「専門医かどうか、それが問題」なのか?医師の大半が専門医を目指す理由・メリットとは?医師1,637人のアンケート回答結果
医師には、医師免許をもっていれば内科でも外科でも精神科でも名乗れるという、自由標榜制というルールがあります。このため、その分野の経験や知識、専門性が乏しい医師であっても、あたかも専門の医師であるかのように診療することもできます。
このような状況によって医療の質が低下することを避けるため、各学会では認定制度を設け、一定の要件を満たした医師を「専門医」として認定するようになりました。2018年4月からは、専門医の質をより担保するという問題意識から、新専門医制度が開始しています。
新たな制度が始まる中、「専門医」を実際の医師はキャリアの中でどのように位置づけて考えているのでしょうか?株式会社メディウェルでは、2018年3月~5月にかけて、会員医師向けに専門医の取得理由やメリットに関するアンケート調査を行ないました。以下に調査内容とその結果について公表します。
<結果の概要>
・他の医師を評価する際には6割以上が「専門医の有無は参考になる」と回答した。
・専門医以外に自身のキャリアアップや他の医師の評価において重要視していることで、多かったのは「他の医師からの評判」「経験年数」「症例数」だった。
・専門医を取得した理由は「自己研鑽」が最多で7割以上が挙げていた。
・専門医取得後のメリットは「自己研鑽」を除くと、「特にない」が28%と最多だった。
・専門医の取得や更新の労力・コストに対するメリットは「見合っていない」が53%と半数以上を占めた。
・自由回答では専門医のメリット・デメリット、専門医のスキルの指標の是非などについて医師間で意見が分かれた。診療報酬に反映して欲しいという声や、制度・運営上の問題を挙げている意見も多く見られた。
調査内容 | 専門医資格の取得とメリットに関する医師のアンケート調査 |
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調査対象者 | 株式会社メディウェルに登録している医師会員 |
調査時期 | 2018年3月20日~2018年5月7日 |
有効回答数 | 1,637件 |
調査公開日 | 2018年5月15日 |
目次
回答者の属性
年齢別
回答者の年齢は下表のようになっています。厚生労働省の平成28年のデータ[1]と比較すると、30~50代の医師、とりわけ40代の医師の回答が多く、29歳以下や60歳以上の医師の回答が少ない傾向となっています。
性別
回答者の性別については、下表の通り、男性約8割、女性約2割と前掲の厚生労働省の調査とほぼ同じ比率になっています。
勤務先種別
回答者の勤務先については下表のようになっています。厚生労働省調査との比較では、開業医や大学病院に勤務する医師の割合が低く、大学病院以外の病院やクリニックに勤務する医師の割合が高くなっています。
診療科別
回答者の診療科別の内訳は下表のようになっています。
以前に実施した会員アンケート[2]と同様、厚生労働省のデータと比較してやや皮膚科、精神科、麻酔科などで多くなっているものの、おおむね全国の診療科別の医師数を反映した結果となっています。
専門医の取得状況
専門医の取得状況は下図のようになっています。
回答者全体の78%が専門医資格を所持しているという結果となりました。厚生労働省の調査では医師の約6割が資格取得者となっているため[3]、今回の回答者では全国平均に比べ専門医の取得率が高くなっているといえます。
専門医の取得を目指した理由は「自己研鑽」が7割以上
専門医資格を所持している医師(N=1283)を対象に、取得を目指したきっかけ・理由について調査した回答結果(複数回答)が下表になります。
「自身のスキル・知識の向上」を理由として挙げた医師が7割以上を占め、大半の医師は専門医資格の取得を自己研鑽の機会と考えていることがわかります。その他には「給与や待遇、就職におけるメリット」、「患者からの信頼を得られる」、「職場や医局など他の医師が取得している」が3割以上と比較的多くなっています。
一方で、「患者向けの広告に活用できる」や「後輩医師などの指導に有用」は15%に満たない結果となりました。
専門医取得後のメリット、自己研鑽以外では「特にない」が最多
同じく専門医資格を所持している医師が、実際に専門医取得後に感じたメリット(複数回答)については下表の結果となりました。
「取得の過程で自身のスキル・知識が向上した」が最も多く、専門医取得の理由でも多かった「自己研鑽」の面でメリットを感じている医師が多くなっています。
しかし、自己研鑽を除くと、「特にメリットはない」が最も多い結果となっています。給与・待遇・就職面のメリットや周囲からの信頼というメリットを感じている医師も一定数いるものの、多くの医師が専門医取得後のメリットを感じられていないことが窺えます。
取得や更新の労力・コストに対する専門医のメリット、「見合っていない」が半数以上
専門医資格の取得や更新には、特定の施設での研修や学会参加などの労力や費用が必要になります。そこで専門医資格所持者を対象に、専門医のメリットがその労力・コストに対して見合っているかどうかを調査したところ、下図のような結果となりました。
「あまり見合っていない」と「まったく見合っていない」を合わせて53%となっており、半数以上の医師が「専門医のメリットは取得・更新の労力や費用に対して見合っていない」と考えていることがわかりました。
最近では若手医師の9割以上が専門医資格の取得を希望するようになっていますが[4]、この現状を踏まえると、費用対効果に対して相反しているような動きにも見受けられます。
他の医師の能力の評価に専門医の有無は「参考になる」が6割以上
一方で、他の医師の能力の評価で専門医の有無がどの程度参考になるかについても調査した結果が下図になります。
「参考になる」「どちらかというと参考になる」を合わせると、他の医師の能力の評価に際して6割以上の医師が専門医の資格の有無は参考になると考えていることになります。
自身のキャリアアップや他の医師の評価では、「他の医師からの評判」「経験年数」「症例数」の順に重要視
それでは専門医資格以外で、医師が自身のキャリアアップや他の医師の評価に関して何を重要視しているのでしょうか?調査の結果としては、下表のようになりました。
最も多かったのは「他の医師からの評判」で半数以上が挙げていました。次いで「経験年数」「症例数」を重視している医師が多く、一方で「研究論文・学会発表の実績」が最も少ない結果となりました。
「転職の際の信用の目安」「収入に反映されるようにすべき」―専門医に関する自由回答
今回の調査では専門医に関する自由回答についても多数のご意見をいただきました。以下にその一部を紹介します。
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専門医が技術・スキルの保証になる
- 専門医取得=臨床能力が高い、とは思わないですが、自分自身、専門医を取得し維持するためには知識のブラッシュアップも必要ですし、その過程に意味はあると思っています。 一方で、学会参加の点数制など、見直すべき部分もあると感じています。
- 持っていればある程度の研鑽を積まれたのだろうなと推測できる
- 専門知識及び治療経験を客観的に証明する上で一定の意義はあると思います。
- 系統的に勉強し直す機会になるので、自分の知識を整理するのに役立っている
- 専門医をとるには大変だがそれを経験することで経験値は必ず上がる。
専門医が技術・スキルの保証にならない
- 専門医は形式的に取ることができるので、本当に良い医師かどうかを見分ける材料には不十分だと思います。専門医を重要視しているこの流れはあまり意味がないと思います。
- キャリアアップ肩書などには有利かもしれませんが、本人の実力判定する基準にははならない
- 筆記試験で取れる専門医より技術が評価される技術認定医や高度技能医の方が資格としては価値があると思う。
- 専門医の試験は実質ペーパーなので、外科系の能力(手術の腕)は関係ない。今まで専門医の資格は持っていても手術は全くできないDr.を何人も見たことがあり、専門医の資格は医師としての実力を測るのには役立たない。
- 専門医であったとしても実は評価に値しない医者がたくさんいると思う。専門医制度自体にあまり意味を感じない。
専門医はメリットがある/取った方がよい
- 病院で専門でやっていくには必要と思います
- 仕事上のメリットはあると思う。ライフスタイルによって個人で決めれば良いと思う。
- 専門医をとるのは普通にしていれば取れるはずなので、持っていないとなると何か問題があるのでは?とおもってしまいます。
- 専門医は所持していたほうがよいだろう。デメリットは維持費がかかるなど
- メリットは資格を持っていないとできないことがある。デメリットは維持するのに手間やお金がかかる。
- メリットは給料が上がりました。デメリットは学会費がかかること。
- デメリットはない。学位と同じ、ないよりはあるほうが良い。
- メリットは転職の際の信用の目安くらいだと思う
- 専門医を取得することで処方薬が広がるのはメリットです。
- 専門医のメリットは現在は、就職するときに若干有利か?せっかく苦労してとった専門医なので可能な限り更新したい。
専門医はメリットがない
- 専門医を取得しているメリットはあまり感じない。収入に反映されるようにするべきである。
- 現時点ではあまりメリットがない。今までの専門制度は、自己満足程度。新専門医制度も同じようなものと思う。
- 特にメリットは感じていませんので、新専門医を機会に返上するつもりです。
- 専門医のメリットは感じない。更新をやめたいが、取得したときの苦労を考えると更新してしまう。
- 専門医資格があっても仕事の上ではメリットはない。資格更新のお金ばかりかかる。
- メリットはあるのでしょうか。見栄の問題にも見えます。
- 給料面でも、特に優遇されない事がほとんど
- 専門医の資格を有していてもメリットのある場面は少ないと思います。実際の実力があるかどうかの判断はできませんが、初対面の相手が評価するには材料の一つになるでしょうか。あとは、それなりにやってきたという証になるくらいでしょうか。
- 専門医資格の有無で保険点数などは変わらず、そのわりに資格更新に時間も費用もかかるため、専門医資格の維持するメリットが少ないと思う。
- 患者にはメリットがない。経営者は専門医取得や維持の労力を正当に評価していない。
専門医によるインセンティブや診療報酬上の加算があるとよい
- 専門医資格を有することにおけるメリット(専門医診療加算など)があれば、雇用先からの待遇も良くなるかと思います。
- 専門医をもっていることで何らかの形でインセンティブを得られるような制度が創設されることが望ましいと考えます。
- 専門医で保険点数がアップするのなら、メリットはあるとおもいます。
- 診療報酬に取り入れて、手術の技術に対する差別化を図らないとだめだと思われる
- 専門医の更新も条件が厳しくなったので、その分、将来的に専門医と非専門医の保険点数に差をつけたり変化があることを期待しています。
取得や維持・更新の手間・費用が大変
- 専門医取得や更新に関する費用が高すぎる
- 論文作成の必須化はあまり要らないのでは
- 学会で教育講演を聞いてポイントを稼がなければいけないこと(しかも有料)が情けない。純粋な学術的な興味よりも教育講演の方が聴衆が多い現状が嫌になる。
- 皮膚科専門医の維持は、子育て中の医師には難しい。取得したことがあるかどうかが鍵になると思う。
- 資格を持っていることは強要されるが、取得や維持にかかる費用は、自腹である。
専門医制度・運営について
- 申請料が高すぎる、学会参加誘導しすぎている
- 専門医の維持は、権力とお金の維持でなく、専門医個々の経験と実力の維持であるべき。専門医から見て、専門医機構は何をしたいのか全く分からない。
- 新専門医制度は迷走していて研修医が振り回されすぎ今のままで問題ない。機構は即刻解体すべし
- 労力に見合う対価、インセンティブがあるべき。学会のお偉いさんの集金手段になっている 新制度もあらたな利権が生まれるだけで、医師にも患者にもメリットがない。
- 専門医更新において専門医機構の介入があったことで、単位の取得が以前より複雑かつ手間が多くなった。既に学術集会でもそちらに気を取られ、聴講する議題がそれに左右されて、本末転倒となっている現状に辟易している。
その他
- 自身が日々研鑽していれば、医師免許さえあれば専門医などいらないのではないか、と個人的には考えています。
- 女性ならではですが、結婚出産のタイミングを専門医習得後にすることがあり、晩婚化や少子化の一端を担っているのではないかと思う
- 新専門医制度で東京集中、内科希望が減るのではないか。マイナーの方がすぐ専門医になれるから
- 特に若い医師が専門医を取得するために大病院(都市部)に偏在し、更新要件などもあるために地方の病院はますます労働力が不足している。
- 特定の施設で勤務や研修をした者でないと、資格取得できない場合、誰にでも取得の機会があるとは思えない。
上記の通り、専門医の取得のメリットや、スキルの保証としての意義に関しては、医師の中で判断が分かれているような状況になっています。一方で、新専門医制度に関しては否定的な意見も多く見られました。
まとめ
専門医は他の医師の能力・スキルを評価する際に、現状6割以上の医師にとって参考になる指標になっていますが、資格のメリットや制度に対して疑問や否定の声もあり、制度の変更を経てこれがどう変わっていくのかは未だ不透明な状況といえます。
今後、医師が無理なくキャリアを目指すことができ、医師・利用者どちらにとってもわかりやすい指標として「専門医」が運用されていくと良いですね。
<脚注>
[1] 厚生労働省「平成28年(2016年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」。
[2] 2017年12月13日公開の「医師の当直に関するアンケート結果」参照。
[3] 厚生労働省,2016,12ページ。
[4] 厚生労働省「平成29年臨床研修修了者アンケート調査 結果概要」42ページ