太古の人類はやはり、定説より早くアフリカを出たのかもしれない。
サウジアラビアを調査していた考古学者グループが、同国北西部の町タブークで人類の足跡化石を発見した。8万5000年前ごろのものとみられる。同国文化情報省から入手した資料によると、かつて湖の底だった場所から、別々の方向を向いた複数の足跡が見つかったという。(参考記事:「古代の超巨大噴火、人類はこうして生き延びた」)
一帯で発掘調査を行っている考古学者のヒュー・グルーカット氏によると、足跡の分析はまだ続いており、今後数カ月で論文を発表する予定という。
足跡が人類拡散の歴史を解明する手がかりとなるのは、これが初めてではない。2006年にはオーストラリアで、2万年前にできた足跡700個の化石が発見されたほか、2018年3月にもカナダ西海岸で、1万3000年前の足跡が見つかっている。(参考記事:「北米最古、1万3000年前の人類の足跡を発見」)
また、サウジアラビアでは太古の人類の指の骨も見つかっている。2018年4月に発表された論文によると、この指の骨は8万8000年前のものと推定されており、今回見つかった足跡が確かに8万5000年前のものなら、指の骨とほぼ同時代ということになる。(参考記事:「アラビア半島で8.8万年前の人骨、定説より古い」)
アラビア半島は、アフリカ大陸を出た人類が世界へ拡散していくうえで、重要な足がかりになったのかもしれない。今回の足跡の発見で、その可能性を裏付ける証拠が一つ増えた。
定説は変遷する
現生人類(ホモ・サピエンス)が初めて登場したのは、20万年前ごろのアフリカ東部。アフリカの外へ大量に移動したのは6万年前というのが定説だった。しかし、2018年になってアラビア半島の痕跡のほか、18万年前のあごの骨がイスラエルで見つかったことで、大量移動がもっと早く始まっていた可能性が浮上している。(参考記事:「人類の出アフリカは18万年前?定説覆す化石発見」)
どれほどの人々がアラビア半島に移動したのかは定かではない。現在、広大な砂漠になっている場所は、8万年以上前には青々とした草原地帯だった。そこからは、無数の湖の痕跡に加え、カバや水生哺乳類などの骨も見つかっている。
ドイツ、マックス・プランク研究所のマイケル・ペトラグリア氏は、訪れた約200カ所の古代湖のうち、80%で考古学的発見があったと前回の取材に答えている。石器の欠片が出土したケースもあるという。
サウジアラビアは、人類拡散の歴史を解明する上でますます重要な場所になるだろう。なお、同国が外国の科学者による遺跡の発掘を許可しはじめたのは、かなり最近のことだ。
ペトラグリア氏によると、サウジアラビアに滞在する考古学者チームは、古代の湖で発掘を続けるとともに、調査範囲を洞窟の中まで拡大する予定だという。(参考記事:「【解説】世界最古の洞窟壁画、なぜ衝撃的なのか?」)