新潟市で女児が殺害され線路内に遺棄された陰惨な事件。14日夜、死体遺棄と損壊の疑いで小林遼容疑者(23)が逮捕され、さっそく「定番」の動きが始まっている。
一部マスコミが最新情報として、容疑者がアニメやゲームを好んでいたという同級生のコメントを紹介。それに対して、ネットでは反発の声が広がっているのだ。
この同級生のコメントを紹介したのはNHKの報道。15日23時時点でNHKニュースのページに動画と共に掲載されていた文章には、こう書かれている。
“小林容疑者の高校時代の同級生だという男性は「高校時代は3年間、同じクラスで、逮捕されたことに驚いている。当時はアニメが好きな友達と仲がよかった印象で、授業中にちゃかすなど幼いところがあった。ずっと市内の会社に勤めていると聞いているが、高校を卒業してからは会っていない」と話していました。”
また、15日朝放送の『とくダネ!』(フジテレビ系)では、高校時代の同級生による「ロリコンとかっていう言葉が一番共通認識の中ではわかりやすい」「世間一般でいう個性的、わかりやすくいうとオタク」という証言が紹介された。
これに対してネットでは「容疑者にアニメ/オタク要素を盛り込みたいというNHKの強烈な意思」「また、マスコミのゲームバッシングが始まるよ」といった批判の声が集まっているのだ。
2007年、最終話放送予定日前日に、京都府で少女が父親の首を斧で斬りつけ殺害する事件が発生。一部放送局が最終話の放送を中止するという被害にあったアニメ『School Days』の原作者・メイザーズぬまきち氏は語る。
「メディアではあまり漫画やアニメが原因と叩かれなかった座間殺害事件でさえも、うちのせいだと週刊誌に叩かれているので<またか!>という感じではありますが<中高生の頃、一度もアニメやゲームに触れていない者だけが石を投げなさい>でいいのではないでしょうか」
一方で、こうした報道の正当性を主張する声もある。ある大手新聞社の記者は語る。
「多くの記者は警察の公式発表以外の部分で独自性を出そうとやっきになっています。同級生や近所の住人から証言を取るのも楽な作業じゃありません。そうした中で得られた、ある意味で貴重な同級生の証言を吟味もせずに取り上げたのでしょう。それは問題のある行為かも知れませんが、わずか一分に満たない放送内容に、過敏すぎやしませんか」
なにか世間を騒がせる陰惨な事件が起こると、一部の焦った大手マスコミが事件の原因になりそうなものとしてマンガやアニメを取り上げ、それにオタクが反発するのは「定番」の現象だ。
実のところネットで定期的にわき上がる「かつて90年代、宮崎事件を契機としてオタクは差別され……」と青筋を立てる僅かな人々を除けば、「また、いつものか~」程度の出来事でしかないだろう。
ちょうど先週には昨年、都議選に立候補をした経歴を持つ大学講師の女性が「オタクはパブリックエネミー(公共の敵)」と読み取れるツイートをしたことで、多くの人から批判をされる小さな騒動もあった。
この騒動では、件の女性が昨年「内心だけであっても、もしも私の幼い子供に欲情する者がいたら、私は法を犯してでもその男を殺すでしょう」と発言し炎上をした過去もあり、オタクを称する人々からの苛烈な批判は続いた。
この騒動には陰惨さが目立った。冷静になって考えれば、頭のよい大学を卒業した件の女性が、Twitterという手段を用いて「異様」な発言を繰り返すには、いったいどんな理由があったのか疑問が沸くのではないか。だが、徹底した批判は、件の女性をより頑なにさせて、解決を見ない負のスパイラルへと落とし込んだ。
社会に迫害されたマイノリティが、自分を迫害した社会で地位を気づくと、自身が属していたマイノリティを攻撃する。貧困から成り上がった経営者が、かつての自分のような貧困層を、より搾取するビジネスに血道をあげる……。そんなものと同じ匂いがそこにはある。
今に始まったことではないが、大手マスコミの性急な報道が大衆から信用を失っている側面があるのも事実。一方で「オタクが云々」になんて、興味がない人のほうが多数なのも事実。
せっかくなので記しておくが、「オタクはパブリックエネミー(公共の敵)」といわれて、怒っているほうがオカシイ。最先端の文化が、世間一般から恐れられないということは、まずあり得ない。もしも「ボクたちオタクですけど、一般市民と同じですよ~」というのならば、もう文化としては衰退期に入っているということだ。
過剰な怒りは、狡猾な者に利用される隙をつくるだけである。
(文=昼間 たかし)
コメント