核合意について「この衰えて腐った合意内容では、イランの核兵器を阻止できないことは自明だ」と非難した。
国際原子力機関(IAEA)は今年3月、イランが核合意内容を履行していると確認している。
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<解説> 外交的煙幕?――ジョナサン・マーカスBBC外交担当編集委員
これが米国が用意したイラン「プランB(代替案)」だ。制裁圧力を強めて、イラン政府に新しい外交取引を受け入れさせようというのだ。この筋書きではイランは、核開発だけでなくミサイル開発や中東地域全体における行動についても、今まで以上の幅広い制約に応じなくてはならない。
確かに厳しい内容だが、まったくもって非現実的かもしれない。制裁が効力を発揮するには、包括的でなくてはならない。トランプ大統領が放棄したJCPOA合意がそもそも実現したのは、国際社会がまとまって長期にわたり圧力をかけ続けたからだ。米国が同盟国として協力を求める欧州各国は、既存の合意を継続したいと考えている。そしてロシア、中国、インドが米国に圧力に屈するとは考えにくい。
同盟国をはじめ各国に、イラン貿易を諦めるよう無理強いするのは、より幅広い外交関係を様々な形で損なう危険がある。
この「政策」は実現不可能だと専門家は批判するかもしれない。これは単に、イランの政権変更という根本的な目標を米国が、外交的煙幕でごまかそうとしているに過ぎないと。