小手先の修正では労働者保護は図れない。

 安倍政権が今国会の最重要課題と位置付ける働き方改革関連法案を巡り、自民、公明両党と日本維新の会、希望の党は「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」などの一部修正で正式合意した。

 6月20日の国会会期末をにらみ、週内にも衆院での採決に持ち込みたい考えだ。

 法案は高プロ適用には本人の同意が必要だとしているが、その後の撤回の定めがない。このため4党の修正案では、高プロとして働く人が同意した後に、撤回できる手続きを明記する。

 企業側と労働者側には現実には力関係が歴然とある。いったん高プロ適用になった労働者側の心理的な負担を考えると、強い立場にある企業側に対して簡単に撤回の意思表示ができるかどうか疑問だ。

 高プロは高度の専門的知識を必要とする年収1075万円以上の労働者が対象。労働基準法で定める「労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定」のすべてが適用除外となる。

 野党や過労死遺族らが「残業代ゼロ法案」「過労死促進法案」と批判するのはこのためである。

 本格審議が始まってわずか約2週間にすぎない。与党は採決のスケジュールを具体化しているようだが、議論が煮詰まっているとはとてもいえない。

 拙速な審議のまま与党が数の力で強引に採決することをもくろんでいるとすれば、結論ありきである。暴挙というほかない。

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 法案の信頼性も揺らいでいる。

 安倍晋三首相が1月の衆院予算委員会で「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、一般労働者より短いというデータもある」と答弁。しかし基になった厚生労働省の「2013年度労働時間等総合実態調査」は裁量労働制で働く人と一般労働者で手法の異なる不適切なもので、多数の「異常値」が発見された。

 そのため政府が当初目指していた裁量労働制の対象拡大の削除に追い込まれた。

 厚労省が今月15日に公表した再調査で、対象の1万1575事業所のうち、2492事業所で誤りや不合理なデータが確認された。全体の約2割に上る。労働政策審議会が法案を議論する上で出発点となったデータである。ずさんというしかない。

 共同通信社が5月に実施した世論調査では、今国会で成立させる「必要はない」が68・4%に上った。4月の調査でもほぼ同じである。国民の強い懸念がうかがえる。

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 法案には罰則付きの時間外労働(残業)の上限規制や同一労働同一賃金の導入もあるが議論は深まっていない。残業規制が認める繁忙期の上限「100時間」は過労死ラインであり、野党の対案と併せた議論が必要だ。

 規制緩和と強化の8本の法律を「束ね法案」として一括提案したのも問題である。

 国民の声に真(しん)摯(し)に向き合うならば、ここはいったん法案を取り下げ、労働政策審議会に差し戻すのが筋である。