平成30年(2018年)4月6日に閣議決定された働き方改革関連法案。そのなかで盛り込む予定だった「裁量労働制の対象範囲拡大」が削除されました。最近あちこちで「裁量労働制」や「みなし労働時間制」という言葉を耳にすることがありますが、そもそも「裁量労働制」とはなんでしょうか? メリットとデメリットは?今回は裁量労働制とはどんなものなのか、解説いたします。
会社での労働時間の扱いは、例えば「朝9時始業、12時から13時が昼休み、18時終業」のように毎日キッチリと時間が決まっているケースが多いでしょう。しかし、なかにはそのような枠にはまった労働時間の扱いが馴染まない業務もあるために、もっと柔軟に労働時間を扱う制度があります。
裁量労働制とは、そういった制度のひとつです。裁量労働制では所定労働日の労働時間を実際に労働した時間ではなく、一定の時間とみなす制度のことです。「みなし労働時間制」と呼ばれることもあります。例えばみなし時間を1日8時間とした場合、1日6時間働いても8時間、9時間働いても8時間の扱いになるということです。
裁量労働制のメリットは以下のようなことが挙げられます。
裁量労働制の問題点は以下のようなことが挙げられます。
裁量労働制には専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があります。「裁量」という言葉が使われているとおり、業務を進めるにあたって労働者の裁量に委ねられることが特徴です。逆に言うと労働者の裁量に委ねられていない、つまり指揮命令されながら業務を進めるような業務は裁量労働制を利用できません。
専門業務型裁量労働制の対象になる業務は高度な専門性を要する業務に限られており、対象業務は以下の19業務のみです。
このなかで注意したいのは②情報処理システムの分析・設計の業務です。プログラムの設計または作成を行うプログラマーは含まれません。
また、「対象となる業務」や「労働時間としてみなす時間」などについて労使協定を締結し労働基準監督署へ届け出ることと、就業規則に定めておく必要があります。
企画業務型裁量労働制は、事業運営の企画、立案、調査および分析の業務が対象です。ただし、前述の専門業務型裁量労働制のように具体的な業務が定められているわけではありません。「場所」「業務」「労働者」の3要件がセットになっており、全てをクリアしていないと導入できません。さまざまなケースが想定されますが、例えば、以下のようなケースが該当します。
また、以下のようなケースは該当しません。
同じ「営業」という名称が業務に含まれていても、企画業務型裁量労働制に該当するか否かは以上の様な違いがあるのです。ただし、なお、労働者から同意を得ることと、労使委員会での決議が行われた日から起算して6カ月以内ごとに1回、労働基準監督署へ定期報告を行う必要があります。
以上のように実はこの制度の導入については要件が厳しく、積極的には利用されていません。平成29年の就労条件総合調査結果では、専門業務型裁量労働制は全企業の2.5%、企画業務型裁量労働制は1.0%でしか利用されていません。
【参考】
・厚生労働省:「平成29年就労条件総合調査 結果の概況」より
また、裁量労働制の不正な導入が原因で労働基準監督署から是正勧告を受けるケースは後を絶ちません。
裁量労働制のメリットで「人件費の見込み」と「自由な働き方」を挙げましたが、実は勘違いされていることもあります。
⇒いいえ、そんなことはありません。
例えば、冒頭の「裁量労働制とは」で説明したようにみなし時間を1日8時間とした場合、1日6時間働いても8時間、9時間働いても8時間の扱いになります。しかし、みなし時間を1日9時間とした場合は、法定労働時間である8時間を超えるため1日1時間分の残業手当を支払う必要があります。
なお、みなし時間は所定労働日についてのみのものですから、休日労働と深夜労働についてはどちらの場合でも手当を支払う必要があります。そのためにも労働時間を把握しておくことは必要です。
⇒いいえ、そんなことはありません。
裁量の範囲はあくまでも所定労働日の始業時刻と終業時刻なので、所定労働日に勝手に休んでも良いということではありません。
いかがでしたでしょうか。裁量労働制を導入する際は本当にその業務にマッチしているのか、法に則した導入が可能なのかを慎重に検討することが大切です。また、みなし時間とは言っても労働時間を把握しておくことは必要です。実際の労働時間とみなし時間がかけ離れていては問題ですし、労働者の健康を守ることは会社の義務なのです。
【参考記事】
・ちゃんと把握していますか? 従業員の労働時間
・あらためて知っておきたい「残業手当」の基礎知識
photo:Getty Images
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この記事の執筆者
宮田享子(みやたきょうこ)
社会保険労務士。産業カウンセラー。
社労士法人・税理士法人等で実務経験を積んだ後平成22年独立開業。労務相談の他、講師業やメンタルヘルス対策に力を入れている。趣味はオーボエ演奏とランニング。
みやた社労士事務所HP
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