小説「2084」 

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-この時代のシステムを読者のために少し説明しよう。

西暦2084年、世界は、世界政府樹立を目指す「エリアA」、反対する「エリアB」、両者のどちらにも属さない「エリアC」に分かれていた。(主人公の住む)エリアAは、超監視社会になっており、エリアAの住民は、3つものを所有することを義務付けられていた。

 

1.ナノマシン製造システムを内蔵した、マイクロチップ。

このマイクロチップは、「人間の証明」と呼ばれており、これを有しないものはエリアAの住人と認められず。

「人間の証明」を持たないものは、獣人と呼ばれ、獣人に対しては何を行っても罪とならない。

(生後しばらくすると、利き手と反対側の手のひらに埋め込まれる。)

 

「人間の証明」について:エリアAの国民には、健康を管理するためのシステムとして説明されているが、実際には膨大な数のナノマシンを製造することが出来る小さな工場であり、これを利用して、持ち主の肉体のデータをすべて読み取っている。持ち主の肉体を完全に遠隔操作できるナノチップや、暗殺プログラムを始め、国民に知られていない機能は多岐にわたる。

 

2.高性能カード(超多機能型スマホ)

高性能カードは、「光カード」と呼ばれている。外見は手のひらサイズの透明なガラスの板でしかないが、2018年のスーパーCPUと同程度の機能を持つ。

(外見は好きにカスタマイズできる)

光カードは、免許証や保険証、マイナンバーを始めとしたあらゆる役目も持っており、このカードを所有していないと厳しく罰せられる、実際には所有者と200メートル以上離れると、チップを通して本人に警告が発せられるので、忘れることはほぼない。

 

「光カード」は「人間の証明」と常に信号をやり取りしている。

国民に知られていない性能として、思考盗聴と脳への科学的干渉がある。

 

 

3.高性能アンドロイド

エリアAの住民は、アンドロイドの所有が義務付けられている。

(1人に1代ではなく、1世帯に1台が義務付けられている)

世帯主となった住人は、エリアA政府から、「トモダチ」と呼ばれる型のアンドロイドを無料で支給される。

有料で、高機能の方のアンドロイドを選択することも可能で、アンドロイドは基本的な家事援助機能が備え付けられている。また、かつて役所で行われていたすべての手続きは、このアンドロイドを利用して処理される。

 

エリアAから支給されるトモダチの所有は、1世帯に1台の所有が義務付けられているが、それとは別に、市販のアンドロイドを所有する事も可能。

 

「人間の証明」、「光カード」、「トモダチ」は、3種の神器と呼ばれている。

これらは、エリアAの「マザー」(スーパーCPU)と直接つながっており、そのデータは情報銀行ですべて処理されている。エリアAのありとあらゆるデータは、生まれて死ぬまで全て収集され管理される。

 

これらのシステムはZシステムと呼ばれた。

 

ポイントについて

2084年にはお金は存在せず、全てポイントで支給される。

ポイントには2種類ある。

1.ヒューマンポイント

2.ポイントマネー

 

ヒューマンポイントは、3種の神器から得られたデータを元に、対象者が審査され、毎月増減する。

ボランティアや政府の事業に協力することでも、増えたりする。

ヒューマンポイントにより、対象者のレベルが判定され、それに応じたクラスが与えられる。

レベルとクラスに応じて、毎月、ポイントマネーが支給される。

 

レベルは一般的に1~99まで存在するといわれているが、実際には200まで存在する。

レベル100以上は世襲でしか得られない仕組みになっている。

(一般人がレベル100を超える方法は1つだけ。レベル99になりクラスAと認定され、レベル100以上の人間と結婚するしかない。)

 

結婚もクラスによる規制が設けられており、クラスが低いものが高いものと結婚することは例外を除き出来ない。

また、寿命もクラスごとに分かれており、クラスごとに定められた寿命が来ると、「人間の証明」に仕込まれた安楽死システムが作動し、死に至る。逆に、クラスAの人間は、有料で寿命を延ばす権利が与えられる。

 

そして、実はレベルにはマイナスも存在する。

レベルがマイナスになると、地下空間に落とされてしまうのだ。

 

登場人物

 

主人公 ヒロシ 

レベル (マイナス)-29 クラスG-

 

ヒロイン アリシア

レベル144 クラスA+

地下労働管理局 局長の娘

 

舞台設定 エリアAに加盟する某国

 

 

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西暦 2084年 某所。

 

ぼくは、天井を眺めていた。

「とうとう、地下に落とされて1年が経ってしまったのだな…。」

子ども時代が懐かしい、あの頃、ぼくと家族はクラスAの高級住宅街に住んでいた。

広い家、美しい庭、数多くの使用人…、近所の女の子、アリシアといったかな。

あの子は元気だろうか? 生きていたら、今頃かなりの役職についているだろうな…。

 

ぼくの両親はかつて、天上人と呼ばれている100人委員会のメンバーであり、Zシステムの開発者でもあった。

だが、エリアAの運営方針を巡って100人委員会と対立し、徐々に権力を失い、ぼくが学校に入るころには庶民と同じクラスにまで落ちてしまった。(両親はその後、突然蒸発した)

そして、ぼくも両親と同じ血を引いているだけあって、子どもの頃から偽りの世界に対して反抗的な態度を取ってきた。気が付けば、このざまさ(笑)

 

だが、人間とは、不思議なものだ。どんな環境にもすぐに慣れてしまう。

地下の仕事は基本的に人が嫌がる仕事が多い。私の職場は家畜の解体だ。

 

地下の住民は、生存権と肉体を所有する権利をはく奪される。

労働は1日12時間、機械によって肉体を自動で遠隔操作され、仕事を淡々と行う。

いわば、作業用アンドロイドの代わりというわけだ。

 

作業の際、グラス付きの小さな機械をすっぽりかぶる。

その機械を通して脳に信号が送られ、12時間様々な作業を行わされている様なのだが、本人には何が行われているかわからない。脳と肉体を分離させられ、肉体のみ機械に乗っ取られている様なのだ。脳の方はというと、現実逃避用の様々ソフトが用意されており、それで時間を潰すことが出来る。

 

つまり、現実において、ぼくの体は12時間家畜の解体作業をしているにも関わらず、脳の方はその間、現実逃避のゲームを行っているというわけだ。

地下空間では、たびたび「人間の証明」や「光カード」を通して、記憶の消去・改ざんが行われている。この制度に歯向かい、怒りを抱いても、その瞬間、何をしようとしていたか忘れてしまうことが多い。

 

ぼくは、非常に強い敵対心、反抗心を持ってこの地下空間を生き抜き、このシステムに逆らい、ぶち壊し、その結果暗殺され、人々の記憶にとどまることを望んでいたにも関わらず…実際は、他の人間とは隔離され、肉体の自由を奪われ、現実逃避のソフトを半ば強制的に、だが自由にプレイさせられているというわけだ。

 

そう、ここには他の人間の影がほとんど見当たらないのだ。

高性能なアンドロイドは、ちらほら見当たるが。たまにすれ違う人間も、全く現実には無関心であり、早く仮想空間に戻りたいといった様子で、会話には応じてくれない。

 

全ての人間は機械と脳を繋げられており、人間と人間との関係は完全に遮断されてしまっている。

ぼくは、強い反抗心を抱き、共に地下世界を革命しようとする仲間を探したが、仲間はおろか、反抗する対象となる抑圧的な人間さえ見つからなかった。ただ機械がぼくを科学的に操り、現実逃避を促すのだった。

 

地下にもポイント制はあり、労働に応じてわずかだが支給される。

皮肉なことに、多くの労働者は、労働時間にプレイしている現実逃避用のソフトに、そのわずかなポイントを使用しているのだ。かくいうぼくも、お酒などにポイントを使ってしまっている。

 

このまま地下空間で年を重ね、いずれ腑抜けになり、反抗心を失い、マザー(CPU)に教育が完了したと認識され、レベルが上がりまた地上に戻るのだろうか。地上に戻るということは、洗脳が完了したということで、それは敗北ではないか、だが、地上に戻らなければまともな会話ができる人間にすら会えない…。

 

脳波は24時間監視されており、嘘や欺瞞は通じない。

何か、何か現状を打開する方法はないのか…そう考えていたある日、労働時間中の現実逃避用のソフトの中に、一人の女性が…何かとても懐かしい女性が現れた。

 

 

「ヒロシ・・・ねぇ、ヒロシ聞こえる?」

「誰だ? 本当の名前を呼ばれたのは、本当に久しぶりだな。」

 

「あたしよ、アリシアよ。あなたの幼馴染のアリシア…覚えている?」

「ああ、そうか。ついにぼくは頭がおかしくなっちゃったのかなぁ…。」

 

その時、プレイしていた現実逃避用のソフトは、仲間と共に魔王を倒しに行くというありきたりなRPGだった。

一緒に旅をしていたパーティの一人の僧侶が、急にアリシアに見えて、ぼくは混乱したのだった。

 

「しっかりしなさい、ヒロシ!」

アリシアによく似た僧侶は、杖で僕の頭を叩いた。ああ、この感じ、思い出したぞ。

これは、本物のアリシアだ! どうしてここに!?

 

「あなたを助けに来たのよ。」

その後、ぼくはアリシアから様々な話を聞いた。

ぼくの今いる地下空間は、全てアリシアの父(地下労働管理局局長)の管理下であり、侵入も容易いということ。

何より驚いたのは、ずっと前から、アリシアとアリシアの父が、ぼくを監視していたということだ。

 

「どうして今まで、連絡をくれなかったのさ?」

「私たちは、あなたの意志の強さを試していたのよ」

どうやら、アリシアとアリシアの父は、かつてのぼくの両親と同じく、エリアAの方針に反対していると分かった。

 

その後、様々な話を交わし、ぼくらは昔と同じ仲良しになった。

「ヒロシ、今からあたしのいうとおりにして。そうしたら、3か月で地下から出してあげる。」

ぼくは、アリシアから様々なアドバイスをもらった。

 

アリシアのアドバイスどおり、淡々と生活をしていたある日、ぼくは腹痛に襲われ、嘔吐下痢を繰り返した。

その後、救助用のアンドロイドが現れ、ぼくは運び出された。

目を覚ますと、ぼくは知らない部屋のソファーに寝かされていた。

 

 

…なんと!

その部屋の壁際に、僕とそっくりな人間が座っていた。そして、その傍らに、なんと本物のアリシアがいたのだ。

「やっと会えたわね、ヒロシ」

「アリシア…これは、どういうことだ!?」

 

「ああ、これ、あなたのDNAで作った最先端のバイオロイドよ。設定により意識は存在しないわ。

いまから、あなたのチップをこのバイオロイドに移植して、あなたをエリアCのとある国に逃がすの。

あなたは、今日、死んだことになる。」

 

「展開が急すぎて、上手く呑み込めないよ。」

「あなたはこの世界の希望、あなたの強い意志を見て私たちはそう考えた。この世界には、あなたと同じ意志を共有する人がたくさんいる。人類の独立にはあなたの意志と能力が必要なの。」

 

「ぼくにそんな力があるとは思えないが…。」

ぼくは、昔みたいにアリシアにからかわれていると思った。。

 

「まだ、目覚めていないだけよ。」

アリシアは微笑んだ。

 

「さぁ、ヒロシ。あなたとはここでお別れ。あたしは、子どもの頃に、あなたから教えてもらったこと、全部覚えているわよ。あなたは、あの時の約束覚えている?」

アリシアは、意味真にぼくの顔を覗き込んだあと、急に笑い出した。

 

「ありがとう、必ずまたどこかで会いましょう。」

そういうと、アリシアはぼくの手を握り、その中にそっと何かを置いた。

ぼくは、アリシアに何か話そうとした。けど、その瞬間に気を失ってしまった。

 

 

…目を覚ますと、洋上にいた。

ゆらゆらと揺れる小舟、見知らぬ老人が帽子を深くかぶり、何やらつぶやいた後、海の向こうを指をさした。

その先には、見知らぬ大地が存在した。

 

アリシアから渡されたナニカを探そうと、ポケットに手を入れた。

手の甲に傷があった、「人間の証明」を摘出した跡だろうか…。

アリシアから渡されたものは、遠い日の思い出を象徴する小さなモノだった。

 

それを、空にかざしながら、ぼくは失われた記憶を思い出した。

同時に、地下での洗脳も大海に溶けて無くなったような、すがすがしい気持ちになった。

 

機械によって、肉体や脳を奪われていない人間にまた会える…。

目の前の老人の後ろ姿を見ながら、少しほっとして、ぼくは再び眠りについた…。

 

(完)

 

 

コメント:小説「1984」のパロディ小説です。

      即興で書いたので質は大目に見てねw 

      本当はもっと書きたかったけど、記事に収めるためにかなり端折りました。

    

※この作品は、好きに引用してOK。