さて、こうした雇用のよさを背景として、働き方改革が行われている。一部野党は、働き方改革が労働者のためにならないと主張しているが、雇用創出という実績のある安倍政権に対してはあまり説得力がない。
当初、政府は、高度プロフェッショナル制度(高プロ)創設と裁量労働拡大を目指す法案を用意していた。ところが、裁量労働については調査データの不備があったので、裁量労働拡大については取り下げている。いま争点となっているのは、高度プロフェッショナル制度創設である。
高度プロフェッショナル制度は、高収入の専門職に限り、労働時間規制の対象から外すというもので、一部野党とマスコミはこれを「残業代タダ、過労死法案」と批判している。
そこで、法案自体を読みこんで、自分の頭で考えてみることにしよう。
法案名は正式には「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」といい、4月6日に国会に提出されている。
法案の中身を見たければ、国会のサイト(http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g19605063.htm)にあるので確認してほしい。
ただし、これは「改める文」という法案作成における独特の形式であり、一般の官僚でもちょっと読みにくい。むしろ、厚労省のサイト「「働き方改革」の実現に向けて」(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html)の中にある「新旧対照条文」(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-34.pdf)をみたほうがいい。これも130ページを超えるので、読みにくいが、問題の箇所は、新旧対照条文の11ページである。それを抜き出したのが、以下のとおりだ。
それらをまとめれば、前提として、
導入するには、企業の労使委員会の五分の四以上の多数の決議が必要。対象労働者の同意が必要。対象業務は高度専門知識、対象者は給与が平均給与額の三倍の額を相当程度上回る水準(収入基準)、使用者の義務は健康管理措置等。同意しなかったといっても、使用者は当該労働者に不利益な扱いはしない……
となる。これはかなり抑制的な書き方である。対象業務は「給与が平均の三倍基準」ということは、1000万円程度のものということになる。法定なので、法改正なしではこの基準は変更不可であるし、対象になりたくなければ同意しないこともできる。その場合にも、不利益はない。
一部野党とマスコミの批判は「平均の三倍基準としているが、これは将来法改正すれば変わりうるので反対する」という意味不明なものだ。
もちろん形式的にいえば法改正すれば変わるのは事実であるが、あくまで法案は現時点でこうしよう、としているものについて議論しなければ、政策論争はできない。