「ドキュメント 道迷い遭難」を読んだ

「ドキュメント 道迷い遭難」は、実際に道に迷って山で遭難した人たちに取材をした本だ。

いつ遭難するかなんてわからないので、登山初心者としては一度は読んで置いたほうがいいかも、と思って手にとってみた。

この本に登場する人も山のタイプも様々で、おそらく意図的に条件の違う遭難事例を組み込んでいるのだろう。

山で遭難したら「尾根に登り、沢に下るな」というのは初心者でも知っている格言なのだけど、遭難した人たちは、不思議なくらいにみんな沢へと降りてしまっている。

登場するのはある程度の登山経験を積んだ人たちなので、当然この格言はみんな知っているのだけど、いざ遭難してしまうと、そういう冷静な判断ができなくなってしまうようだ。

道に迷ったら引き返せばいい、というのもよく言われていることだけど、迷ったと気づいた時には既にそれなりの距離を進んでいるので、その移動に費やしたコストが無駄になることを嫌い、「もう少し進めばどこかに出るだろうから、このまま行ってみよう」という心理に陥りやすくなる。

このため、道がわかっていないのにさらに先に進んでしまって遭難の深みにはまり、やがて体力も食料もなくなって、戻るに戻れなくなる。

こうして自力では下山できない遭難者が誕生してしまう、という仕組みになっているようだ。

以下で本書を読んで気がついたことを記していく。

ヘリに見つけてもらえない

多くの遭難者が、遭難してから数日以内にヘリが自分を捜索していることに気がついている。

しかしヘリの側は遭難者を発見できず、そのまま通り過ぎてしまうことが多いようだ。

これは遭難者がヘリが通った時にヤブの中にいたり、目につきにくい場所にいてしまったことが原因になっている。

遭難し、自力での下山が難しいようなら、見晴らしのいいところで救助を待つのがいいのだろう。

ヘリから見つけやすいよう、発煙筒などの装備を持っているといいのかもしれない。

そして頂上や尾根などの、遮るものが少ない場所ほど携帯の電波が届きやすくなるので、大変そうに思えても、なるべく高い場所を目指すのが遭難時に助かりやすくなる条件のようだ。

尾根や頂上にはたいてい登山ルートが通っているから、正常な道に復帰できやすくなる、という効果もある。

間違ったサインに惑わされる

複数の事例で見受けられたのが、道の分岐点にさしかかった時に、リボンやテープなどのサインがつけてあるのを見て、こちらに進めばいいんだな、と判断して間違えてしまう、という現象だ。

どちらに行けばいいのかな、と迷った時、そういうサインを見つけると、それに頼りたくなる心理が働くのだろうけど、これが間違っていると、そのまま遭難に直結してしまう。

ある事例では、赤いリボンが目印につけてあったので、そちらが正解ルートなのだろうと思って道をたどったら遭難してしまった、という話が出てくる。

実はそのリボンは正しいルートを示すサインでもなんでもなく、後の検証でも、何のために付けられたものなのかが判明しなかったのだそうだ。

なので、リボンやテープを見かけても、それを簡単に信じきってしまわず、自分で地図を見てルートを確認できるスキルがないと危険だ、ということなのだろう。

単独行は遭難しやすい

この本に登場する人たちは、単独行の最中に遭難した、というケースが多いようだ。

ひとりだと冷静さを欠いた判断をした時に、それをとがめたり、修正してくれる人がいないので、そのまま誤った行動を続けてしまいやすくなる。

沢を下るとたいてい滝に行き当たるのだけど、遭難した人は10メートル以上もある滝の斜面を下りようとするという、とんでもない判断をするケースが多い。

本書の中にも、滝壺に飛び込んで足を骨折してしまい、そこで身動きを取れなくなってしまった人の話が出てくる。

もしも同行者がいれば「そんな危険なことをするのはやめておこう」と言われて思いとどまれるのだろうけど、ひとりだと滝を下りるのにも躊躇しなくなってしまうようだ。

遭難した、という自覚が冷静さを奪い、通常であれば取らないはずの危険な行動を、容易に実行させてしまうのだろう。

実際、統計的なデータでも、単独行の遭難後の死亡率は、同行者がいる場合に比べて格段に高いようだ。

遭難時のリスクを考えるなら、単独行はなるべく避けた方がよいのだろう。

沢の危険性

沢を下るのがどうして危険かというと、すでに触れているが、途中で滝や急斜面に行き当たる可能性が非常に高いからだ。

道迷いから遭難して死亡してしまう人は、沢沿いの滝の近くに倒れていることが多く、白骨化するまで発見されないことが多い。

人がめったに来ない滝を無理に降りようとして転倒・滑落し、大怪我をして動けなくなり、やがて力尽きて死んでしまう事例が頻発しているらしい。

それゆえに沢を下るな、と繰り返し言われるのだけど、沢に向かう道は下り坂なので比較的歩きやすく、下流に向かって歩けばいずれ人里に出られるだろうと思い込んでしまいがちだ。

また、飲料水がなくなってしまったので、水が補給できなくなるのを恐れてなかなか沢から離れられなかった、という遭難者の話も出ていた。

人間は危機に陥ると、本能的に水のある場所に行きたがる、という傾向があるのかもしれない。

遭難した時にはその本能に逆らって、あえてしんどい尾根や山頂を目指す、という行動が必要になるのだが、わかっていてもなかなか理屈通りには実行できないようだ。

経験があっても迷う時は迷う

遭難するのは初心者の方が多いのかもしれないが、登山に慣れている人でも、わかりにくい登山ルートを選んだ時には迷ってしまうようだ。

それに山に慣れていても、遭難に慣れている人はまずいないので、登山経験の豊富さは、いざという時にはさほど役に立たないのかも知れない。

経験の多い少ないに限らず、自分も遭難する可能性はあるかもしれない、と常に考えておいたほうがいいのだろう。

遭難の対策として

この本は実際に遭難した人たちの具体的な話が掲載されていたので、読み込めば自分で色々と教訓を見いだるところがいいと思った。

とりあえず簡単にできる対策としては、登山時には登山届を必ず出すようにし、遭難時の救出費用の補填を受けられる保険には入っておいた方がいいようだ。

登山届を出して家族や知人に知らせておけば、予定をオーバーした際に遭難したと気づかれて警察に連絡が届き、捜索が迅速に行われるし、どこを捜索すればいいかもわかって救出される可能性が高くなる。

今はコンパスという、WEBから登山届を共有できるサイトもあるので、提出にそれほどの手間はかからない。

また、遭難の救出には50万〜200万円くらいの費用がかかるようなので、頻繁に登山をするのであれば、それをカバーする保険的な手段は講じておいたほうがよいと思われる。

私はJROという、遭難費用のみを分担して負担する制度に加入しておいた。

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