ファナック会長惚れたAIベンチャー「考える工場」でものづくり変革

  • プリファード・ネットワークス「人に役立つ世界初のロボット作る」
  • トヨタや日立、三井物産も出資-課題は「高い技術力のビジネス化」

産業向けに人工知能(AI)を開発するベンチャー企業の「プリファード・ネットワークス(PFN)」は、社会に役立つAIの実用化を目指している。まだ実例はわずかで将来性も見えにくいが、ファナックの稲葉善治会長兼最高経営責任者(CEO)は創業者2人の技術力や感性にほれ込んだ。

プリファード・ネットワークスの岡野原副社長(左)と西川社長

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  PFNの西川徹社長(35)はインタビューで「人の生活に役立つ世界で初めてのロボットを作りたい」と述べた。岡野原大輔副社長(36)も「ハードとソフトを融合させ現実世界でAIを使いたい」と目標を語る。両氏は東京大学で出会い大学院在学中の2006年に前身を起業。2014年からAIと深層学習の研究・開発に特化している。

  PFNは現在ファナックと工場の自動化・無人化技術の開発に取り組んでいる。目指すのは、熟練工並みの技術を持つロボットにAI機能を持たせ、状況に応じて自動的に別の作業を見つけて生産効率を上げる「考える工場」だ。

  産業ロボット大手のファナックの稲葉会長が西川、岡野原両氏と初めて対面したのは15年2月のこと。PFNの技術について知ってはいたが、実際に「2人と少し話しただけで、いろんな意味で鋭さや能力の高さが分かった」と提携を即断した当時を振り返った。複数の関係者によるとPFNの企業価値は2000億円超に上るとの試算もある。

「自分よりすごい」

  PFNにはトヨタ自動車が最大の115億円を出資しているほか、ファナックや日立製作所、三井物産なども投資している。トヨタとは自動運転に向けたAI技術の共同開発などで連携、米マイクロソフトや国立がん研究センターとも協業を進める。昨年2月には日本ベンチャー大賞で経済産業大臣賞を受賞した。

  西川氏は小学4年生からパソコンに熱中。秋葉原や新宿で数千円の中古パソコンを買いあさり、中高時代はクラスでただ1人ノートPCでノートを取った。何冊もの英語の技術書を読破した。岡野原氏は小学5年の時にダイヤルアップ接続でのデータ圧縮技術を独自研究。中学で陸上、高校ではラグビーに没頭した。

線画を自動着色できる「ペインツチェイナー」のキャラクターと西川社長

Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg

  西川氏は世界の大学を対象に毎年開催されるACM国際大学対抗プログラミングコンテストに出場した経験を持つ。岡野原氏は経済産業省が所管の情報処理推進機構が若い人材を発掘・育成するプロジェクトで「スーパークリエータ」に認定された。東大での互いの第一印象は偶然にも「自分よりもすごい人がいる」だった。

技術力と収益力

  こうした2人の共同創業者が率いるPFN。起業時に6人だった社員は現在140人強になった。入社希望者は海外からも含め後を絶たず、採用選考が追いついていないという。増え続ける社員に対して2人が最も優先しているのは、自由な研究開発できる環境を維持することだ。

  PFNは売上高や利益を開示していない。産業界から高い評価を得ているというAIや深層学習についても、外部から具体例を知る機会は少ない。一般消費者が目にすることができるのは、白黒で描いた人物画などに自動的に彩色するAI技術のデモンストレーションくらいで、収益モデルは見えてこない。

  東京大学大学院の特任准教授で日本ディープラーニング(深層学習、DL)協会の理事長を務める松尾豊氏は、深層学習をビジネスとして成功させることの難しさを指摘。PFNについて「技術力は高いが、どこまできちんと事業展開していくのか」が今後の経営課題だとの認識を示した。

ソニー超えの可能性

  11年にソニーを辞めて入社した長谷川順一最高業務責任者(CBO、57)は、技術者を中心に組織が大きくなる中で、技術力を収益に結びつける役割を担う。だが、プレイステーションのネットワーク技術開発も経験した長谷川氏は、PFNの社員全員が新技術の確立に意義を感じる「技術ファースト」の社風はソニーと酷似しているという。

  ソニー創業者の井深大氏は1946年、前身の東京通信工業を盛田昭夫氏とともに設立した時の趣意書に「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」と記した。創業当初から技術開発を重視してきたソニーは、世界を舞台に戦える日本企業へと成長した。

  「2人を核に非常にユニークなメンバーが集結している。時代を変えるグループになるかもしれない」。ファナックの稲葉氏はPFNを救国のため集結した英雄らが集まる「梁山泊(りょうざんぱく)」に重ね合わせる。「2人とやれば世界の最先端を一緒に走ることができる」と感じた同氏はソニーと比較し、「ひょっとするとそれ以上かもしれない」と真剣に語った。

This company is now Japan’s most valuable startup. Here’s how, explains tech reporter Pavel Alpeyev

(Source: Bloomberg)
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