「お金持ちかそうでないかは顔に現れる」ことが、トロント大学の調査から明らかになった。実験参加者が複数の写真から上流階級層(年間所得15万ドル以上)と労働階級層 (年間所得3.5万ドル以下)を推測するという実験では、正解率が68%だった。
実験の結果から考察する限り、初めて会う人の第一印象や直観が当たるのは単なる偶然などではなく、実はその人が歩んできた人生がその人の顔に反映されているから—ということになる。
またウォーレン・バフェット氏やビル・ゲイツ氏を含む多数のビリオネアの顔は、人相学の「富裕相」に該当するという。
「カラスの足跡」は幸福の象徴?口と目が人生を語る
調査報告書はトロント大学心理学部の学生、R.ソーラ・ビョールンスドウッティル氏とニコラス・O・ルール氏が共同で作成し、2017年11月に発表したもの。合計7種類の実験が行われた。
最初の実験では、81人の大学生が、18〜35歳の男性80人、女性81人の写真をみて、直観的に裕福層を推測した。先入観をなくす意図で、写真を米国の出会い系サイトから無作為に選び、個人情報は参加者に知らされていなかった。背丈を均等に加工したほか、顔の特徴なども写真から取り除き、背景はモノクロを使用。正解率はビョールンスドウッティル氏とルール氏の予想を大きく上回る、68%だった。
次に、顔の特定の部分に富が象徴されている可能性を探る実験が行われた。その結果、実験参加者150人が判断材料にしたのは、口であることが分かった。次いで目も所得を表す指針となったそうだ。しかし最大の判断材料は顔全体に現れた幸福度で、富裕層の顔にはポジティブな表情が浮かんでいたという。
ルール氏いわく、口や目は幸福度を含め、あらゆる表情を表現する上で重要な部分であり、参加者が判断材料にしたのは不思議ではない。人間の顔は口や目などを動かす表情筋で形成されている。表情筋は30種類以上の筋肉の総称で、作る表情によって使う筋肉も異なる。「カラスの足跡」というと嫌がる女性も多いだろうが、これも笑う機会が多いという幸福度を示す、いわば「幸福の足跡」かもしれない。
人生が顔に反映される?笑顔=裕福にみえるわけではない
つまり、総体的に満ち足りた人生を送っている人は、普通の表情を浮かべていても幸福感や充実感が顔ににじみでている—ということだ。あくまで一般論だが、経済的に余裕のある人ほど日常的なストレスが少なく、幸せに暮らせる=それが顔に現れているものと推測される。しかし笑顔さえ浮かべていれば、裕福にみえるというわけでもないようだ。
次の実験であからさまに幸せそうな表情の写真を150人の参加者にみせたところ、階級の区別がつきにくかったという。これは裏を返すと無意識下でこそ、社会経済的地位が顔に現れやすいことを示唆している。
また、「会計士の職につきそうな顔」を選ばせる実験では、75人の参加者のうち、裕福な層の写真を選ぶ参加者が圧倒的に多かった。
これらの実験結果は、顔と社会経済的地位の関連性を決定づけるものではないものの、「長年歩んできた人生が、鏡のごとく顔に反映されたとしても不思議ではない」と思わせる説得力がある。
ビリオネアに当てはまる?人相学「富裕相」の特徴
以上の実験は心理学の観点から実施・分析されたものだが、古代から受け継がれてきた「人相学」との関連性を感じさせる。人相学は顔の形や目鼻立ちなど遺伝子的要因が大きいものかと思われるが、人生や感情が顔の相を作るのであれば、ある程度後天的な変化も可能ではないだろうか。
欧州では古くから人相学の研究が盛んに行われてきたが、アリストテレスが古代ギリシャでその基礎を築いたといわれている(Oxford Dictionariesより)。
人相学で「富裕相」とされるのは、四角い顔、しっかりしたあご、鼻翼が広がり筋の通った鼻だそうだ(Askaur.com2016年6月21日付記事)。 確かにウォーレン・バフェット氏やアマンシオ・オルテガ氏、デイビット・コック氏、チャールズ・コック氏、カルロス・スリム・ヘル氏といったビリオネアは顔が四角く、あごもどっしりとしている。またビル・ゲイツ氏やバフェット氏、ジム・ウォルトンしなどは、はっきりと鼻翼が広がっている。表情も常に自信にあふれ、ポジティブな印象をあたえる。
英人材派遣サイト「MyJobGroup.co.uk」のマーケティング・ディレクター、マーク・ライリー氏は、「事業の成功は複数の要因によるものだが、顔の特徴もそのうちのひとつ」と述べている。人相学によると、独特の肉体的特徴は強い個性を象徴する。強い個性の持ち主は、事業で成功しやすい素質を備えているという理論だ。
もちろん、「富裕相」だからといって、成功が保証されているわけではない。ライリー氏いわく、成功できるかは顔の特徴よりも、「最適な時に最適な職についていたかどうか」に大きく左右される(ビジネスインサイダー2011年4月13日付記事 )。
人生次第で顔が変わる?「ドリアングレイの肖像効果」
歩んできた人生が顔にでるということは、人生経験を積んだ年齢に達して初めて「顔の相」ができあがるのだろうか。顔に現れるのは富や貧困だけではないようだ。
マサチューセッツ州のブランダイス大学の心理学者、レスリー・ゼブロウィッツ教授らが手掛けた別の研究で、「ドリアングレイの肖像効果」なるものが報告されている。これは若いころには目にみえなかった性質の一面が、年齢を重ねるごとに顔に現れてくるというものだ。
例えば50代の女性を比較した場合、思春期〜30代にかけて魅力的で社交的な性質だった女性は、若い頃に容姿はよかったが魅力的な性格でなかった女性よりも、美しく年を重ねているという。時の流れとともに、内に秘めた自信が容姿に反映された結果だろう。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)