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2018-05-21 「ご飯論法」は安倍政権に共通する感覚では
「ご飯論法」は安倍政権に共通する感覚では
上西充子・法政大学キャリアデザイン学部教授*1が高度プロフェッショナル制度(いわゆる「高プロ」「残業代ゼロ法案」)をめぐる加藤厚労大臣の答弁の不誠実さを「ご飯論法」として批判し、辞任を求めている。
高プロの「異次元の危険性」を指摘した小池晃議員に、「#ご飯論法」で否定してみせた加藤大臣は、辞任を(上西充子) - 個人 - Yahoo!ニュース
記事の中でぼくのことも触れてくれていますけど、上西先生、本当に律儀な人ですね…。*2
「ご飯論法」とは上西が特徴づけた言い逃れ答弁の論法で、「朝ごはんを食べましたか?」という質問に「(朝、パンは食べたけど、ごはん=米飯は)食べていない」と答えるようなやり方である。
共産党の小池晃参院議員が“この制度が通ったら4日間休ませれば、あとはずっと働かせることが、104日間を除けばずうっと働かせることができることになる。そういうことを法律上排除するしくみがあるか”と聞いたのに、加藤大臣は「働かせるということ自体がこの制度にはなじまない」とか「そういう仕組みになっていないんです。法の趣旨もそうでないんです」「今委員おっしゃったようなことにはならないだろう」などとくりかえす。
ふつうに聞けば、「小池が無知杉。返り討ちワロタ」とか「ブサヨは印象操作もたいがいにせえや……」とか思うところだが、小池はしつこく食い下がり「ご飯論法」を暴いてしまう。
ついに加藤は認めるのだ。「それ自体を規制するという規定はありません」。
佐川答弁で見た「ご飯論法」
それで、この「ご飯論法」については、前にぼくが森友疑惑での佐川前財務省理財局長の証人喚問でのやりとりで似たものを聞いて、愕然としたことがある。(それを上西記事を読んで思い出し、ツイッターで「ご飯論法」だとつぶやいたのである。)
今年(2018年)3月27日の衆院予算委員会での証人喚問、共産党の宮本岳志議員の質問と佐川の答弁だ。
森友疑惑が起きて、面会等の記録があるかどうか2017年2月の国会で問題になった。17年2月に佐川は“破棄を確認した”という趣旨のことを国会で言っている。だとすると文書は破棄してなかったんだからこれは虚偽答弁になるよね、と宮本が追及するのである。追及するのだが、佐川の証人喚問での答弁はこうだった。
宮本 日本共産党の宮本岳志です。この森友問題、昨年2月15日の私の当院財務金融委員会の質問から始まりました。そこで聞くんですが、あなたは昨年2月24日の衆院予算委員会で面会等の記録は平成28年(2016年)6月20日の売買契約締結をもって破棄していると、こういう答弁を私に初めてしました。この答弁は虚偽答弁でしたか。
佐川 委員おっしゃる通り、2月半ばから委員のご質問で始まったことでございまして、いまのお話の6月20日をもって廃棄をしたという私の答弁は、財務省の文書管理記録(規則)の取り扱いをもって答弁したということでございまして、そういう意味で本当に丁寧さを欠いたということでございます。申し訳ありませんでした。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik17/2018-03-28/2018032804_01_0.html
「文書廃棄を確認した」というのは「文書を捨てたことをシュレッダーで現認した」という意味ではもちろんないし、「文書は捨てたよなということを実際に文書を調べて確認した」という意味でもなかった。
ふつうはそんなふうにとらえる。
ところが、佐川は“文書廃棄を個別に確認したわけじゃねーよ、何年たったら捨てるっていうルールがあるのを確認したって意味だよ。そういうルールがあるから捨てたんだろうね、ってコト”と答弁していたんだと言い逃れたのである。
そりゃ宮本は怒るわな。
宮本 そういう問題ではないんですね。あなたは、午前中の証言で個別の事案についてもきちんと確認をして答弁をしなかったという点で丁寧さを欠いたと、こういう答弁をしているんですね。しかし、2月24日の私に対するあなたの答弁は「昨年6月の売買契約に至るまでの財務局と学園側の交渉記録につきまして、委員からのご依頼を受けまして、確認しましたところ、近畿財務局と森友学園の交渉記録というのはございませんでした」と。このとき確認をして「なかった」と答弁しているので、一般的な規定を答弁しているんじゃないんです。これはどちらかがうそですね。
佐川 大変申し訳ありません。その「確認をした」という意味ですけども、理財局に文書の取り扱いを確認したということでそういう答弁をしてしまいました。申し訳ありませんでした。
(議場騒然)
宮本 そんなの通りませんよ。委員長、だめですよ、そんなの。答弁になってない。そんなの通らない。答弁なってないじゃないか。
佐川 本当に申し訳ありませんでした。文書の取扱規則の話をしてございました。すいません。
宮本 じゃあ、この答弁については、虚偽答弁を認めますか。
佐川 それはその、虚偽というふうに(宮本「虚偽じゃないか」)、私自身は、その虚偽という認識はそのときはございませんでした。
宮本 「確認をして」というのはですね、規定をただただ確認しただけだって、通りませんよ、それは。そして今日やっている証言は、確認をしてなかったから丁寧さに欠けたって言ってるんですよ。これは午前中の答弁がまさに証言が偽証であるか、昨年の答弁がまさに虚偽答弁であるか二つに一つですよ。じゃあ、午前中の答弁撤回してください。
文書改ざんはアウトにされているが「ご飯論法」はセーフにされている
ぼくが、ツイッターでこのことについて「足元が崩壊する感覚に襲われた」と書いた。
そのあとのツイートでも書いたように、
もしこんな不誠実な答弁が許されるなら、野党議員はどんな答弁を聞いても安心できないし、記者は百万通りの質問をしないと回答が定まらないことになる
https://twitter.com/kamiyakousetsu/status/993514940056059905
からだ。
「そんなの、森友でそもそも文書改ざんまでやられていたんだから今さら驚くことでもねーだろ」と思うかもしれない。
しかし、「文書改ざん」はアウトであることはもうハッキリしている。誰がやったのかはまだ決着がついていないけど。
だけど、この佐川・加藤の「ご飯論法」はアウトだとはされていない、「やってはいけない」ということにはなっていないのだ。セーフ判定なのである。あまりにもひどい。
菅官房長官も「ご飯論法」
じじつ、菅官房長官も、この「ご飯論法」を、佐川喚問の後、今年(2018年)3月28日の参院予算委員会で平気でやっている。共産党の小池とのやりとりだ。
“決裁文書に全部記録してあって、そっちは30年も保存しているんだから、面会記録なんか捨てても大丈夫だよ”という旨を、森友疑惑が持ち上がった2017年2月に、菅は記者会見で答えている。“決裁文書を読んだけどそっちにぜんぶ書いてあるんだよ”、と菅が言ったように聞こえるのである。
ところが今年になってから、その決裁文書は書き換えられていたとわかり、菅はあわてて「決裁文書の内容について説明されたことはない」と言い訳しだしたのだ。決裁文書の中身なんか見ていないよ、と。
小池はここにかみついた。あんた確認したんとちゃうんか、と(以下の「太田」は財務省理財局長)。
小池 会見当時、森友疑惑はすでに安倍首相の進退に関わる重大問題になっており、記録の破棄も疑惑の隠ぺいだと大問題になっていた。決裁文書の内容を確認もせずに会見したのか。
小池 記者はルールを聞いたのではない。長官が決裁文書に触れれば、理財局は改ざん前の決裁文書をすぐに確認するはずだ。
菅 秘書官がつくったメモを確認して発言している。決裁文書の内容は知らず、ルールを紹介した。
太田 長官はルールを伝えたと承知している。
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik17/2018-03-29/2018032903_01_0.html
ここでも、「確認」は個別の文書の確認ではなく、一般的なルールの確認ということになっている。
こんなことが許されたら、言葉の意味を一つひとつ吟味しないと、とんでもない言い抜けをされていることになるではないか。よく記者が官邸の会見に食い下がって質問することを「空気読めよ」「論争の場じゃねーぞ」と非難する向きがあるが、こんな「ご飯論法」がOKなら、そりゃ食い下がるのが普通のジャーナリストってことになるわな。
そしてそういう言抜け=「ご飯論法」はいまでも問題ないことにされているのである。
「霞が関文学」一般の話ではない
これは「霞が関文学」と言って済ませられる問題ではない。
例えば、「しんぶん赤旗」が、アマゾンの税逃れについて公開質問をしている。
本紙はアマゾン米国本社にも質問状を送り、アマゾンが過去も現在も日本のネット通販事業の売上高を米国に移転して日本での課税を逃れているという見解を伝え、事実でなければ否定するよう求めました。米国本社は「アマゾンは日本を含むすべての国で、要求された税金の全額を払っている」と回答。日本事業の売上高を米国に移していることは否定しませんでした。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-05-14/2018051401_01_1.html
この時アマゾンの回答はわかりにくい。「アマゾンは日本を含むすべての国で、要求された税金の全額を払っている」。「霞が関文学」である。ちょっと聞くと「ああ税逃れはしてないんだな」と思ってしまう。
しかし、「売上高を米国に移転して日本での課税を逃れているという見解を伝え、事実でなければ否定するよう求めました」とあるように、「赤旗」側が周到に質問をしているためにアマゾンはそこを否定できていない。「日本事業の売上高を米国に移していることは否定しませんでした」とある通りだ。
つまり、“売上高を米国に移して操作しているけど、操作後はちゃーんとどの国の法律にもかなった形で税金を払っているよ”と言っている可能性があるのだ。違法な脱税はしていないけど、合法的に税金は逃れていますよ、と。
これ自体は噴飯ものだけど、いちおう「誠実」に回答している。
よく読めば論理はたどれるからである。
しかし「ご飯論法」はそれがたどれない。もしくは、いくつもの意味に取れてしまう。あるいは、本当によくよく確かめないとその論理をたどれないほど「か細い」。
そういうことをされると、議会で質問する側は一つの答弁についてなんども意味を確認しないといけなくなってしまう。議員として見逃しをした=チェックをしなかった、という汚名を受けないために。しかし質問時間が決まっているので、そのやりとりは「空費」になってしまうのだ。
ゆえに「ご飯論法」が認められるのであれば、足元が崩壊する、つまり議会論戦そのものが成り立たなくなるという感覚に襲われたのである。
そして、佐川といい菅といい、そして加藤といい、この「ご飯論法」は安倍政権に共通する感覚・体質ではないのか、という思いを上西記事を読んで強くした。
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