著:ブランコ・ミラノヴィッチ、訳:村上 彩
不平等について次の3つの視点から26のテーマに分けて論じた本である。
- 単一のコミュニティ内での個人の間の不平等。
- 国や民族の間の不平等。
- グローバルな不平等(個人と地域の不平等を合わせたもの)
取り上げている時代は、古代ローマ時代、近代、現代と幅広い。80対20の法則で有名なパレートや、所得の不平等を逆U字曲線で表したグズネッツの理論の解説も行われている。
旧ソ連は比較的経済的には平等だったが政治的には不平等であり職務上の特権的地位を生み出した。また、ソ連の共和国同士の所得格差はロシアからタジキスタンまで最大1対6と大きく、ロシアでその格差を埋めるための所得再配分を重荷と考える人々が増えたことが連邦崩壊の理由のひとつになった。
ユーゴスラビアはミシガン州ほどの小国だったがその中にスロベニアからコソボまで1対8の地域間所得格差を抱えていたことがやはり分裂の原因のひとつになった。
統一中国の深刻な問題は不平等である。1980年代には30以下だったジニ係数は2005年に45になった。海沿いの5省+4都市で中国のGDPは50%を上回り、内陸部との格差が広がっている。1
820年頃、世界で最も豊かだったイギリスとオランダの1人当たりGDPは、貧しかったインドや中国の3倍程度だった。しかし、現代では富める国と貧しい国との1人あたりのGDPは100倍になっている。
グローバリゼーションは格差の収束には貢献しているといえない。資本移動は富める国同士の間の方が大きく、知的財産権の強化などで先進国は技術面でもブロックを作ろうと努力している。
世界の人々の所得格差の80%は次の2つの要因で説明できる。まず第一はどこの国で生まれるか。第二はどの所得階層の両親に生まれるか。つまり、生まれで80%が決まるのであり、努力のように本人の意志で実現できる幅は小さい。
経済格差は移民の主因にもなり、移住先で低賃金で仕事を奪い、文化的な軋轢を生み、報道される機会は少ないが国境では多くの死者が出ている。
世界的に見ると、上位1.75%が富の全体の20%を占める一方で、下位77%が富の20%を分け合っている。よって、グローバルな中間層というのは実際は存在しないに等しい。
また、不平等という点でもアジアは極めて多様で、EUのようにこの地域がひとつになるようなことは当面考えにくい。金融危機は格差を助長したのであって、不平等自体を生み出したわけではない。
その後話題になったピケティ本に先行するような論点であり、不平等というテーマを多様な視点から扱っており、大変興味深い内容だった。
単行本、240ページ、みすず書房、2012/11/23
不平等について 経済学と統計が語る26の話 [ ブランコ・ミラノヴィッチ ]
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