「懲戒請求→返り討ち」が発生した事情

2018年5月18日(金)

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 今週のはじめ頃だと思うのだが、ツイッター上で2人の弁護士への組織的な懲戒請求が話題になった。

 タイムラインに流れてきたいくつかの書き込みを眺めて、私は

 「まあ、よくある話だわな」

 と判断して、以後、たいして注目していなかった。
 というよりも、すっかり忘れていた。

 ところが、しばらく私が注視を怠っているうちに、この件はちょっとした事件に発展しつつある。
 なるほど。
 よくある話だと見て軽視したのは、私の考え違いだったようだ。

 よくある話だからこそ、重要視していなければならなかった。
 よくある不快ないやがらせだからこそ、めんどうがらずに、的確に対応せねばならない。
 肝に銘じておこう。

 話題の焦点は、インターネット上で挑発的な言論運動を展開しているブログの呼びかけに応じる形で、特定の弁護士に対して集団的な懲戒請求を送った人々が、その懲戒請求の対象である2人の弁護士によって逆に損害賠償の訴訟を示唆されているところだ。

 バズフィードニュースの記事が伝えているところによれば、そもそもの発端は2017年の6月で、10人の弁護士に

《「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、その活動を推進する行為は、日弁連のみならず当会でも積極的に行われている二重の確信的犯罪行為である」》

 という内容の懲戒請求が届いたことだった。

 この懲戒請求はしだいに数を増し、このたび訴えを起こした2人の弁護士に届けられた件数を合わせるとのべ4000件以上に達する。被害者は2人に限らない。2017年12月の日弁連会長談話によると、全国21弁護士会の所属弁護士全員に対し、800人近い人たちから懲戒請求が送られている。

 2人の弁護士は、この5月16日に記者会見し、請求者にそれぞれ60万円の賠償を求める訴訟を6月末をめどに起こす方針を明らかにしている(こちら)。

 今回の騒動を通じて、私自身、はじめて知ったのだが、弁護士への懲戒請求は、弁護士法に基づくもので、基本的には誰にでも送付可能なものであるのだそうだ。つまり、懲戒に値する事実に心当たりがあるのなら、誰であれ、当該の弁護士が所属する弁護士会に対して懲戒を請求することができるということだ。

 請求を受けた弁護士会は、調査の上、当該弁護士の「非行」が判明すれば処分するわけだが、今回のケースのように根拠が希薄であったり、当人の活動と無縁な請求は、当然のことながら、無視される。

 今回の件で、ネット上の扇動に乗って実際に懲戒請求を送った人たちにとって誤算だったのは、請求者の氏名と住所が相手側(つまり懲戒請求を起こされた弁護士)に伝えられることだった。

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「「懲戒請求→返り討ち」が発生した事情」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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