年に1度、全国から当事者や支援者が集う「ハンセン病市民学会」の大会が、名護市の沖縄愛楽園などで開かれた。

 国の強制隔離政策を違憲と断罪した熊本地裁判決から17年を経て照らし出されたのは、被害がまだ終わっていないことを示す「家族訴訟」や、高齢化による語り部の減少など今日的課題である。

 ハンセン病の隔離政策を巡っては、患者本人だけでなく家族も深刻な偏見や差別にさらされたとして、国に謝罪と損害賠償を求める集団訴訟が進行中だ。

 配偶者や子どもら家族訴訟の原告は568人に上り、その4割は県内に在住している。

 家族訴訟をテーマにした分科会で報告に立った弁護士の徳田靖之さんは、国の加害責任はもちろん、社会の加害責任も問われていると裁判の意義を説明した。

 単に国策によってというだけでなく、家族を差別し、地域や学校から排除する「加担者」に市民を駆り立てたものは何だったのか。

 宮古南静園を退所した知念正勝さん(84)の娘で原告の1人でもある女性は、「クンキャヌファ」(ハンセン病の子)と呼ばれいじめにあったことや、仲良くしていた友人がある日突然冷たくなったこと、何か言われるのではといつもビクビクしていたことなど幼少期のつらい体験を語った。

 家族訴訟の被告席に座るのは国だが、正しい知識を持たず、大勢に流され、家族を白い目で見続けた私たちもまた被告としての責めを負っている。

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 厚生労働省によると全国14のハンセン病療養所の入所者は1338人で、平均年齢は85歳を超えている。「記憶をどのように次世代に伝えていくか」が今後の大きな課題だ。

 市民学会が2017年度末時点で調査した「伝承・継承」に関するアンケートで、療養所で語り部活動を行う元患者はわずか39人にとどまっていた。

 学生を中心に来園者の数は年間5万人近くに上っているものの、入所者が直接対応することは難しくなりつつある。

 体験者から非体験者への継承をテーマにした分科会では、沖縄戦体験の継承と重ね合わせながら、隔離の歴史を伝える方策について考えた。

 当事者による「語り」を映像で残していくことや、代わりに語り継ぐボランティアの育成などは早急に取り組まなければならない。

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 大会では、ハンセン病差別の歴史と沖縄に米軍基地が集中する問題を並べた議論も展開された。国民の不安をあおり、社会的少数者に負担や犠牲を強いる不公正な社会構造の告発である。

 問われているのは差別構造を維持している多数派側の無知や無関心、迎合だ。

 元患者の「人間回復」は、道半ばである。隔離政策による被害もまだ続いている。 

 熊本地裁判決を風化させないよう、いま一度関心を呼び起こしたい。