経済産業省が、情報産業を所管する商務情報政策局情報プロジェクト室に、新たな部署を設置するという情報をキャッチした。その名も「デジタル・トランスフォーメーションオフィス(以下DXオフィス)」。
英語での表記は「Digital Transformation」だから「DT」と略されるのが普通だが、質的転換(Exchange)の意味を込めて「DX」の表記を使うそうだ。
具体的には何をするのだろうか。情報プロジェクト室の担当者に話を聞くと、「政府のデジタル・トランスフォーメーションに乗り出す」という。まずは、近い将来「紙の添付書類ゼロのオンライン行政手続き」を実現するために、
(1)デジタル認証の利用=署名・捺印の省略
(2)オンライン・ワンストップ(ひとつのWebポータルで一貫した行政手続きが完了するようにする)
(3)ワンスオンリー(氏名・住所など、固定情報の繰り返し入力を不要にする)
(4)事務手数料のキャッシュレス化(印紙を撤廃し、オンライン決済に統一)
などを目指すらしい。
ただ、(1)〜(4)が実現したとしても、社会全体のデジタル化という意味では、はるか先を行く韓国やエストニアに、日本はまだ遠く及ばない。そのなかで経産省は、まず自分たちができること、つまり産業分野にかかわる行政手続きにターゲットを絞り、改革を進めようと考えているらしい。
世界銀行の「Doing Business」(ビジネスがやりやすい環境)調査2018年版では、日本はOECD35か国のうち24位。行政手続きの電子化によってビジネス領域での日本の存在感を高めるのが、DXオフィスのミッションというわけだ。
ただ、ひとくちに「デジタル・トランスフォーメーション」と言っても、掛け声だけでは改革が進むはずもない。システム開発の面にはどう目配りをしているのだろうか。
具体的には、2020年春の本稼働を目標に「法人共通認証基盤(法人デジタルプラットフォーム)」を開発する計画が中心に据えられている。
デジタル認証に法人番号(法人マイナンバー)を使い、ワンストップ/ワンスオンリーで営業許可や税、社会保険など、法人にかかわる各種手続きのオンライン化を図るという。
また併せて、中小企業向けの補助金や優遇税制などの支援策をプッシュ型で通知する「中小企業支援プラットフォーム」を構築する。2018年度中に補助金の申請から審査まで一貫するシステムを開発、19年度に省内で試行しつつ新規の行政手続きシステムを接続したうえ、20年度に本格運用に入る。
こうした具体策を進めてゆく上では、施策の立案はDXオフィス、システム開発は情報システム厚生課(民間企業のIT部門に相当)というのが省庁における常識的な役割分担だ。そのほうが要らぬ波風も立てずに済む。
ところがDXオフィスは、システム開発の実務まで担うことになっている。世間一般の感覚では異例といっていい。
エンジニア(プロダクトマネージャー)を転職支援サイト「ビズリーチ」で募集したのも、省庁としては異例だった。募集員数は「1人」という狭き門で、単年契約で年収800万~1000万円という条件は決して優位とも言えない。にもかかわらず約500人の応募があったのは、エンジニアにとって、国のシステムに自分の技術を生かせるということが魅力的だったからに違いない。