『宇宙よりも遠い場所』について言い足りなさみたいなものをずっと感じていて、なんだかもうどうしようもなくなってしまったので話を聞いてもらいました。私の拙い文章力では『よりもい』には敵わないみたいです。
- 第1話,第2話の画作りと青春
- 「どこか」から「南極」へ
- 決壊し、解放され、走り出す。淀みの中で蓄えた力が爆発して、全てが動き出す。
- 日向と報瀬、日向とめぐみ
- 「南極」が具体性を帯びるまで
- 「感染力」と「パーシャル友情」
- 9話,10話,11話の構成と佐山聖子コンテ
- 言うことなしの12話
- 「現実の中に奇蹟を追うこと」
- 「きっとまた旅に出る」
K:このブログを書いている人。浪人を経て某大学で文学とかを学んでいる。好きなアニメは『アイカツ』と『ARIA』。
T:Kの友人。某理系大学院でセンサーみたいなものを作っている。好きなアニメは『新世紀エヴァンゲリオン』と『〈物語〉シリーズ』。
第1話,第2話の画作りと青春
K:『よりもい』は何もかもすごかったけど、言いたいことがたくさんあるのはやっぱり日本編(1〜5話)かなと思うので、今日はその話をメインにしていこうと思う。
T:うっす。初期のエネルギーは確かにすごかったよね。1話2話あたりを観た時の高揚感も、5話を観た時の「とんでもないぞこれ」って感覚も、はっきり覚えてる。
K:うんうん。本当にすごい作品だった。じゃあ1話の話からいきますか。有り体な言い方になっちゃうけど、1話ってすごくテンポがいいじゃない。目に映るもの、画面に映っているものがバシバシ繋がっていって、話数内での同ポもガンガンリンクする。
T:映像として隅々まで作り込まれてる感じがするよね。最初に出てきた鳥が最後に飛び立ったりとか、すごく綺麗にまとまってる。台所の蛇口から水滴が落ちて駅のホームに繋がるとことか、めちゃくちゃすげーって思ったなあ。
K:あのシークエンスは本当にすごいよね。『ハルカトオク』が流れて、公園のシーンとキマリの部屋のシーンを繋いで…。冷蔵庫に貼られた日本地図とかも天才的。
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K:あと、授業中のシーンが大好きなんだよね。黒板に“why don't you travel?”って書かれてて、先生がキマリの頭をポンと叩いて、音読してる生徒が“Enjoy your trip”って言う。天才だと思った。
T:あれ巧いよなあ。あと、走り出すところでしっかり尺を使ってるのも良い。エモい。
K:テンポがいいからこそ、そういうシーンにしっかり情緒があるんだよね。
T:…1話の話永遠にできるな(笑)。
K:確かに(笑)。話進めなきゃ。
えっと、何が言いたかったかというと、1話の演出すごいよねっていうのはもちろんあるんだけど、これってただ映像として優れているだけじゃなくて、感覚がしっかり乗ってると思うのよ。
T:ほうほう。
K:普通に生活してるときって、あんまり景色って見えてないというか、見たものから何かを連想して考え事しながら歩いたりするじゃない。その感覚に近いなと思って。さっき話に出た“why don't you travel?”とか、100万円の広告とか、フレームの使い方とかもそう。カメラをポンと置いて撮影した感じが全くなくて、現実を見ている感じが全然しない。でも、高校生の頃とかの景色の見え方って、こういう感じだった気がするんだよね。「青春しゃくまんえん」とか「歌舞伎町フリーマントル」みたいな、ぶっ飛んだ脈絡で言葉が次々繋がっていく感じも、なんというか、若いなあと…。
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T:なるほどなるほど。言われてみるとそうかもしれない。目に入ったものがどんどん繋がっていく感じね。それでさらに被写界深度を浅くするわけだ。
K:そう。視野が狭いんですよ。*1 それで、目の前の笑顔が世界を覆い隠してしまう。これってすごく青春だなあと思うのよね。
T:2話アバンの報瀬の笑顔もそういう感じあるよね。世界を飲み込んでいくような感じ。
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K:そうそう、2話も素晴らしいよなあ…。
T:2話は無敵感がすごいよね。走るとことか感動しちゃって、次の日歌舞伎町行っちゃった(笑)。
K:(笑)。走ったの?
T:いや、さすがに走ってはないけど(笑)。中高生の時にこれ観たら走っちゃってたかもしれない。
K:それこそさ、もし今僕たちが高校生で、歌舞伎町走って観測隊員から逃げ回ってるとしてさ、そしたらもう周りの景色とか全く見えてないと思うんだよね。で、「青春だー」とか思ってめっちゃ笑っちゃうと思う。
T:確かに。その感覚が映像に再現されてるのかもしれない。背景ほとんど見えてないもんね。
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K:そう。だから、「ここではないどこか」を志向している時、「ここ」はもはや見えてないのよ。
T:名言来たゾ。
K:なんか恥ずかしいな…。まあともかく、2話の走るとこは12話に並ぶぐらいの名シーンだった。こんなにエモーショナルな映像なかなかない。
T:挿入歌の使い方が毎回卑怯なんだよなあ。キマリの「私の青春、動いてる気がする!」で『宇宙を見上げて』のサビに入るんだよ。エモすぎる。
K:挿入歌卑怯だよなあ。惜しみなく使う癖に全くマンネリ化しないのは、やっぱフィルム自体にエネルギーがあるからなのかね。あと、2話は大道具?小道具?の使い方が巧い。1話もだけど。
T:ああ。たぬきとかゴジラとか。
K:そうそう。あとグラスとか。差異で見せる演出も巧い。
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T:Kは同ポとか反復・差異が好きだよね。
K:そうかな。そうかもな。アニメ(というか映像)において、どのぐらいの時間差でカット同士をリンクさせるかって演出家の腕の見せどころだと思うんだよね。アニメーターとは違った意味での時間の創作というか、時間が規定された媒体における構成力というか…。
T:なるほど。言いたいことはわかる。
K:なんかごめん…。
「どこか」から「南極」へ
T:流れ的にこのまま3話の話する?
K:3話か…。3話はなあ…。
T:どうかしたの(笑)。
K:いや、「友達誓約書」のこと踏まえるとさ、3話って涙なしに観れないじゃない。なんかめちゃくちゃに泣いてしまって。
T:ああ、わかる。2周目で一番化ける回かもしれない。初見の時は、結月の「友達」への執着がどれほどのものかよくわかってなかったから。
K:そうそう。一つ一つの表情とか仕草とか、すごく刺さるんだよね。あと、このペースだと文字起こしの量がとんでもないことになりそうだから、ここからはちょっと軽めに…。
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T:(笑)。3話からはじめて監督以外の人がコンテ切るじゃん。*2 これ分担はどうなってると思う?普通にA/B?
K:どうなんだろうね。キャリア的に北川朋哉さんが演出見習いみたいな感じで指導してもらってるとかもありそうだけど、その辺は現場の事情がよくわかんないからなあ。そういえば北川さんは学生時代『夢』っていう作品を作ってるよ。で、『よりもい』3話のBパートに夢オチ演出があるという。
T:へぇー。処理演出でも大活躍の人だよね。2話に7話に12話。
K:そうそう。で、まあここまでが監督がコンテに参加してる回で、4話から神戸(守)さん澤井(幸次)さん清水(健一)さんと続いていくわけだけど、ここで画が監督の元から離れていくっていうのがまた大事だと思うのよね。画面全体に対するいしづか監督の支配力が弱まっていくというか…。
T:わかるようなわからんような。
K:1〜3話と4話だと、映像の質が全然違うじゃない。
T:それはあるね。テンポ感とかまるで違う。初見の時も「あ、今週はさすがに監督コンテ描いてないな」って思った。
K:そう。そこで解放されていくんですよ。1〜3話のバシバシ繋がっていく感じって、さっき言ったみたいに高校生が景色を見た時の感覚に近いってのもあるだろうし、無敵感も高揚感もスピード感もあるけど、同時に閉鎖的でもあると思うのよね。「ここ」があんまり見えてなくて、内面に寄り添ってる、一人称的な世界。それが、3話で連名でコンテを描いて、4話は神戸さんがコンテを描いて…という過程で、少し外に出る。で、キマリが「どこかじゃない、南極だって」(第4話)って言ったところで一気に景色が開ける。
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T:なるほど。そうやって「ここではないどこか」が具体的な場所になっていくと。そこまで考えて構成してるとしたら頭上がんないなあ。
決壊し、解放され、走り出す。淀みの中で蓄えた力が爆発して、全てが動き出す。
K:前にもブログにいろいろ書いたりしてたんだけど、1〜5話は監督が意図的に同ポを仕組んでると思うのよね。コンテ打ちでいろいろ指示してるのか、修正入れてるのかはわかんないけど。
T:うんうん。
K:で、同ポ率が最も高いのが教室だと思うのよ。教室でキマリとめぐっちゃんが会話するところは、大体アングルが決まってる。
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T:確かに。「代わり映えしない毎日」みたいな感覚あるかもね。
K:そうそう。それで、めぐっちゃん関連は他にも同ポが多いのよ。これが本当にすごくて、もう本当にすごい…。今日はその話がしたかった。いや前にも話したけど。
T:落ち着け(笑)。
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K:はい(笑)。要は、一人称的な無敵感を作っていた同ポ多用の画面が、ここ(5話)に来てめぐっちゃんの「淀み」に転化されるわけですよ。で、告白と作画のパワーによって、その「淀み」を一気に解放させる。だから、キマリたち4人の一人称的・思い込み的な無敵感を爆発させて、そのまま日本を飛び出すことと、めぐっちゃんの「淀み」を解放させることが、演出として一切矛盾しない。で、日本に閉塞していた画面が、一気に海外へ飛び出す。5週間かけて溜めたものが決壊して、全てが動き出す。
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T:なるほどなあ。あの独白*3 って1話の最初の最初で使われてたやつだもんね。それを5話の最後に持ってきて、その囲いを一気に解放して、閉鎖的な画作りからも解放して、日本を飛び出して、同時にめぐっちゃんも動き出すと。
K:そう。しかも〈流れる水〉のイメージを反復してもいる。恐ろしい。