安価・お題で短編小説を書こう!3

386ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE 2018/05/19(土) 18:48:02.02ID:h5UmcM3T
お題:『母』『魔法』『芋焼酎』

 ボクは膝を抱えた姿で閉じられた鉄の扉を黙って見つめていた。
 あと少しで母が帰ってくる。大きなビニール袋を抱えて、
「今日はトモ君の大好きなすき焼きよ」
 と目尻にシワを寄せた母が笑顔で帰ってくる。
 ボクは玄関に飛んでいってビニール袋を受け取る。台所まで運んで頭を撫でて貰うんだ。
 そんないつもをイジワルな今日が遅らせていた。

 部屋が暗くなってきた。少ない瞬きで扉を見ていたから涙がこぼれた。泣いているみたいでカッコ悪い。
 ボクは急いで目を擦って立ち上がった。母が残した食卓の手紙を見にいく。
 難しい言葉がたくさん書かれていた。わかるところもある。でも、意味は頭の中でごちゃごちゃになった。
「これは魔法の言葉なのよ。無くさないで持っていてね」
 そんな母の言葉を思い出して、きれいに折ってズボンのポケットに入れた。
 ボクは出かけることにした。待っていても帰って来ないなら、自分で行けばいい。思いついた答えにうれしくなった。
「あ、そうだ」
 玄関から台所に戻って戸棚を開けた。奥の方に突っ込んであった瓶を取り出す。母が一人の時によく飲んでいた。笑ったりしてたから、持って行けば喜んでくれると思う。
 ボクは瓶を抱えて家を出た。

 最初にスーパーに行った。店の中にはたくさんの人がいた。母と似た人がいて目で追いかける。
 すると、その人は怒ったような顔をした。急いでどこかに行ってしまった。
 周りの人の目がボクに集まる。胸の中がざわざわした。だんだん息が苦しくなってきた。
「ごめんなさい!」
 頭をぺこぺこと下げてボクはスーパーを走って飛び出した。
 足を止めるのがこわかった。息が苦しくなった。ふらふらのボクは薄暗い公園のベンチに座った。
 遠くから怒るような声がした。ガチャンとガラスが割れるような音がして、ビクッとした。
 家で寝ている時に、一回だけ、聞いたことがある。その時はこわくて布団を頭からかぶった。
「ボク、どうしたらいいんだろう……」
 泣きそうになる。ボクは涙を流したくない。手が瓶のフタを開けた。鼻を近づけると甘い匂いがした。
 母の姿を思い出しながら口をつけて飲んだ。目がちかちかした。暗いのに明るくなった。
 少しだけ、楽しくなってきた。なんとなく声を出して笑ってみた。とても楽しい気分になれた。
 ボクは大きな声で笑いながら飲んだ。

 体を揺すられた。ボクは目が覚めた。こわそうな顔をした二人がいた。
「警察に不審者情報が寄せられた。ここで何をしていた?」
「え、えっと、ボクは母をさがしてました」
「芋焼酎を飲みながらか」
 一人がすごく怒った顔をした。ボクはこわくて震えた。そして紙のことを思い出した。魔法の言葉が助けてくれる。
「あ、あの、これ、見てください」
 ポケットでしわくちゃになっていた紙を渡した。一人が中を開いた。怒っていた顔が少し優しくなった。
「知的障害の四十で母親は失踪か」
 別の一人が難しい顔をした。ボクには意味がわからない。
「こ、これ、魔法なんです!」
「ああ、そうか。わかった。一緒に来てくれるかな」
「その、ボクは母をさがさないと」
「私達が探してあげるから心配しなくていい」
 ボクはうれしくなった。うん、と元気よく答えた。
 母の残した魔法は本物だったんだ。

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