メンヘラ・アイデンティティの怖さと、アルコール・眠剤依存について
こんにちは、借金玉です。この度、メンヘラ.jpさんに「本の広告出して」って言ったら「現物決済で原稿書いて」って言われたので、原稿を書かせてもらうことになりました。そんなわけで、この記事の下の方に本の広告が出てると思いますので、何卒よろしくお願いします。
発達障害、あるいはグレーゾーン、あるいはよくわからないけど社会がダメな人のためのハウツー本になっております。仕事術と言いつつ一番言いたいことはそういうことじゃない、そんな感じに書きました、よろしくお願いします。
そんなわけで、今日はメンヘラ・アイデンティティの怖さというお話をしたいと思います。僕は発達障害者ですが、二次障害にガッツリ重い双極性障害(躁鬱病)があります。これで果てしなく人生トチって来ました。双極性障害とは「完全に動けません、もうだめです」というあの鬱期と「俺はなんでもできる!」という躁期を交互に繰り返す病気なんですが、僕は躁も鬱も割と重く、また躁と鬱のサイクルもイマイチ判然としない厄介なタイプです。
現在は服薬で躁を抑え込みながらなんとかそれなりに暮らせていますが、過去にはこれで大惨事を多々起こしました。躁鬱の怖いところは、躁で金を使いまくり、やらかしまくり、社会的にグチャグチャになったタイミングで鬱を迎えることで、この持ち上げて落とされる落差が致死性の高さ(20年で6%以上、生涯で10%以上が自殺するとされています)になっています。
躁鬱というのは病態だけでもおっかないのですが、僕はもう一つ「アイデンティティと癒着しやすい」というおっかなさを持っていると感じています。今日はそれについて語らせてください。
メンヘラ・アイデンティティ
精神疾患を患うのはとても辛いことです。やりたいこともやれず、人生は停滞し自分はこの先どうにもならないのではないかという気がいつもします。ここを読んでいる皆さんは高確率で鬱を経験していると思うので、このへんはわかると思います。しかし、僕の人生を一番派手に追い込んだのは躁の時のやらかしでした。オーバードーズ、社会的問題行動、ずいぶんやりました。躁のときはなんでも出来る気になるので、バイクなんかに乗ると狂ったスピードでコーナーに突っ込んだ挙句、肋骨3本を折り肩を脱臼したりもしました。お金を派手に使って経済的大惨事に陥ったりもしました。わけのわからない計画を立てて大失敗もしました。人間関係もひどいことになりました。
しかし、その一方で睡眠薬をザラザラ呑み、酒をかっ食らって大惨事を起こし続けていると「それが面白い」という人が現れます。また、「ちゃんとやる」ことは出来なくても、「ハチャメチャをやる」ということは可能なわけです。これがある種の承認になってしまう、という状況は起こります。いわゆる「メンヘラ芸」もこの流れで起きるものだと僕は思っています。なにせ、精神的疾病の底にあるときはあらゆる承認が不足しているのですから、これはほとんど麻薬です。
例えば、僕は人生のある時期、人と会う時は常に睡眠薬と酒をかっ食らっていました。当然、待ち合わせ場所にはヘロヘロで現れることになります。鬱の底で、そうでもしないと動けないというのももちろんあったのですが、「ちゃんとしようとしてもできないが、ハチャメチャをやると面白がってもらえる」という悪循環が明らかにありました。
これが悪化していった結果、僕は目を覚ましたら即睡眠薬と酒を呑むようになりました。そうでもしないと世界に向かえなかったのです。明らかにヘロヘロの人間には誰も厳しくしません、期待もしません。しかし、僕が起こすトラブルや失態は笑ってくれます。心配してくれる人たちはすぐにいなくなってしまいました。このようにして、メンヘラアイデンティティは際限なく強化されていきます。あるいは死ぬまで。
ドラッグとゆるやかな死
躁鬱による気分変動、強化されたメンヘラアイデンティティ、薬物依存、これらの背景にあったのは、明確に希死念慮だと思います。なにせ、「生きる」と考えるのはとても辛いことです。なにせ、生きるためには何かをしなければならない。憂鬱な明日に向かっていかなければいけない。布団から起きだして顔を洗わなければいけない。鬱の時に、これは地獄みたいな話です。今でもツイッターを検索すると「オーバードーズしました」「ロヒプノール2シート飲みました」「ブロンキメました」みたいな話が大量に見つかりますが、僕はその気持ちが痛いほどわかります。何を隠そう僕もほんの数年前まで、「剤入れます、ご安全に」とか言いながら睡眠薬と酒をブチキメていました。ツイッター上でラリってしゃべり続ける僕を見かけたことがある人もいるかもしれません。
そして、自分自身が辛いときにこういう人を見ると少し救われた気持ちになります。自分は一人ではない、という気持ちにもなります。じゃあ、自分もその輪に入れてもらうか、と思わず思ってしまいます。結局のところ、寂しさ、現状の苦しさ、そしてある種の承認といったものが加速度的に人間を死に至らしめるのです。
僕も、二日酔いで目を覚まして仕事に行けなかった時、目を覚ましたら見おぼえのない発信履歴が携帯電話に大量に残っていた時、酩酊しての粗相で他人にさんざんな迷惑をかけたとき、何度も「これで終わりにしよう」と思いました。アルコール依存と処方薬の濫用で措置入院にまでなっても結局のところ、完全に睡眠薬と手を切るには10年近い月日が必要でした。現在でも、僕は「ああ、マイスリーと酒キメてえ」と思う日があります。それはとても甘美な誘惑です。実を言えば、本の出版を告知した日が誘惑のMAXでした。酒も入り、「これだけ頑張ったんだからいいんじゃないか」って正直なところ思いました。「頼む、睡眠薬を僕の手の届かないところに隠してくれ」と妻に頼む羽目になりました。
「病」を手放す
僕は借金玉になって「生きよう」と訴える人になりました。僕が睡眠薬と酒をキメて死ぬわけにはいかないという職業意識が今ではあります。これはとてもありがたいことです。いわば、アイデンティティの一部を「借金玉」という筆名に委ねているわけです。しかし、僕の本体は「借金玉」ではなく、未だに睡眠薬をブチキメて死にたい躁鬱のおっさんです。この葛藤は結構頻繁に起き続けています。そういうわけで、僕自身もメンヘラアイデンティティを強く持った人間だ、と認めたうえで、やはりそれは疾病でありあなたではないのだと強く訴えたいです。人間は、メンヘラアイデンティティを加速させていくと高確率で死にます。僕の友人も結構死にました。インターネットの人々も結構死にましたね。とても悲しいことだと思います。
「病」というのは、時に自分と切り離すことが出来なくなります。それをアイデンティティにしてしまう心理は痛いほどわかります。しかし、病はあなたではありません。それはただ純粋に病なのです。「病を持ったあなた」ではあります。でも、病はあなたではありません。それだけは忘れないで欲しいのです。
「病を手放す」とでもいえばいいのか。長いこと疾病に苦しんでいると、病というのが自らの一部となっていきます。しかし、恢復のためにあなたはいつかそれを手放していかなければいけません。際限のないメンヘラアインデンティティの強化を、どこかで止めなければいけないと僕は思います。
世界に素面で向き合うのは辛いことです。病というアインデンティティの上で薬を乱用し酒を呑むと一時的に楽になるのは本当に痛いほどわかります。それによって得られる承認が時に得難いものであることもわかります。しかし、あなたが生き延びるために「病はあなたではない」ということを忘れないで欲しいと思います。僕自身も、忘れないようにしたいことです。
いつかまた僕は睡眠薬依存症に戻るかもしれません。また、24時間酒を呑み続ける生活に戻ってしまうかもしれません。また、ラリって暴れてひどいことになるのを繰り返すような状態になるかもしれません。その時は、この文章を僕に突きつけて欲しいと思います。
最近は僕も忙しくて、しかも色々と失敗もあって「苦しい、睡眠薬を呑みたい」と思う日が増えました。これまで堰き止めて来たものが決壊する恐怖を感じます。文章が書けない時、どうしても酩酊が欲しくなります。脳に何かストッパーみたいなものがかかっていて、酩酊すればそれを外すことができるのではないか、とつい考えてしまいます。
でも、もうちょっと頑張っていきたいと思います。少なくとも今日は頑張りたいです。明日はわからないけど、今日は頑張る。それを繰り返してなんとか僕も生きています。実を言えば僕は長いこと「ラリりながら文章を書く人」でした。酒と睡眠薬をガッと入れて、気づいたら文章が出来上がっているというのがある種の僕の文章作法でした。
しかしこの一年は人生で最も文章を書いた時期ですが、なんとか酩酊に頼らずに乗り切りました。次の一年もなんとかやっていきたいと思います。いつか、病が完全に僕から切り離される日まで、やっていきます。やっていきましょう。
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【執筆者】
借金玉 さん
【プロフィール】
発達障害(ADHD)と診断され、服薬をしながらギリギリ社会生活を送っている、31歳。
2年遅れで早稲田大学の文学部を出たあと、一度金融機関で事務職として勤務するが、全く仕事が出来ず2年たらずで敗走。その後、数千万の出資と融資をかき集めて、飲食業と貿易業をダブル起業。社員が二桁に近いサイズまで育ったのち、昇った角度で急降下。事業を整理してなんとか命だけは拾ったものの、それ以外は全てを失う。
全てを失い「31歳無職」となった後は、やることもないのでブログを書く。すると妙な人気を博すことになり、ライターとしての仕事をスタート。他にも、非正規雇用の営業マンという顔も持つ。
現在は「なんとか生活費に困窮することはないところまで生活を立て直して、今に至るわけです。現在でもお金はありません、ご飯を食べるだけで精一杯です。でも、何とか生きています。」
twitte : @syakkin_dama
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