福岡県立図書館の「屋上庭園」 なぜ、開放しない? 植え込みにベンチ “オアシス”に施錠
蔵書約87万冊を誇る福岡県立図書館(福岡市東区)に、知る人ぞ知る「屋上庭園」がある。きちんと手入れされているのに、普段は施錠されているという。「開放しないのはなぜ?」。同区の50代男性から、特命取材班に疑問の声が寄せられた。確かに、本を読んで疲れた目を休める“オアシス”になるはずなのに、もったいないような…。
図書館の建物を正面下から眺めたが、庭園らしきものは見えない。エレベーターで本館3階に上がって左側に行くと、あった。採光用の窓の外にある屋上スペースに植え込みが並んでいて、ベンチもある。ただ、そばの窓には「非常時以外利用できません」。
同図書館総務課によると、1983年に移転・開館した当初から、このスペースはあった。2008年に利用者からの要望を受け、いったん開放したものの、隣接する別館とつなぐスペース脇の階段で利用者が転倒する事故が起きたため、安全面から立ち入りを制限することにしたという。
現在は火災発生時の避難経路になっているが、普段は開放していない。記者は館内にいた利用者5人に訪ねてみたが、誰もスペースの存在すら知らなかった。記者が調査依頼を説明すると、職員も「依頼者の方はなぜ知っていたのでしょう」と驚いていたほどだ。
依頼者の男性に聞くと、利用者が多い週末に休憩場所を探していたところ、たまたまこのスペースが目に留まったという。数年前、県に理由を尋ねたこともあったが、納得いく答えではなく、ずっともやもやした思いを抱えていたと話す。
開放はできないのか。総務課副長の末吉大祐さんは「管理上の問題から難しい」と表情を曇らせる。図書館は幅広い世代、さまざまな人が出入りする公共施設。文部科学省の定めた基準に照らすと、バリアフリー化が必要になるからだ。
事故があった階段は雨で滑りやすい素材も使われており、スペースの入り口は狭く段差もある。開放する場合、段差を減らしたり、点字ブロックを設置したりなど改修の必要がある。職員の定期的な巡回も欠かせない。
予算の制約もある中、現時点では「エレベーターの改修や書庫増設の方が優先度が高い」と末吉さん。年2回、草木を刈り込みする作業だけで精いっぱいと打ち明けた。
取材班が調査結果を伝えると、依頼者の男性は一定の理解を示した。その上で「せめて混雑する週末の昼間だけでも利用できれば」と柔軟な対応を求めた。
同図書館の年間利用者数は約40万人に達する。誰でも利用できるように、バリアフリー化は大切なこと。さらに憩いの場が増えれば利用者に喜ばれるだろう。
記者が屋上庭園を訪れたのは、霧雨が降った直後の昼下がり。雨粒でしっとりとぬれたベンチは寂しそうに誰かを待っているようにも見えた。
=2018/05/21付 西日本新聞夕刊=