セクションの違う楽器の組み合わせ

2010年07月02日

音量のバランス

ここまでは、「木管」「金管」「弦」「打楽器」という、それぞれのセクションの中でいろいろ見てきましたけども。
セクションが違ったって、組み合わせるなという法はないわけで。
中には、実によく解け合う組み合わせもあるわけですよ。
逆に、実にミスマッチな組み合わせもある。

そのあたり、いろいろと考えてみましょうかね。

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まず知っておかなきゃいかんことがあります。
それは、各楽器の音量のバランスです。
本当のオーケストラではあんまり聞こえてこないような音をメロディーにしちゃってたりしたら、もうそこで曲は破綻してしまうことになる。
打ち込みだって、そこで本物っぽさはもう失われてしまうわけでね。

リムスキー=コルサコフという作曲家の記したオーケストレーションの本がありましてね。
リムスキーさんというのは、「シェヘラザード」の作曲家です。きっと聴いたことがあることでありましょう。
コチラのページ。「Scheherazade」でページ内検索するとmp3が聴けるリンクがあります。直でmp3にリンク張っちゃうとまずいでしょうから、探してちょうだい)


この本によりますとですな、

p(ピアノ=弱く)で演奏したときの各楽器音量の割合は

1台のフレンチホルンの音量を1としますと、

それぞれ1台の トランペット・トロンボーン・チューバ = 1
それぞれ1台の フルート・オーボエ・クラリネット・バスーン = 1
それぞれセクションの バイオリン1・バイオリン2・ビオラ・チェロ・コントラバス・ハープ = 1


f(フォルテ=強く)の場合は

1台のフレンチホルンの音量を1としますと、

それぞれ1台の トランペット・トロンボーン・チューバ = 2
それぞれ1台の フルート・オーボエ・クラリネット・バスーン = 1/2
それぞれセクションの バイオリン1・バイオリン2・ビオラ・チェロ・コントラバス・ハープ = 1

ってなっておるわけです。ハープは1台ね。
ってことは、トランペット3台に対してフルート2台というと、音量のバランスはフォルテの場合、6:1となり、こりゃあフルートは聞こえませんわーとなるわけですよ。

これ、大事ですよ。
こういうことを知っているといないでは大違いですからね。マジで。

<注意>
弦セクションは、一般的な中規模の人数を想定しています。
バイオリン1=12人、バイオリン2=10人、ビオラ=8人、チェロ=6人、コントラバス=4人 って感じですかね。
当然のように、人数が増えたり減ったりすれば、バランスは変わります。よろしくどうぞ。
ちなみに、弦の人数は、作曲家が指定することもあるし、指揮者の判断でってこともあります。

実際、みなさんでわーっと演奏したときの音を聴いてみましょうか。ピッコロさんとハープさんはお休みいただいています。
打楽器は、ティンパニーさんが1発叩いてます。

ピアノの場合







ふわーとしてますな。
個々の木管の音も、なんとなく認識できます。

フォルテの場合(音が大きいんで注意!)







いっぱい鳴ってるのはわかるけど、コレだって判別できるのはトランペットとホルンくらいですかね。
木管の皆さんはどこにいるんでしょうか。

なので、フォルテにしたいのにメロディーがフルートのみ、みたいなことはやっちゃいかんってことなのです。
よござんすかね。

ただ、ここで間違えて欲しくないこと。
この音がフルートだ、ってな感じでは木管の音を認識できないとおもうんですけど、かといって強い和音を演奏するときに、木管が不要だということではありません。
木管とか弦とか、いろんな音が混ざり合ってきちんと効果を生んでいるのです。
以前の管楽器だけの例とは、明らかに音が違うでしょ。空気感というか、音の豊かさというか。
くっきりとした金管のバックに、靄のように木管や弦の音が広がってるんだな。

というわけで。
楽器のバランス、おわかりいただけましたかね。
続きはまた、次回の講釈で。


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楽器のカラー

しばらくぶりでござんす。

さて。
バランスがわかったところで。

次は、楽器の持っているカラーを考えてみましょうかね。
どういうときにどの楽器を使おうかっていうことです。
まあ、ここまで様々な例をお聴きいただいて参りましたので、ある程度の印象というものはすでにお持ちでありましょう。

オーケストレーションを考えるときに、まずはどういう音が欲しいのかを考えますわね。
ババーンと押せ押せで行きたいのか、美しく行きたいのか、神秘的に行きたいのか、雄大に行きたいのか。
各楽器群が、どんなカラーを出すのに適しているのかを、キーワードでちょろっとまとめてみましょう。


<木管楽器>

素朴・優雅・透明感・清涼感・老成・軽やか・空気感・美しい・叙情的・切ない・コミカル

<金管楽器>

派手・若々しさ・力強さ・重厚感・雄大・華やか・コミカル(フォルテの場合)
渋い・情緒的・淡々と・切ない・コミカル(ミュートもしくはピアノの場合)

<弦楽器>

豊か・軽やか・重厚感・優雅・美しい・情緒的


なんだか、両極端のキーワードが出ちゃってるのもありますけども。
それは、表現の幅が広いってことだ。弦楽器とか。
ヴェルディの「四季」より「春」(曲が聴けるようになってますよ)と、マーラーの交響曲第五番第四楽章
(ページの真ん中当たりに曲が聴けるリンクがあります。前にも例で挙げました)くらいの表現の幅があるっていうことですよ。

木管の場合、シングルリードとダブルリードで、ちょっとカラーが違いますわね。
シングルリードの方がシンプルで優雅な感じが強く、ダブルリードはより叙情的だったりコミカルなものが得意。
また、ピッコロは木管だけども派手さを出すのにも長けていますわね。

ダブルリードに音質が似ている、金管楽器のミュート音。
これも、切ないメロディーを吹かせたりすると、じつに胸に迫る音になる。
パンパカパーンというラッパの感じではないんだよね。
参考としては、ジャズですけども、マイルス・デイビスの「死刑台のエレベーター」のサウンドトラックなんかいいんじゃないでしょうかね。ちょろっと試聴してみてクダサイ。


例えば、雄大な大自然系の曲を作ると仮定する。
オーケストレーションを考える手順の一例です。自分の例です。

・雄大だから、メロディーはゆったりしてて太い音が得意な、フレンチホルンと弦を混ぜたらいいんじゃないかな。
・木管楽器みんなで和音を作って、ふわーっとバックに空気感を与えたいな。
・途中、軽やかな感じを出すために、メロディーをフルートに交代しよう。
・フルートだけだと弱いからオーボエでフルートに和音をつけるかな。
・多少の派手さも欲しいので、フィルにトランペットを使って、「タタタッ」と短いアクセントを入れてみようか。
・サビ前には、盛り上げ感を出すために、ハープのグリッサンドを入れようか。

まあ、こんな感じのことを、ちまちまと考えながらいろいろと試したり捨てたりするわけですよ。
自分の欲しい音に対して、ちゃんと正しい楽器を割り当てる(もしくは、楽器を探す)作業の繰り返しです。
なので、楽器のカラーを印象としてちゃんと捉えているか、っていうことは、実に大事なんですな。

実際のオーケストレーションは、今後「実践・オーケストレーション」という章で、スコアやサウンドを挙げながらちゃんとお見せする予定。たぶん。


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組み合わせ

おひさしゅうございます。

さて。

例えばですね。
色で考えますと、混ぜることなく赤・青・黄だけで絵をかけと言われると厳しいですけども、色を混ぜて良しと言われれば、いろんな色を作り出して、いい絵をかけますわね。
ここで言いたいことはそういうことです。

先の「楽器のカラー」のところでいろんな楽器のキーワードを見てみましたけども。
人の気持ちってこう一義的に表現できるもんでもないわけでしょ。
「いやよいやよも好きのうち」とか。「友達以上、恋人未満」とか。
そういうことを、楽器を組み合わせることによって表現しようと。

ベートーベン交響曲第5番「運命」の冒頭部分。
ちょっと聴いてみましょう。
前にも出しましたコチラ。








orch_ex1


「ジャジャジャジャーン」のところ、弦だけでよさそうなもんだけども、実はクラリネットが第1バイオリンとユニゾンになってるんですな。
弦だけでは輪郭がいまひとつハッキリしない。かといってトランペットで強めると明るすぎる。やや陰鬱な趣のするクラリネットがいいんじゃなかろうか。
まあ、そんな感じでしょうかね。


あるいは、こちら。エルガーの「愛のあいさつ」という曲ですけども。
弦だけだとこんな感じ。







フルートを足してみましょう。







途端に優雅な感じが致します。
これ、フルートだけだとまた違うんですよね。
こんな感じ。







ここはやっぱり「弦+フルート」がいいわなあ、と。


あるいは。
金管楽器でこんなアクセントをつけることがあるでしょう。







ここにピッコロを混ぜてみます。







さらにアクセント感が強くなりましたわね。
更にティンパニーなんかのパーカッションでも組み合わせれば、なお良しでしょう。


当たり前ですけど、音域があまりに違う楽器同士は、あまり組み合わせませんよ。
ピッコロとチェロ、なんてあり得ない。
トランペットとバスーン、とか、フルートとトロンボーン、なんてのもあまりやりませんわな。
前にも書きましたけども、金管のミュートと木管のダブルリードは、結構合います。鼻が詰まったような音色で。

一応の定石のようなもの。

・木管楽器は弦楽器と組み合わせやすい
・金管楽器は独立して用いられることが多いが、弦や木管と組み合わせることもある。
その場合、ホルンをうまく仲立ちとして使う。
・「低音部を受け持つ楽器同士」でセットにすると、うまく鳴ることが多い
--> チェロとバスーンとチューバでリズムを演奏する、とか。


どんな組み合わせが曲の「気分」に合うのか、いろいろ試してみるとよろしいでしょう。


というわけで。
基礎の講釈はここいらで一旦終了です。長かった。
あとは、たくさんの音楽に触れ、スコアを見て、自分の中のボキャブラリーを増やすことしかないのんどす。

次回からは、短い曲を実際にアレンジして参りましょう。


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