女という性別を内包した「私」という人間
音楽業界で女性として他のバンドマンと同じようにステージに立つのって、他の社会のことは知らないですが、まじで女っていうのが邪魔でしょうがなかったんですよ。
女性だからされる差別がつらいっていうのじゃなくて、女にはわからないだろうとされる世界に没入することが美徳とされていたりだとか、モテるためにバンドやっていたりとか、バンドをやっている俺たち、フェスを開催している俺たち、に陶酔しているノリがあって。まざまざと現場で気持ち悪さにあてられて、私が思っていたことは「女として見られないぐらいの化け物になりたい」「とにかく実力でねじ伏せたい」でした。
つまり、「女として扱われないこと」が「差別されないこと」なんです、特殊かもしれないですけど。でも女なんですよ、性別がね。それがイヤなわけではなくて、むしろかわいいもの大好きだから女の子でよかったなと思うし、でも自分には女の子をする権利がないみたく感じる日もあるし。
なんとか明文化すると、「女という性別を内包した私という人間を音楽にぶちこんで美しく閃きたい」がいちばん自分のスタンスに近いかなあ。女の子として輝きたいな、みたいな気持ちはあんまなくて。
この感覚、本当に伝わりづらくて、インタビューでもうまく答えられず、「最近女性ミュージシャンが元気で、面白い人がたくさんでてきてますよね。どう思いますか?」などととてもよく聞かれるんですが、そういうことじゃないんだよなっていつも思っていて。
人間として最大限のパフォーマンスをするために女を使っている人は特に大好きだし、ハンデのある中で肩を並べて戦おうという人は女を言い訳になんて絶対にしないわけで。
いかに女の自由が歴史の上でつくられてきた取り戻されてきたその恩恵にあずかっている今であったとしても、誰に何と言われようと、私の自由は私のうちから生まれた誰にも触れられない私だけのものだから。
私は私のやり方で芸術の尊厳を守りたい、女の子がもっと女の子をしていいことも守りたいし、女を利用することも守りたいし、女を捨てることも守りたい。
大阪の音楽シーンで最も影響力を持っているラジオ局の番組に、メジャーデビューのタ イミングで出演したとき、「生理のナプキン」というワードを使ったら、「自主規制ワードです、今後気をつけてください」と言われたんですよ。「は?」みたいな。全然言わないですけど、「は?」って思って。
「ドキュメンタル」と女芸人
「ドキュメンタル」という、ダウンタウン松本人志さんがおっぱじめたアマゾンプライムの番組がめっちゃ好きなんですけど。10人の芸人が100万円ずつ用意し、密室で互いを笑わせ合いサバイバルし、最後まで笑わなかった人が1000万円もらえるという内容なんですが、ネット番組なので規制も甘めで、オードリー春日さんの包茎の皮の中に食玩を入れて出てくる様子を楽しんだりとか、とにかく笑いにストイックで笑いがいちばん偉い、使えるものはコンプレックスだろうが何だろうがぜんぶ使って笑わせろ! という、裸の力量が問われる戦いで、私がいつも思っているライブの感覚に近くてすごい好きな番組なんです。
メンツはいつも松本さんがセレクトしているということで招待状が送られ参加するかどうか決められるシステムなんですが、シーズン4までに参加した女芸人は森三中から大島さん、黒沢さんがそれぞれ一回ずつのみ。
松本人志さんはかつて『遺書』という著書の中で、「お笑いでは自分のすべてをさらけ出さなくてはいけないのに、女は身も心も素っ裸になることができない、だから女は笑いに向かない」という趣旨のことを書いていたんですね。そのまんまの裸になるという意味と、抽象的な意味もあるんだと思いますけど、どちらにせよ、学級図書として棚の上に置かれていたその本を朝の読書の時間に読んだ中学生の大森靖子はムカついたんですよ。
「いやいやいやいや普通にこのクラスでいちばん面白いの絶対私やんけ、こいつらに勝てんわけあるか、全然裸なれるけんね」と。
なんだよ男に勝てないってと思って、でもたしかに力でいつも勝てないし、ゲームとかも弟に勝てないし、クラスでギター持ってバンドやってるのも男の子で青春感だしなんだよって。ほんと悔しいばっかりだなーと思って。
その数年後、2009年12月31日放送のダウンタウンのレギュラー番組の特番「絶対に笑ってはいけないホテルマン24時」で、森三中の大島さんがタオルを下半身に巻いて、ダウンタウン浜田さんの入ってきたサウナに胸丸出しで涅槃仏のように寝転がっている場面があって。女性器も晒して、放送では大島さんの顔で秘部が隠されていて。
ナチュラルに裸の大島さんと浜田さんがサウナにいる絵を見てもう、泣きながら笑ったんですよ。
女芸人は裸になれないから面白さで勝てないという趣旨のことを言った松本さんの番組で、裸になって、笑いをかっさらっているこのかっこいい女性なんなんだよーと。しかも森三中が単純に裸になるだけじゃなく、裸になって笑える地盤をつくったのは「ガキ使」で、ほかでもないダウンタウンの浜田さんだと私は思っているのも含め、すごいストーリーだなと思って。
森三中で泣き笑い
私がお笑いで面白すぎて泣いたのは人生で4回あって、そのうちの2回が大島さんなん ですよ。
2回目は2011年の「オモバカ」という番組。一対一で芸人がリングに上がり、笑わ せあうという内容で、女を捨てずに笑わせるという煽りで登場する我が故郷愛媛のスター・友近さんvs大島さんというカード。
ラウンド4の大島さんのターンで、円形ステージを取り囲むお客さんを「チン毛、チン 毛、チン毛、チン毛……」とぐるっとカウントしはじめ、だんだんとステージ中心の友近さんに近づきながら、リズムとグルーブが高まってきたところで友近さんを指差し、「マン毛——!」と絶叫。友近さんが吹き出し大島さんが勝利した瞬間から、もう10分くらい涙と笑いがとまらなくて。なんだこの輝き、なんだこの瞬間! って興奮して。
これって、事前にネタを用意してきたんじゃなくて、この円形の会場をみてパッと思いついたことのはずだし、もはや下ネタとかじゃないと私は思うし、だってチン毛なことが面白かったんじゃなくてそのリズムと勢いが完全に音楽だったし芸術だったから、まじでライブやんと思って。その後のレフェリーを務める今田さんの「会場でしか見られない戦いかもしれません」という煽りも含め最高だったんです。
完全に大島さんのファンになった私は、この感動を自分がニッポン放送でラジオ番組をやっていたときに、担当の放送作家さん(なべやかん替え玉受験のときの替え玉だった人物。すげー面白い)に話すと、彼の後輩が鈴木おさむさんだったようで、それを伝えてくれて、TOKYO FMの鈴木おさむさんのラジオ番組に私がゲスト出演させてもらえることになったときに、産休中の大島さんを呼んでくださっていて。
大島さんに挨拶することができて、実物めっちゃふわふわでかわいくて、好きだという ことと、なぜ好きかということをウザ語りしたところ、「えーうれしいーありがとうー、みかん食べる?」と言って成城石井で買ってきたらしいみかんを袋ごとくれました。
だから松本さんの「ドキュメンタル」のシーズン2で、大島さんが「ドキュメンタル」初の女性刺客として呼ばれているのも「そりゃそうだよなー!」と熱い気持ちになりまし た。
さらに「ドキュメンタル」シーズン4、ふたり目となる女性ゲストが森三中黒沢さんでした。
そんでまんまと人生4回目の笑いで泣く体験をして。
サバイバルがはじまる前、顔合わせのフリートークのとき。松本さんの「今日、黒沢生理やからね」というフリに、黒沢さんが「ピリピリって音ちょっと出るかもしれない、40センチの音、夜用の」と手でナプキンのカーブを伝える仕草をして、フジモンが「あー、じゃあいちばん多いときや~」と笑いを増幅させる一言をカチコむ流れが、全員ポテンシャル高すぎてもう……!!
生理のナプキンを笑いに変える現場はじめて見たし、それが可能なのってこのメンツだ からだし、素晴らしいですよ。2014年に大阪のラジオ局で生理ナプキンNGと言われた私のモヤモヤも晴れたし。
そのあと黒沢さんが急に泣いてしまうところも、「あーわかる」って私はめっちゃ共感して。旦那は横で「え、なんで泣くの!?」って言ってたんですけど。
男についていけないとかじゃなく、男しか面白くないポイントとか、男だから面白くな れるポイントとか、ロマンみたいなものとか、そういうのにどうやっても疎外されることにちょっとずつ傷ついてしまうことが私もよくあって。
「ドキュメンタル」、そういう見る人によっての視点の違いも含め、ほんとライブみたい余韻があって、どこのどのシーンの誰がどうだったとか語りたくなる番組なので、ライブに行くの好きな人、特にオススメです。シーズン2の小峠さんvsジャングルポケット斉 藤さんのくだりとかまじライブ。感想「あーライブやりてえ!」だったぐらいライブ!
アマゾンプライム会員だと無料で見れるやつです。
人間として閃くために
ちなみに旦那はどちらかというと松本人志さんすごい派で、私はどちらかというと浜田雅功さんすごい派で。
めっちゃ暴論に聞こえるかもしれないですけど、松本さんの考えてることとか発言が自分にとってぜんぶ普通というか、理解できる自然な回路をたどっているのですんなり腑に落ちるんですよ。なので逆に浜田さんのほうがわけわかんなくてすげえええってなります。 そのへんもほんと夫婦いつも真逆なんで、話してて面白いです。
次のシーズンのメンツ予想を旦那とよくしていて、私は絶対女芸人ひとりいれてほしい派で、ハリセンボンの近藤春菜さんが見たい! という話をしています。それこそ、するかわからないけど精神的な意味で裸になるようなこともできるだろうし、そうでなくてもトークと頭の回転だけで闘えるので強いなあと思っていて。
私が人生4回お笑いで泣いたうちのラスト1回が、2009年頃の深夜のキレ芸芸人ナンバーワンを決めようというような番組でカンニング竹山さんなどが出演し「○○にキレてください」というお題に即興でキレていくという企画で、「お化け屋敷にキレてください」というお題に対して、「いい部屋住んでんな~」と切り返した近藤春菜さんに感動して涙が溢れてきて。当時私がだいぶ病んでいたのもあるかもしれないんですけど。
2011年のモテキナイト@渋谷O-EASTにPerfumeがシークレット出演すると踏んで、友人のジョニー大蔵大臣のスタッフをしにいったとき、最高のPerfumeのライブのあと春菜さんをお見かけし、実物めっちゃふわふわでかわいくて、お化け屋敷のツッコミが最高だったことを伝えると、「覚えてないなあ」とおっしゃっていて、この人現実を捉えた順に切り捨てていく作業タイプか、どおりでテンポ速い、しかも吐き捨てた笑い忘れてくのかすげーな、私とは全然違うけどかっけーわーと感じました。
私はもっとすべての興味ある事象に深入りしてしまうタイプなので、こういうやり方もあるんだなと。興味ないことにちゃんと面白がっているような返しができるスキルが一生自分には身につかないだろうことが、この生きづらさにつながっているので、超うらやましいとも思いました。
他にも裸にならない女芸人の笑いも今は評価されていて、面白い人いっぱいいるんですけど、私が共感するのはやっぱり森三中で、森三中の話をすることで自分の人間としての閃き方のスタンスを伝えたかったのですが、伝わりましたでしょうか。
脱ぐのなんか私には簡単だし、いくらでも面白いならいちばん面白いところで裸になりたいですよ私も。ていうか裸じゃないとこんな本、書けないですよ。
なんかね、やっぱり「ざまあみろ」って言いたいんですよ。それは全然、「見返したい」とかそういうのじゃなくて。だって見返すっていうのは見下されたって認めた上で、のちにこちらが上から見返すってことだから、違うんですよ。
もともと私の力量を見誤ってたんでしょって思うんですよ。私が下だったことなんて1回もないですよ。上とか下とか以前に、おまえが私より上かも!? と私の視界に入ったことすら一度もないですよ。
だからざまあみろって言いたい。下克上好きな日本人をケタケタ笑い飛ばしながら無差別にざまあみろを振り回したい。
『超歌手』『超歌手 VIP』刊行記念
大森靖子サイン会、開催決定!!
- 日時:2018年6月9日(土)16:00開始(15:45開場)
- 会場:大盛堂書店(東京・渋谷)
- 参加方法:6月7日(木)発売の『超歌手』もしくは『超歌手 VIP』を同店にて予約もしくは購入された方で、ご希望の方に、参加整理券をお渡しします。『超歌手』『超歌手 VIP』の両方をお買い上げの方には、両方の書籍にサインをお入れします(それぞれ各1冊まで)。
- 定員に達し次第、予約受付は終了となりますことご了承ください。
- 詳細・ご予約はこちらで→ 大盛堂書店公式サイト
次回は5/25(金)更新です。お楽しみに!