SC軽井沢の陽気なメンバーの横にはいつも、クールなはと美コーチ(左端)の姿があった(2016年、アジアパシフィック大会初制覇)
オリンピック

日本カーリング界の「ゴットマザー」が遺した愛弟子へのメッセージ

男子代表コーチ長岡はと美インタビュー
北海道北見市常呂町で開催されていた「全農2018パシフィックアジアカーリング選手権大会日本代表決定戦」。男子は平昌五輪代表のSC軽井沢クラブが、2月の日本選手権を制したチームIWAIをくだし、来季の日本代表の座に就いた。だが、SC軽井沢クラブのコーチボックスにはあの人がいなかった。そう、クラブ創設からチームを率いたグレイト・ピジョンこと長岡はと美コーチだ。平昌五輪後、既に勇退を発表していたが、今回、その理由や、両角兄弟、藤澤五月ら愛弟子たちの秘話、そして彼女が描く日本カーリング界の未来像について存分に語ってくれた。

ご飯好きの藤澤のために4時起きで炊き出し


ーーまずは、今回のスウェーデン遠征、お疲れ様でした。

「お疲れ様でした。でも、リンド(JD・リンドナショナルコーチ)もいたし、私はコーチっていうよりメシ炊きババアだったけどね」

ーーはと美さんって、ときどき自虐的に「ババア」とか言いますが、そのまま書きますよ?

「いいわよ、だって本当のことじゃない」

 

ーーでは、なぜメシ炊きババアに就任したか、その経緯から教えてください。

「山口と五月が全日本(ミックスダブルス日本選手権/3月青森市)で組んだでしょ。『勝ったら、はと美さん、一緒にスウェーデン行きましょうね』とは言われてたのよ。本当に勝ったから引っ込みがつかなくなった」

山口(左端)、藤澤山口(左端)、藤澤山口(左端)、藤澤、五輪にも帯同した鵜沢将司トレーナー(右端)と、直前の調整の一コマ。現地のカーリングクラブにて

ーー現地にはたくさん食材を持ち込んだとか。

「全農さん(日本カーリング協会オフィシャルパートナー)が、つや姫をたくさん提供してくれたので、お米はそれ」

ーー山形のブランド米っすね。うまそうだ。おかずは?

「ヤオトクさんでレトルトとかパウチのものを。あとは、ご飯のお供とかふりかけとか」

藤澤五月に、「この世のすべてのおかずは、ご飯を美味しく食べるためにあるのです」という名言を吐かせたヤオトクの商品

ーーこちらは、SC軽井沢クラブのスポンサーですよね? チームの垣根を超えた素晴らしい話ですね。

「(藤澤)五月が本当に白米が好きで、こっち来てから『夕飯何にする?』と聞くと絶対に『ご飯!』だもの。魚のお惣菜をよく食べてた」

ーー今回、朝8時に競技が始まる日もありましたが。

「その日は4時起き。ババアは朝早いのよ。私の部屋で炊き出し」

ーーそれでも、はと美さん、まんざらでもないように見えますね。

「まあ、あの二人だしねえ」

ーー義理の息子でもある山口剛史選手(妻は、はと美さんの末娘・七重さん)と、かつて指導してた藤澤五月選手。彼女が長岡家に下宿してたのはもう8年前です。

「まだ18歳だったものね。早いねえ」

ーー当時はどんな娘だったんですか?

「五月が『世界で戦えるカーラーになりたい』って言ったのは覚えてるけど。うちって大家族だから、朝とかバタバタしてるのね。自分のことは自分でやる感じで、他人にあんまり干渉しないというか。そこにまだ18歳の五月がポンと来て、『何か私にも仕事をください』って」

ーー彼女なりに気を使ったんでしょうね。

「それから雪かきと、アトムとはじめという2匹のラブラドールの散歩は五月の仕事になった」

ーーよく知らない土地で不安もあったんですかね。

「まだ18歳だったけど、五月は本当に根性があった。やるって決めたら絶対やる子だからね。そういう意味ではカーラーというよりアスリートっぽい」

ーカーラーとアスリートの差というのは、どこにあるんですか?

「ストイックなアスリートに対して、カーラーはうまく言えないけど、緩みがあるような感じ。男子でいうと、酒飲んで、女にモテて、遊んで、でもすごいショットを決める、そういうのがカーラーのイメージ」

ーーアスリートの五月選手は、技術的にはどうだったんですか?

「ちっちゃい頃からずーっとカーリングしてきたから、投げのクセは強かった。でも、とにかく投げ込む子だったな」

中部電力の選手として出場した2011年のパシフィックアジア選手権(左端・藤澤、右端・長岡)

ーー本人も「練習量が多ければ、投げ続けてれば、うまくなるものだと思っていた時期もあった」と言ってました。その教え子が五輪でメダルを取ってこみ上げるものは?

「そりゃ、あるわよ。男子チームについては、コーチだったのであんまり泣いたり笑ったりできなかったけど、五月が五輪のアイスで頑張っているのを見ていいると、ある意味では男子に対してより感傷的になっていたかもしれない」