シリーズの玲音以外のキャラクターに安倍原案は無く、岸田隆宏氏がゼロから全てデザインを起こされた。後にAX連載などで、安倍君によるありすや英利の絵も描かれる事になる。
ありす、そして級友の麗華、樹莉はいずれも「ありす in Cyberland」のヒロイン3人と名前を共通させている。勿論岸田さんはそんな事情は全く知らずにデザインしているのだが、何となくキャラクターのバランスは近いものがあって興味深かった。
勿論、こんな成立事情は視聴者が知る由もない事で、無視して貰って構わないのだが、私がこういう「スターシステム」を用いていた事についてはいずれまた改めて書こう。
ここで書いておかねばならないのは「ありす」についてである。
物語を書いている時には何ら意識していなかったが、距離を取ってシリーズのストーリーを見返してみると、一種のラヴストーリーと読めなくもない事には気づいていた。あまり指摘された経験がないので、「どこが?」と思う人の方が多いだろうけれど。
ただこういう読み方をした場合、いっそう哀しい物語になってしまう。
クラスの中でやや浮く存在だった玲音に、ありすはいつも気遣っていた。
深い意図はなく、級友には優しく接するべきだという、今で言う「高コミュニケーション・スキル」の持ち主。人によっては、そうした存在からの干渉を厭まれる場合もあろう。しかし善意から、玲音も学校生活をより楽しんで貰いたがっていた。
ありすに、後に物語であれほど重い役割を担わせる事になるとは、全く自分でも予想していなかった。
「ありす in Cyberland」での浅田葉子さんの演技に強い印象を受けた事は前に記したが、1話でそれは顕著に判る。泣いている樹莉にありすが告げる「大丈夫」という、台詞としては平凡なダイアローグを、浅田さんは「大丈夫だからね」という気持ちを込めてか、「だいじょうぶぅ」と独特なイントネーションで芝居している。
こういう予期せぬ演技をされると、調整室で聴いている私はもうニヤニヤしてしまう程に嬉しさを感じていた。
教師が黒板に板書しているのはC言語の構文。「まーた遊んじゃって」と思って観ていたが、シナリオを読み返したらト書きで自分が指定していた。
担任教師・吉井恵子というキャラクターは、単なる生徒と教師という関係よりも深くドラマに関わらせるつもりだったらしい(シナリオ本の注釈によると)。
多分それは、ゲーム版のメイン・キャラクター米良柊子に近い在り方の可能性を考えていたのかもしれない。
あまり出番のないままで申し訳なかった根谷美智子さんには、後の「神霊狩 -GHOST HOUND-」でほぼメインのキャラクターの1人となる鳳麗華役を演じて戴いた。