ウェブの黎明期である2000年頃と比べてはるかにHTMLはコーディングしやすくなりました。10〜20年前のHTMLコーディングはどのようなものだったのでしょうか。
この記事では主にIE6が全盛期だった2000年代のウェブサイト制作を振り返ります。昔からコーディングしている方は懐かさに浸ったり、そうでない方は現代のウェブの成り立ちに通じる温故知新な情報として参照ください。

テーブルレイアウト / spacer.gif
XHTML・CSSが普及するまではテーブルレイアウトが一般的でした。テーブルレイアウトとはtable
タグを使い、格子状にレイアウトしていく手法です。テーブルレイアウトは、デザインファイル(Image ReadyやFireworks)から画像を切り出す「スライス機能」と相性のいい方法でした。
< table border = "0" cellspacing = "0" cellpadding = "0" width = "760" > |
< td colspan = "2" width = "100%" height = "50" valign = "top" bgcolor = "#3498db" > |
< td width = "200" align = "center" valign = "top" bgcolor = "#e67e22" > |
< td width = "560" valign = "top" bgcolor = "#2ecc71" > |
< img src = "imgs/spacer.gif" width = "1" height = "350" /> |
< td colspan = "2" bgcolor = "#95a5a6" > |
これを当時の最先端のブラウザInternet Explorer 6で表示するとこのように見えます。

最小幅・高さを確保するためにspacer.gif
という1px四方の透過GIFファイルを用意し、つっかえ棒としてレイアウト構築に併用します。
< img src = "spacer.gif" width = "1" height = "100%" > |

▲spacer.gifは単なる画像。スペースを入れるための役割を与えられていた
テーブルレイアウトは表示崩れが少なかったり、覚えることが少ないため、多くのHTMLコーダーに使われていました。ただし、本来は表組みのためのtable
タグを使ってデザインすることの矛盾や、spacer.gif
のために意味のないimg
タグが多数記載されるといった課題がありました。
SEOのブームとともにXHTMLが流行し、HTMLには文章構造だけ、装飾はCSSに分離しようという考え方が普及していきます。やがて、テーブルレイアウトは廃れていきます。メルマガコーディングではテーブルレイアウトの寿命が長かったようですが…
PNGはIE6で透過できない
いまや当たり前のように使われるPNG形式。驚くことにIE6ではPNGは透過できませんでした。例えば透過のあるPNG画像をIE6で表示すると、このような見栄えになります。

これを回避するために、filter
プロパティーにIE独自のメソッドを使います。こんな時代からCSS Filterが存在したのですね。
filter: progid:DXImageTransform.Microsoft.AlphaImageLoader(src= '透過画像.png' ,sizingMethod= 'scale' ); |

透過PNGを使うためのJSライブラリ「DD_belatedPNG.js」や、IE用のベクターマックアップ言語「VML」で回避する手法もありました。IE7以上で透過PNGが使えるようになったものの、透明度を扱うopacity
プロパティー(厳密にはIEではfilter: alpha(opacity=50)
)と併用してアニメーションすると汚くなるというバグがあり、根本的な解決はIE9の登場を待つことになります。

CSSハック
昔はブラウザごとにレンダリング結果が大きく異なっていたため、特定のブラウザでCSSが期待どおりの表示結果にならないことが多かったです。IE6だけデザインが崩れる、Mac IE5.5だけなんとかしたいということが日常茶飯事だったのではないでしょうか。
CSSハックとは、ブラウザが解釈できない記法をあえて使うことで、一部のブラウザにのみCSSを適用させる手法です。「スターハック」や「ホーリーハック」など中二病的なかっこいいネーミングの手法がありましたが、なかには本来のCSSとしてバリッドでない記法もあり、バッドノウハウの塊とも言えるものでした。
条件付きコメント
条件付きコメントとはInternet Explorerに対して、コードを隠したりできる条件付きのHTML記法です。Internet Explorer 5で初めて登場し、バージョン9までサポートされていました。ブラウザ分岐しやすいメリットがありました。
< p >あなたはInternet Explorerを使用していません。</ p > |
条件付きコメントを使って、IEのバージョン毎に異なるCSSを読み込ますこともできます。
先のCSSハックは邪道な方法であるのに対して、条件付きコメントは正攻法として利用できました。
DOCTYPE宣言で変わるIE6の挙動
IEには互換モードと標準モードの二種類のレンダリング方式があります。CSSの仕様では、padding
はwidth
の外側となりますが、互換モードの場合はwidth
にpadding
が含まれる挙動となります。レンダリングモードはDOCTYPE宣言で切り替わります。

DOCTYPE宣言をしていないと互換モードになってしまうため、HTMLの先頭にXHTMLやHTML4.01のDOCTYPE宣言を記述します。
<!DOCTYPE html PUBLIC "-//W3C//DTD XHTML 1.0 Transitional//EN" "http://www.w3.org/TR/xhtml1/DTD/xhtml1-transitional.dtd"> |
<!DOCTYPE HTML PUBLIC "-//W3C//DTD HTML 4.01 Transitional//EN" |
"http://www.w3.org/TR/html4/loose.dtd"> |
当時の主流だったXHTMLではXML宣言を冒頭に書くのが正しい仕様でした。しかし、IE6はHTMLの先頭の文字列が<!DOCTYPE
で始まっている必要がありXML宣言があると互換モードに切り替わってしまう残念なバグがありました。そのため、バリデーターでの100点を諦めて、敢えてXML宣言を書かないという対策がとっていたサイトが多かったように思います。
<!DOCTYPE html PUBLIC "-//W3C//DTD XHTML 1.0 Transitional//EN" "http://www.w3.org/TR/xhtml1/DTD/xhtml1-transitional.dtd"> |
HTML5の<!DOCTYPE html>
宣言はIEでも標準モードで動作するよう、後方互換性を意識して定義された文言です。
今のCSSではbox-sizing: border-box
を指定すれば、IEの互換モードのようにボックス幅を扱えます。互換モード的なborder-box
のほうがわかりやすいと思うのは私だけでしょうか。
IE6でfloatした要素のマージンが2倍に
FlexboxやGridが出てくるまではfloat
レイアウトが主流でした。実はIE6ではfloat
の方向にmargin
の値が2倍となるバグがありました。初心者が必ずつまづくポイントであり、悩まされたコーダーがどれだけいたことでしょう…。

float
した方向にはmargin
を設定しないとか、padding
で代用する等の対策がされていました。FlexboxやGridが主流になってきているので、過去の苦労で終わりそうですね。
JavaScriptの仕様が異なっている
HTML・CSSだけではなくJavaScriptにも苦労がありました。IEに搭載されていたのはJScriptと呼ばれる言語で、NetscapeやFirefoxのJavaScriptと使い方が少し異なっていました。そのため、必ずブラウザ分岐を意識しながらJavaScriptを書く必要がありました。
例えば、IEではイベント登録にaddEventListener()
メソッドが使えずattachEvent()
メソッドを使います。
element.attachEvent( "onclick" , mylistener); |
element.addEventListener( "click" , mylistener, true ); |
スタイルシートもIEとFirefoxで異なっていました。
elem.style.styleFloat = "left" ; |
elem.style.cssFloat = "left" ; |
IEとその他のブラウザの挙動が異なっていたため、JavaScriptの開発は苦労が多くありました。こういった事情もあり、ブラウザの違いを吸収して動作するJSライブラリの登場が英雄視しされ、jQueryが爆発的に流行っていきます。
JavaScriptのデバッグはalertで
当時のブラウザにはデバッグ出力console.log()
メソッドがないため、alert()
メソッドやinnerHTML
を駆使していました。Firefoxの拡張機能Firebugが登場してからはコンソールが利用できたため、開発効率があがったのではないでしょうか。
alert( "count = " + count); |

▲ひたすらアラートでデバッグするしかない
console.log()
メソッドはIE8から利用できるようになりましたが、F12開発者ツールを起動してないとエラーとなります。console.log()
メソッドの消し忘れが残っていてIEでのみエラーで動かないということがよくありました。

▲IEでエラーが起きると、ダイアログからエラー発生箇所を調べることになる。このUIが使いづらくて苦戦した人は多いはず
スクリプトタグの中はコメントアウトを使う
太古のブラウザにはscript
タグを解釈できないものがあります。未対応ブラウザでは恐ろしいことにscript
タグの内容がそのまま画面上のテキストとして表示されます。script
タグの中にHTMLのコメントアウトを書くことで、script
要素の内容が表示されることを防ぎます。
< script language = "JavaScript" > |
XHTMLではCDATAセクションを使って書くことが理想でした。
< script type = "text/javascript" language = "JavaScript" > |
現代ではscript
タグを解釈できないブラウザは実質存在しないので、シンプルにスクリプトを書けますね。
IE独自の機能
IEには独自のCSSやJavaScriptの命令がありました。これはこれで便利でした。例えば、お気に入りに追加する命令が存在するため、ウェブサイトに「お気に入りに登録」といったボタンが配置されていることもありました。
window.external.AddFavorite( "https://ics.media/" , "ICS MEDIA" ); |
スクロールバーの色を変更することも流行っていました。個人サイトでよく利用されてましたね。

実は現行版のChromeやSafariでも、CSSでスクロールバーをカスタマイズできます。
まとめ
ウェブサイトのコーディング技術は日進月歩。SEOの必要性とセマンティクス意識への高まりからXHTMLとCSSの分離が必要になったり、スマートフォンの登場でレスポンシブウェブデザインが必要になったり、新しい時代が次世代の技術を必要としていたことが振り返れます。
今後もウェブコンテンツのコーディング手法は時代にあわせて変化していくでしょう。次の時代にリニューアルしやすい設計を意識してコーディングするのがいいかもしれませんね。