読書初心者むけの、異世界へいざなってくれる本3冊

異世界転生の話ではありません。今回は、我々を平凡な日常から、異世界へいざなってくれる本を挙げてみようと思う。この「いざなってくれる」という部分を大事にしており、今回挙げる3冊はどれもこの世界と異世界が地続きになっている本だ。スターウォーズやロード・オブ・ザ・リングのように、今我々が暮らす世界からかけ離れた異世界はいくらでもある。肝心なのは、この世界からいつの間にか、どこからともなく気がつけばそこは異世界と化している点であり、二つの世界が地続きであるからこそ身近に感じ、自分の先にある出来事として認識でき、感情移入しやすくなっている。今回選んだ本は全くそういう意図で書かれた本ではないんだけど、それぞれの違った異世界へ我々をいざなってくれる。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実

この本は日本人の米原万里という翻訳家兼作家が書いたノンフィクションで、本人にとってはまごうことなきリアルを描いた本だったりする。でも僕らから見れば、こんなの異世界でしかない。どんな異世界かというと、東欧である。いわゆる旧ソ連圏、東側諸国、ワルシャワ条約機構にあたる。冷戦時代を西側諸国として過ごした我々日本人にとって、東側諸国は異世界以外のなにものでもない。しかし同じ日本人である米原万里というフィルターを通して、我々の目に映らなかった東欧のリアルが地続きとして、この本で繰り広げられる。

本が書かれたのはソ連崩壊後だが、著者は冷戦時代に10歳から14歳までの4年間を、旧共産圏のチェコスロバキア、プラハで過ごしていた。そこには我々が知る由もない、旧共産圏の異なる価値観を基盤とした、生々しい普通の生活があった。彼らが何をどのように学び、どう考え、そしてソ連崩壊と共にどのように変化していったか。著者はやがて大人になり、当時の同級生を訪ね、"旧"となった共産圏各国を周る。その過去と現在、我々と同じ日本人から見る東欧の一部始終を垣間見る。

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)

嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)

ワセダ三畳青春記

辺境作家、高野秀行の若かりし日々を描いた作品。著者の本はどれもこれも異世界的な外国の風景を取材したものばかりだが、「この世界と地続き」という点においてはワセダ三畳青春記がぴったり当てはまる。読んだことがない人からすれば、東京の早稲田を舞台にして「どこが異世界なの?」と思うかもしれない。しかし早稲田でありながら、この異世界っぷりはすごい。我々が過ごしている日常と全然違い、身近なところにこんな異世界があったなんて!という驚きが満載だ。

時代は80年代終盤から2000年代、バブル崩壊からITバブルを経たゼロ年代に相当する。日本経済は未曾有のジェットコースターを経験していた。その中心地である東京にて、家賃12,000円の木造アパートに11年住んでいた著者。著者の在籍していた早稲田大学からも早稲田駅からも徒歩圏である。その時点で既に異世界っぷりを発揮しているが、その野々村荘で巻き起こる事件は、これが平成中期とはとても思えない異世界感を醸し出している。具体的には、超低予算の生活スタイルもそうだが、そこで過ごす住民たちと彼らの行動が、当時の日本の常識からはかけ離れている。

ワセダ三畳青春記 (集英社文庫)

ワセダ三畳青春記 (集英社文庫)

ねじまき鳥クロニクル

さて、ノンフィクション、エッセイと来て最後は村上春樹です。中でも著者の最高傑作との呼び声が高い「ねじまき鳥クロニクル」は、日常から非日常の異世界へ誘われる感じが他の作品と比べても非常によく出ている。村上春樹の海外での位置づけは、マジカル・リアリズムを描く作家だということで、ガルシア=マルケスなどの系統として評価されている。マジカル・リアリズムとは、まさに現実からいつの間にか異世界へ迷い込んでいる世界観そのものである。

「ねじまき鳥クロニクル」は1994年から95年に書かれた長編小説だが、当時の時代性はあまり感じない。やや倦怠気味の夫婦生活を送っていたところに、1本の電話がかかってきたことから徐々にファンタジー世界へと引き込まれていく。それから主人公岡田亨は、現実と異世界を行ったり来たりしながらその両方で歩みを進めることで、少しずつ問題を解決の方向へと導いていく。他の村上春樹小説では、「世界の終わり」みたいに現実がそもそも現実っぽくなかったり、「羊をめぐる冒険」のようにそれほど異世界へ踏み込まないものなどがあったが、「ねじまき鳥」では明確に分かれており、誘われ、行き来しているところが我々にもわかりやすく地続きとなっている。

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)

他にあったら教えてください

それぞれ別のジャンルから選んできたが、他にこういうのあるっていうご意見があれば教えてください。海外文学だと、まず前提として描かれる現実部分にあまり親近感を得られないため難しい。SFだとゲームになるが「シュタインズ・ゲート」あたりが今回のテーマに近い。戦争・紛争をテーマにした作品はありそうだが、ぱっと思い浮かばない。異世界にいざなわれる系フェチです。僕も現実と異世界を行き来したい。

それぞれの感想

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