外国人実習生失踪急増で農家苦悩 環境整っているのに…
2018年05月17日
木下さん(左から2人目)と談笑する実習生ら。コミュニケーションを良好に保っている(香川県坂出市で)
外国人技能実習生の失踪数が急増している問題を受け、受け入れ農家らが対策に頭を悩ませている。法務省のまとめでは、2017年の外国人技能実習生の失踪者数は全体で7089人と過去最多を更新。インターネット交流サイト(SNS)の普及で情報収集が容易になり、より高い報酬の職場を求めるケースが多いとみられる。(猪塚麻紀子、尾原浩子)
高収入求め都市へ? SNS背景に
香川県坂出市の畑で、外国人技能実習生が談笑する。実習生から「パパさん」と親しげに声を掛けられるのは、木下農園の代表、木下博文さん(66)だ。
木下さんは四つの農業法人で野菜延べ140ヘクタールなどを栽培。1995年から実習生を受け入れ、現在はカンボジアやタイ、ラオスから30人が作業する。
同農園は、長年実習生を受け入れてきた経験を踏まえ、住まいやインターネット環境など生活面の整備の他、外食や旅行なども計画し、コミュニケーションを欠かさない。それでも16、17年にネパールとバングラデシュ出身の4人が失踪した。
地域のリーダーである木下さん。日本語のレベルが高い実習生らを地域の他の農業法人に送り、自身は実証的に新たな国からも率先して受け入れる。実績のない新しい国では制度の理解や浸透が不十分なことが、失踪が起こりやすい背景にあるのではないかとみる。
なぜ、失踪するのか。「もっと時給の良い所で働きませんか、とたくさん誘われる。嘘ばかりだと知っているけれど、だまされる人もいるね」と同農園で働くカンボジア出身のニーシナトさん(25)は明かす。ニーシナトさんは、誰もがスマートフォンを所有するようになり、SNSでブローカーに誘われやすくなっているとみる。
同農園も含め県内29の農業法人が参画する監理団体「アグリ事業協同組合」は「失踪は人権侵害の事例がクローズアップされがちだが、県内の農業法人は相当配慮している。ブローカーの誘いに乗って失踪した後、相当ひどい環境で働かされているのではないか」と心配する。木下さんは「技術を伝えたい気持ちは大前提だが、実習生がいなければ経営が成り立たない現実もある。今後、失踪しない体制をどう構築するか、農家にとって切実な問題」と主張する。
国の対応期待
長年、実習生を受け入れてきた長野県JA佐久浅間管内では、研修後にビザが残っていることから、雇用先の農家の住所が明記された在留カードを使い再入国しているケースが発覚したことがあった。同JA海外農業研修推進部局は「入国管理局にたびたび相談していた。政府の新たな対応により、失踪者が減ることに期待するしかない」と話す。
関東の監理団体の担当者は「日本語のレベルが高い人材は都会のコンビニなど他業界に行ってしまう」と現状を嘆く。新潟県の農業法人で働くベトナム人の実習生は「農業より飲食店で働く方が環境が良いとよく聞いた。失踪に抵抗ない仲間もいる」と打ち明ける。
目立つ新興国
失踪については、一部の劣悪な受け入れ実態が報道でクローズアップされることが多いが、法務省によると、近年はより高い報酬の職場を求め、研修期間を過ぎても日本で働きたいと失踪するケースが目立つという。
全国農業会議所によると、失踪者を国別で見るとかつては中国が大半だったが、近年はベトナム、ミャンマー、ラオスなどが目立つ。新興国は実習生制度の趣旨が浸透していない上、想定以上に日本で言葉が通じないなど、実習環境のミスマッチが起きやすいという。
同会議所の八山政治相談員は「SNSの浸透で最低賃金が高い都市部や他業界に実習生が流出しやすい状況にある」と背景を解説した上で「韓国に行く実習生も増え、中国は経済発展により、送り出し国から受け入れ国に変わりつつある。日本は実習生の質と数をどう担保していくかが喫緊の課題」と指摘する。
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ネギの相場が急伸している。日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)は大型連休明けから上がり始め、5月中旬には1キロ533円(14日まで)と過去5年平均(平年)の3割高となった。高温が続いて春作の終盤が早まり、後続産地との端境となっているためだ。スーパー、外食共に薬味向けで引き合いが強い。ただ、月末には夏作が本格化する見込みで、卸売会社は「高値は一時的。相場は徐々に落ち着く」と見通す。
東京都中央卸売市場大田市場では14日、茨城産1ケース(5キロ・相対・中値)が3564円と、1週間前に比べて756円高で取引された。前年同日比では1080円高い。卸売会社は「春作が早めに終盤を迎えているところに、先週の雨で収穫が滞った。薬味需要が活発なだけに絶対量不足だ」と説明する。同日の入荷量は72トンで、1週間前を28%下回った。
春作の主産地、JA全農さいたまは「例年より1週間早く終盤を迎えている。高温で一部で花が咲くなど、出荷に適さないものも出た」とみる。現在の1日当たり出荷量は1000~2000ケース(1ケース5キロ)と、前年より3割少ない。5月下旬には、産地が切り上がりを迎える見通しだ。
一方、後続の夏作は順調。茨城県のJA岩井は「生育良好で、出荷は5月末から本格化する」と見通す。現在の出荷は日量5000ケース前後で平年並み。2L、L級の太物が多いという。
小売りは好調だ。首都圏のスーパーは、埼玉産や茨城産の2本束の価格を198円(税別)と前年並みに設定。4月から高温が続いたため、薬味商材として売り場を広げている。
バイヤーは「他の野菜に比べて販売は好調。売り上げは前年を1割弱上回る」と話す。
業務用の引き合いも強く、卸売会社は「割安な下位等級の注文が多い」とみる。春に入って国産野菜が全般に増えたため、ネギの輸入量は減っているという。農水省の植物検疫統計によると、4月の輸入量は4852トンと、前年を7%下回った。市場関係者は「輸入が減った分、国産の需要は強まっている」と指摘する。
2018年05月15日
[大地のごちそう] 八色しいたけの南蛮漬け 肉厚、うま味たっぷり 新潟県
新潟県南魚沼市の特産「八色(やいろ)しいたけ」は肉厚で、ぷりぷりとした食感が特徴。「厚いにもほどがある」がキャッチコピーです。今回紹介する「八色しいたけの南蛮漬け」は、おかずにも酒のつまみにもなるメニュー。地域の食卓によく上ります。
八色しいたけ事業協同組合とJA魚沼みなみは、周年で出荷している八色しいたけの消費拡大を目指してレシピを開発しています。同組合事務局の松下瞳さん(26)は「寒い時期の鍋物だけでなく、揚げる、焼く、煮るなどさまざまな調理法で一年中楽しめる」とアピールします。
南蛮漬けについて「甘じょっぱい麺つゆと、八色しいたけのうま味が調和しておいしい。酢が入っていてさっぱりしているので、食欲が落ちる夏にも向く」と話します。冷蔵庫で3日ほど保存できます。
切り落とした軸は、きんぴらにするのがお勧め。軸は手で細かく裂き、フライパンにごま油を引いて炒め、同量の砂糖としょうゆで味付けをします。しゃきしゃきとした歯応えで、ご飯が進む一品です。
松下さんは「八色しいたけは、和食、洋食、中華と、どんな料理にもメイン食材として使える。余すところなく味わってほしい」とPRします。
〈材料・2人分〉
シイタケ中8枚、長ネギ2分の1本、トウガラシ1本、A(麺つゆ100ミリリットル、みりん100ミリリットル、酢100ミリリットル)、片栗粉大2、揚げ油適量
〈作り方〉
①シイタケの軸を切り落とし、かさに十字の切れ目を入れる。
②片栗粉をまぶし、180度の油で、音が小さくなるまで揚げる。
③長ネギを3センチ幅に切り、フライパンで転がしながら焼く。
④Aに②、③、トウガラシを漬ける。常温で2時間置く。
動画が正しい表示でご覧になれない場合は下記をクリックしてください
https://www.youtube.com/watch?v=12Ap-_kgn7w
2018年05月18日
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2018年05月11日
感染症SFTS各地で発症相次ぐ 高い致死率、治療法なく 春~夏マダニ要警戒 日本紅斑熱も拡大
肌出さぬ服装を 作業後はシャワー
マダニが媒介する感染症の発症が全国で相次いでいる。今月10日には宮崎県内で今年2人目となるマダニ媒介の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)感染での死亡者が確認された他、これまでに鹿児島、山口、広島でも感染者が出ている。春先から夏にかけてマダニの活動が活発化し、農家が畑や森林に入る機会が増え、かまれる危険性が高まる。致死率は1~3割と高いが現時点では治療法がなく、肌の露出を減らす、服はすぐ脱いでシャワーを浴びる、かまれたら医者に行くなどの対策が不可欠だ。
宮崎県は10日、県内の60代男性がSFTSに感染して亡くなったと明らかにした。男性は発熱や下痢の症状を訴え医療機関を受診し、上旬に死亡した。体にダニにかまれた痕があり、県は山に入ったことによると推察する。同県では3月下旬にも、80代男性がSFTS感染で死亡している。
鹿児島県では、県内で今年初の感染者となる60代男性が4月29日に発熱し、5月1、5日に病院で診断を受けた。男性の腹部にはダニにかまれた痕があり、検査でSFTSの感染が判明した。山林で草刈りをした際にかまれた可能性がある。同県健康増進課によると、昨年は県内で11人がSFTSに感染し、うち4人が死亡した。
国立感染症研究所の調べでは、今年初めから4月29日までに広島県で1人、山口県で3人、宮崎県で2人がSFTSに感染している。日本で初めてSFTSに感染した患者が報告された2013年3月4日から18年4月25日までの感染患者数は324人で、うち61人が死亡している。
薬の開発急ぐ
致死率が1~3割と高いSFTSだが、現時点で治療法はない。現在、国内の薬品メーカーが治療薬の開発を急いでいる。富士フイルムグループの富山化学工業(東京)は、SFTSに同社の抗インフルエンザ薬「アビガン」が有効である可能性が高いとして研究を進めている。多数の患者で有効性、安全性、使い方を確認するという最終段階の治験を実施中だ。薬の有効性と安全性が確認できれば厚生労働省に承認申請する。承認されればSFTSに対する日本初の承認薬となる。同社は「治験にはこれから約2年かかる」と見通す。
3月から11月に活動するマダニ。対策は、山などに入るときは肌を露出しない、かまれたら自分で取り除かず、医療機関に行くなどが基本となる。鹿児島県健康増進課は「農作業時にはシャツの裾をズボンに入れ、シャツの袖口を軍手の中に入れるなどで肌を露出しないこと」と注意を呼び掛ける。
宇都宮大学雑草と里山の科学教育研究センターの竹田努産学官連携研究員は「体に付いたマダニはすぐにはかまない」と習性を説明する。マダニは半日以上、人間の体の刺しやすい部位を求めて動き回るため「畑や山林で作業した服のままで家に入ったり眠ったりしないこと。すぐに作業着を脱いで、まめにシャワーを浴びれば感染を予防できる」(同研究員)と勧める。
<メモ>
マダニは日本に47種生息し、感染症を媒介する。マダニが媒介する感染症にはSFTSの他、日本紅斑熱などがある。SFTSに感染すると6日から2週間の潜伏期間を経て発熱、おう吐、下痢、出血などの症状が出る。重症の場合は多臓器不全にも陥る。日本紅斑熱では、発熱や発疹が現れる。高知県では今年4月に80代女性が同感染症にかかり、入院して3日後に死亡した。同研究所は今年4月15日までに長野、静岡、京都、徳島、香川の1府4県で同感染症にかかった人を5人確認している。17年の全感染者数は前年比60人増の337人だった。
2018年05月16日
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「ササニシキ」直系銘柄「ささ結」 “東の横綱”復権 知名度向上へ しゃりすし需要で脚光 宮城県大崎市など
宮城県大崎市やJA古川、JAみどりの、JAいわでやまなどでつくる「大崎の米『ささ結(むすび)』ブランドコンソーシアム」のブランド米、「ササニシキ」直系の「ささ結」の需要が高まっている。あっさりとして適度な甘味や心地よい粘りがあり、酢飯に合う特性が受け、東京や宮城県の地元のすし店が高く評価している。東京の米穀店では2017年度、すし店への供給量が販売当初の15年度より5倍以上に拡大。一層の需要拡大を狙う。
消費地にじわり浸透
「すしはしゃりが命。あっさりしていて口の中でほぐれる食感がたまらない。香り、つや、歯応えともに申し分ない」。宮城県大崎市のすし店「君鮨(ずし)」の代表、千葉君夫さん(69)の評価は高い。15年度から「ささ結」を扱う。職人がその品質に魅了されている。
「ささ結」は、「ササニシキ」を親に持つ水稲品種「東北194号」の愛称。倒伏しやすい「ササニシキ」の栽培特性を克服した。「東北194号」のうち、追肥をせず、玄米タンパク含有率6・5%以下を満たし、JAの環境保全米などを取得した米が認証される。認証面積は、同品種生産の8、9割に上る。
同コンソーシアムは、「ささ結」のすし需要を狙い、国内外へのPRに力を入れる。世界各国のすし職人が腕前を競う「ワールドスシカップジャパン」のしゃりや土産品として15年度から「ささ結」を提供。17年度には「ササニシキ」や「ささ結」で最も優れた米を出品した農家を決める「ささ王」決定戦を初開催するなど、知名度向上に力を入れる。
「世界農業遺産に認定された市の特産品として、料亭にも売り込みたい。かつて東の横綱と称されたササニシキの振興につなげたい」(同市農林振興課)と話す。
18年度の「東北194号」の生産面積は110ヘクタール。本格化した15年度の3倍以上に拡大した。
消費地、東京でも徐々に浸透している。「しゃりに酢がなじみやすく、程よい甘味や粘りが楽しめる。粒がつぶれにくく握りやすい」。東京・吉祥寺第一ホテルのすし店「一寿(ず)し」の板長、白須聡さん(37)は説明する。17年秋から、しゃりに使う米のほぼ全量を「コシヒカリ」から「ささ結」に切り替えた。今後も使い続ける方針だ。
東京都世田谷区の米店、水島米穀は、都内のすし店に「ささ結」を供給する。17年度の販売量は約4トン。販売を始めた15年度と比べ、5倍以上に拡大した。取引するすし店は、17年度に新たに3店舗加わり、合計で5店舗に上った。
同社は「20年以上前に使っていたササニシキの味を懐かしみ、同系のささ結に切り替える動きが出てきた」(販売営業部)とし、今後も売り込みを強める方針だ。(海老澤拓典)
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アルゼンチン 一部地方 牛肉輸入を解禁 政府
斎藤健農相は14日、アルゼンチンのエチェベレ農産業大臣と東京・霞が関の農水省で会談し、両国間の牛肉貿易を拡大することで一致した。7月27、28日に同国・ブエノスアイレスで開かれる20カ国・地域(G20)農業大臣会合までに、同国パタゴニア地方の牛肉と、日本産牛肉で相互に輸出を始めることを目指す。これまで、両国間の牛肉の生鮮肉の貿易実績はゼロ。
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農水省がまとめた3月の農林水産物の輸出実績は前年同月比9%(60億円)増の766億円となり、前年割れとなった2月から持ち直した。贈答用需要が堅調なリンゴや、昨秋に台湾が輸入を解禁した牛肉などが大きく伸びた。1~3月の累計では前年同期比11%増と、1兆円の政府目標達成に必要な伸び率を確保した。だが、今後は夏に向けて例年、輸出が鈍る時期を迎えるだけに、どこまで現状のペースを保てるかが課題になる。
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東京都中央卸売市場大田市場では14日、茨城産1ケース(5キロ・相対・中値)が3564円と、1週間前に比べて756円高で取引された。前年同日比では1080円高い。卸売会社は「春作が早めに終盤を迎えているところに、先週の雨で収穫が滞った。薬味需要が活発なだけに絶対量不足だ」と説明する。同日の入荷量は72トンで、1週間前を28%下回った。
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両省は今後、自治体や小売りの業界団体などにアピールし、ポスターの活用を働き掛ける。農水省のホームページなどから無料でダウンロードできる。
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13日の「母の日」商戦でにぎわう福岡市の百貨店「岩田屋」に、ハート形スイカが登場した。その形だけで、渡す相手への思いが伝わると話題を集めている。
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1玉1万800円と高価だが、同店で毎年20玉は売れる。売り場をつくるバイヤーは「味も上質」と強調。リピーターも多いという。
2018年05月13日
日本ワイン需要拡大 原料ブドウ不足懸念 大手メーカー続々と自社栽培 園地確保でJAと連携も
日本ワインを製造する大手酒造会社が、原料ブドウの自社栽培の拡大に乗り出している。需要が高まる日本ワインの生産が現状ペースで伸び続けると、将来的に原料不足に陥るとの危機感がある。国内メーカーはJAなど産地との連携を探りながら、増産の対応を急いでいる。
日本ワインは、国産ブドウを原料に、国内で醸造したもの。輸入ブドウ果汁を原料に国内で醸造したものは、国産ワインとなる。原料が純国産でなければ、日本ワインとはならない。
この日本ワインの人気が高まっている。国税庁によると2016年度の出荷量は1万5849キロリットルで、前年度から5%増えた。一方、原料となる醸造向けブドウの国内生産量は、データがある15年産で1万7280トン。ここ数年で増えているが、日本ワインの増産ペースは著しく、業界には「数年以内に原料不足に陥る」(大手メーカー)との見方が広がる。
こうした背景を受け、酒造大手が自社栽培の拡大に動いている。サントリーワインインターナショナル(東京都港区)は4月中旬、山梨県中央市にブドウ農園を開園。県とJAふえふきの協力を得て、耕作放棄地を確保し4ヘクタールを整備した。22年春以降のワインの出荷を目指す。同社の日本ワイン出荷量は17年実績が621キロリットルで、18年は7%増やす方針。自社のブドウ栽培面積も22年までに16年比で倍増させる目標を掲げる。
サッポロビール(東京都渋谷区)も4月中旬、北海道北斗市で、同社3カ所目となる25ヘクタールの農園の整備に乗り出すと発表。来春に植樹を始め、栽培面積を2・6倍に拡大させる。アサヒビール(東京都墨田区)は北海道余市町に4ヘクタールのブドウ園を開き、今月8日から植樹を進めている。25年までに10ヘクタールに倍増させる方針だ。
業界が増産を急ぐ理由に、日本ワイン需要の伸びを海外産に奪われる危機感がある。国内で流通するワインに占める日本ワインのシェアは5%と、現状でも少ない。しかし日本と欧州連合(EU)が経済連携協定(EPA)を妥結し、関税が撤廃されれば、輸入量が一層増える懸念が強い。
日本ワイナリー協会は「メーカーの自社栽培と並行して産地と連携した増産を進め、輸入ワインに対抗していく必要がある」と指摘する。
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