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2016年3月 3日

アイドルグループで農業の魅力を発信し、次世代生産者を発掘する-hプロジェクト-

キーポイント
  • 農産物生産と加工品、販路開拓と多様な事業展開
  • アイドルグループで農業の魅力をピーアール

アイドルグループが若者に農業のすばらしさを伝える。そんな独創的な発想で次世代の農業生産者を発掘しようとしている中小企業がある。愛媛県松山市の「hプロジェクト」だ。

アイドルグループが若者に農業のすばらしさを伝えて次世代の農業生産者を発掘する。愛媛・松山のhプロジェクトはそんな独創的な発想の事業に取り組む

アイドルグループが若者に農業のすばらしさを伝えて次世代の農業生産者を発掘する。愛媛・松山のhプロジェクトはそんな独創的な発想の事業に取り組む

飲食サービス業から農業へ転じる

同社の創業者・佐々木貴浩さんは1968年、新居浜市で生まれた。実家は割烹料理店で佐々木さんも幼少の頃から手伝いをしていた。そのため自然と自身の将来も料理の道と考えるようになった。
 佐々木さんは高校を卒業すると松山市内の高級ホテルに就職。レストランの厨房で修行し、ホールで接客を学んだ。さらにホテルを辞して飲食店などの勤務を経て、1993年に会社を設立して飲食店を開業した。

「約20年間で10数軒の飲食店を開業・経営しました。中にはダンスショーを取り込んだパフォーマンス型の飲食店なども経営し、繁盛させました」
 そんなさまざまな形態の飲食店を経営するうち佐々木さんはあることに気がついた。食材にこだわると同じ料理でも味が違ってくる。なぜか。それは、同じレシピでつくっても食材が持つ力が料理の味に影響を与えるからだ。

食材の魅力に惹かれた佐々木さんは、農産物に興味を持ち始める。そこで農家である叔父や義父(妻の父)を訪ねると、食材が持つ力の源は生産者のこだわりにあることがわかった。叔父や義父が栽培する野菜は、そのこだわりゆえ他とは味が違う。精魂込め、手間ひまかけて栽培した白菜を食べる。それまで経験したことのない甘さは衝撃的だ。そこから佐々木さんの目が一直線に農業へ向かった。

農業に関心を持つとちょっとしたギャップも覚えた。農家は自らの栽培技術にはこだわるが、消費者には目を向けていない。こだわりの技術でおいしいい野菜は栽培するもののその先を見ていない。つまり、消費者に喜んでもらおうという視点に欠ける。その姿が、飲食というサービス業を営んできた佐々木さんにはギャップに感じられた。

さらに大きな疑問も抱いた。おいしく高品質な農産物を生産できる農業なのに現実は衰退の一途をたどっている。愛媛県も耕作放棄地率で国内ワースト5位だ。野菜も米もおいしいのになぜか?佐々木さんは考えた。その原因は3つ。女性が働きにくい農場であること、農業の産業化が進まないこと、後継者がほとんどいないこと。ならば、それを打破しよう。自らのサービス業の経験を農業にも活かすことで、耕作放棄地の解決に少しでも役立てたいと考えた。

加工品開発、販路開拓にも着手

2011年6月、佐々木さんはhプロジェクトを設立した。3カ月後には松山市の認定農業者となり、農業生産法人として義父の農地を借りての生産活動と次世代農業生産者の発掘に乗り出した。

また、佐々木さんはhプロジェクト設立後、加工品や直販の仲介も手がけた。加工品という農産物の付加価値化と販路開拓などにより企業的経営(=産業化)を目指した。
 加工品では、2012年に愛媛県産ブルーベリーを用いてジャムの製造特許を出願し、またブルーベリーデニッシュも開発した。ブルーベリーデニッシュは結婚式場などの引出物として取引が拡大した。また、直販の仲介業でも農家の規格外品を地元の百貨店や飲食店に直接販売する仲介役を務めた。
 農産物の生産と加工品づくり、および直販の仲介とhプロジェクトの事業は順調にすべり出した。そこでつぎの目標として女性の活躍と次世代農業生産者の発掘に取り組み始めた。

アイドルが農業の魅力をアピールする

佐々木さんは農業について地元の若者にアンケート調査した。すると、80%の若者が農業へ関心があると答えたが、就農まで考えるのは10%程度にとどまった。その理由の大半は、「農業は農家かやることで、しかも儲からない印象がある」だった。つまり、農業には夢や魅力がないから職業の対象にならないのだ。

となると、若者に魅力を感じてもらえるような農業にしなければ次世代の発掘もままならない。若者が一途に興味・関心を抱くファッションや音楽などのように、若者を引き付けるだけの魅力が農業になければ話にならない。
 最初は農家の状況をレポートにしてブログで発信してみたがほとんど反応がない。このような伝え方では若者の琴線には触れない。そこで発想を転換し、2012年暮れ、パフォーマンスを活用して農業を訴求する手法に切り替えてみた。飲食サービス業時代に歌やダンスを取り入れたパフォーマンス型店舗を経営した経験を活かそうとした。

「そこで地元が好きな女子5人を選出して農業アイドルグループを結成することにしたのです」
 アイドルグループを使って若者に農業をアピールする。そんな大胆な発想に打って出た。2012年12月にガールズ農園「愛の葉(えのは)」を設け、同時にアイドルグループ「愛の葉ガールズ」を結成した。
 「アイドルといえどもまずは音楽やダンスをしっかりレッスンし、また、MCや立ち居振る舞いも身につけるようにしました」
 さらに、農作業にも定期的に取り組むようにした。農業が好きで自ら作業もするアイドルだからこそ、本当に農業の良さや魅力を若者たちに伝えられる。そう信じて佐々木さんは愛の葉ガールズをプロデュースした。

実際、グループを結成した当初は愛の葉(農園)で毎週のように農業研修を実施した。愛の葉は、佐々木さんが農業衰退の一因と考える「女性が働きにくい農場」を解消する目的から、女子の目線でおいしさや健康にこだわったきめ細かい発想で農業生産に取り組む場所。そこでアイドルたちが土を耕す、雑草を除く、野菜を育てる。佐々木さんは、彼女たちに身をもって農業を学ばせた。すると、最初は農業に興味がなかった彼女たちも、野菜を育てる達成感や充実感、感動を覚え、農業に興味を抱くようになっていった。そして、その体験をベースに農業アイドルとして若者たちに農業のすばらしさを発信していくことになった。

農業プラスアルファの大きな成果として期待されるもの

現在、愛の葉ガールズは、愛媛県内のJAのイベント、地域の季節の祭り、小中学校の野外活動などに引っ張りだこだ。彼女たちは歌、ダンス、パフォーマンスを披露したあと、イベントや祭りの出店者の販売も手伝う。アイドル自身がステージと販売の両方で農家へ貢献し、さらにアイドルを見に来た若者たちへ農業の魅力を伝える。

アイドルグループといえども、イベントの後は出店者の販売も手伝う

アイドルグループといえども、イベントの後は出店者の販売も手伝う

結成以来、愛の葉ガールズの人気は順調に高まり、東京などの遠隔地での公演も入るようになった。それにより彼女たちが農作業できる時間も減ってしまったため、hプロジェクトは2015年に業務ごとのチームを編成した。
 それは愛の葉の文字から、「E」のタレントチーム、「N」の農作業を担う農園チーム、「O」の企画・営業チーム、「H」の愛の葉ブランドの加工品を企画・開発するブランド推進チーム、「A」の農家レストランなどのショップ展開を担うチームの5チーム体制にした。

愛の葉ブランドの加工品も多数開発

愛の葉ブランドの加工品も多数開発

このうちNチームが担うガールズ農園・愛の葉は2014年、女性の就農者を増やす目的から農林水産省の推進する「農業女子プロジェクト」に参画し、それを機に農業の現場で働く女性の視点から働きやすい環境や女性向け農機具などの情報発信を行っている。
 hプロジェクトの創業理念は、「『農業プラスアルファ』で農業に付加価値を付け、儲かる農業を実現する」ことにある。それに則し、農産物の生産はもとより、加工品の企画・製造、農産物の販売仲介、タレントおよび女性農業者、次代農業生産者の発掘とつぎつぎとプラスアルファを提案もしくはプロデュースしている。そしてその延長上には、農業衰退の歯止めとなる次代の農業を担う人たちが生まれてくることを期待したい。

企業データ
企業名 or 店名 hプロジェクト株式会社
代表者 佐々木貴浩
所在地 愛媛県松山市中野町甲726-2