「いっけない~!遅刻遅刻~!」テンプレの秀逸さを学ぼう
「ベタな少女マンガのオープニング」として、パロディとかでよく使われる一連の流れがあるじゃないですか。
1.うっかり遅刻しそうになった少女が、急いで学校に向かう。
パンをくわえたまま走り出すというケースが多い。
2.曲がり角で見知らぬ男子と衝突!
勢いあまってケンカになってしまうが、遅刻しそうなことを思い出して捨て台詞を残して去る。
3.「あー、間に合って良かった」とほっとしていると、先生から転校生の紹介が始まる。
少女「えー!今朝ぶつかった男子が転校生だってー!?」
男子「お、お前は今朝の女……!」
先生「何だ、お前達知り合いなのか。じゃあ男子くんは少女の隣の席で色々と教えてもらいなさい」
少女「うわー、最悪だー」
実際に大マジメにやっている作品は見たことはないんですけど。
「ベタなシチュエーション」として、1番だけとか、3番だけとか、部分的に使われているのはよく見ます。実はこのテンプレ、物語のオープニングとしてものすごくよく出来ているんですよね。
1.遅刻しそうになっている少女。
この時点で少女のキャラクター(ドジっこ、せわしない、落ち着きがない、等)を描くとともに、「走って学校に向かう」ことで物語に躍動感を生んでいます。
時間通りに起きて、時間通りに落ち着いて家を出て、ちゃんと定められた時間に学校に着く、というちゃんとした主人公ではないことで―――「これから先もこのキャラには色んなことが起こりそう」と読者をワクワクさせてくれるのです。
また「家」というプライベートな空間から、「学校」という公的な空間への切替を描くことで、主人公の日常を見せることが出来ます。
“1番だけを部分的に使っている作品”で言えば、『けいおん!』アニメ1期の第1話や、『魔法少女まどか☆マギカ』の第1話でも似たようなシーンがあるのですが……どちらの場合も、朝を描くことで主人公の家庭環境を見せていましたよね。
2.男側メインキャラの登場シーン。
その辺をただ歩いているだけの登場シーンならば、読者にとっても少女にとっても印象に残りません。事件とともに登場することで記憶に残りますし、「この人は特別な人なんだ」と思わせることが出来るのです。
キャラクターの描き方としても、最初に最悪な状態を見せておくというのも一つの手です。「不良が犬を助けているとギャップが生まれる」みたいな話で、最初にケンカしている姿を見せて「イヤな男だな…」と読者にも少女にも思わせておいた方が、後々の展開で「あれ……でも、コイツ悪いヤツじゃないかも……」と思わせることが出来ますよね。
セオリーとしては、この時点で「少女の感情」と「読者の感情」をイコールに繋げておく手法がよく使われますが。逆に、ここで少女側に突飛な行動を取らせて読者に「少女もキャラクターの一人」と思わせる手もありますね。
いずれにせよ、ここまで読んだ時点で「この作品ならではの独自性」が見えてくると思います。
3.新たな日常の開始。
1番が「日常」、2番が「非日常」ならば、3番から「新しい日常」が始まります。
転校生というシチュエーション自体が、「昨日とは違う日常が今日から始まる」象徴のようなものですし。1番の段階で「日常」の様子を、2番の段階で「非日常」の様子を描けていればいるほど、転校生の存在による変化が楽しめるようになるのです。
そう言えば、『ギルティクラウン』の1話・2話・3話はまさにそんなカンジでしたね。
1話(終盤まで)が「何も出来ない日常の回」、2話が「何かを成し遂げてしまった非日常の回」、3話が「それによって始まる新しい日常の回」。
大多数の読者は「日常」の中に生きています。
そんな読者に「非日常」を体感させてあげられるのがフィクションの世界なのだから、読者のみんなが生きているような「日常」から始まって地続きに「非日常」へと展開させていく、というのが一つのセオリーになります(もちろん、読者に感情移入を敢えてさせないというセオリーの“裏”もあるんですけど)。
この1番・2番・3番が「序破急」と違うのは、ここで完結するのではなく、「4番以降を楽しみだと思わせられるか」に本当のポイントがあって―――ここ自体を楽しませることだけでなくて、「これから先も楽しみだ!」と読者に思わせられるかが勝負なんですよね。
そういう視点で考えると、「いっけない~!遅刻遅刻~!」の一連の流れは凄くよく出来ているんです。実際に今マジメにやろうとすると「今更こんなことマジメにやるの…?」と思われてしまうだけなんでしょうけど。ベタなものには「ベタになるだけの理由がある」と、見直してみるのも面白いんじゃないかと思うのです。
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| 漫画作成 | 17:35 | comments:4 | trackbacks:0 | TOP↑
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