元恋人に「手切れ金」払ってもいい? 中国でトレンドに
ケリー・アレン BBCモニタリング
中国・杭州市の警察は5月初め、不審なスーツケースを見つけたという通報をバーの従業員から受けた。
スーツケースには200万元(約3500万円)もの現金が入っていた。人生を一変させるほどの金額だ。
警察が持ち主を突き止めると、持ち主はこのバーで元恋人と会うつもりだったと説明した。
なぜ大金を? 実は中国では、「手切れ金」が新たなトレンドとなっているのだ。
真実の愛の値段?
恋人がいるとお金がかかる。そうなりがちなのは、誰もが同意するだろう。つきあい始めたころには飲み物や外食にお金をかけるし、その後は贈り物や旅行などの出費がかさむ。
中国ではここ数年、破局後に互いの持ち物を返すために気まずい思いをしながら会うだけでは飽き足らず、いわば長い関係を終わらせる際の賠償金の一種として、現金を渡すことがあるという。
法的拘束力があるわけではないが、離婚協議における慰謝料と似ている。
手切れ金を払うのは、別れを切り出した方だ。その関係のために使った時間や努力、お金といったものに基づいて、相手にいくら支払うかを決める。
実務的に相手が自分たちの関係に費やした金額を返す場合もあれば、別れによる精神的ダメージに基づいて算出する人もいる。
多くの場合、別れを切り出す罪悪感や相手の怒りを静めるために男性が支払うという。しかし中国では伝統的に男性が外食の費用を持ったり贈り物をしたりするため、女性も徐々にこうした費用の負担を受け入れてきているようだ。
このトレンドは、消費主義の高まりから都市部に広がる現象だという説もある。
一方で、女性が今よりも男性に経済的に依存していた時代の名残だとする意見もある。中国における恋愛関係は伝統的に、結婚を前提にした現実的なものだった。つまり、「手切れ金」は当事者の精神的ダメージを防止し、前の相手との関係を白紙に戻すことに役立つわけだ。
特に年齢が上の女性の場合、この人と付き合っていなければもっと若いころに、キャリアを優先させるか、別の「理想の人」と会えていたかもしれないのに――という失われた機会への無念の気持ちを、「手切れ金」は癒してくれるのだという。
マスコミに登場する「手切れ金」に関する話題は、一見無害なものから、複雑な裁判沙汰になった事例までさまざまだ。
皮肉な笑いに彩られたケースもある。4月にあった案件では、女性が元恋人に、2人で訪れた全てのレストランとホテルの一覧を送りつけた。この女性は懸命に元恋人が自分に投資した金額を調査し、借りたと思う全金額の返済を希望していた。
1月には東部の寧波市で、恋人に捨てられたことが原因で薄毛になったという男性が賠償を求めた。
もっと深刻なケースもある。2014年11月、四川省の男性が、恋人に複数の相手がいたことを知り損害賠償を求めた。
2人はそれぞれ結婚していたが5年間にわたり交際を続け、男性は女性にしばしば服飾費として現金を渡していた。この女性が何度か「手切れ金」を払うことを拒否した後、男性は女性の家に行き、家族に酸をかけた。
男性は過失致死容疑で逮捕されたが、自分たちが公平な立場で別れていたら事件は避けられたと主張した。
「男のおもちゃ?」
国営英字紙グローバル・タイムズによると、杭州市のバーに置き去りにされた現金について、相手の女性は「数百万元足りない」と思ったと話している。
「受け取らないまま、店を出ました。彼には自分で持ち帰るように言いました。それだけです」
しかし、女性は元恋人がすでにバーを後にしていたことに気付いていなかった。2人はその後、警察署に出向き、現金の返還をそれぞれ求めた。
警察は男性の方に現金を返しつつ、これほどの大金をこれほど軽率に扱ってはならないと注意した。しかし男性は、元恋人に払った金額が十分だったかどうか、今でも悩んでいるという。
「200万元って大金ですか?」。20代のこの男性は、首をかしげている。
中国のミニブログサイト「新浪微博」のユーザーたちは、信じられないという様子だ。あるユーザーは「200万元あれば杭州にちゃんとした家が買える」とコメントした。
他のユーザーも「なぜお金が必要なのか」と尋ねている。また「この女性は自分を何だと思っているんだろう。商品とか、男性のおもちゃ?」と、女性の自立心を疑う声もあった。
中国の大きな男女格差を理由に、「手切れ金」が男性に与えるプレッシャーを指摘する声もあった。
「どうして男性は常に女性にお金やものを与えなくてはいけないのか。男女は不平等?」と、あるユーザーは書いている。
また、愛とお金の関係性にも疑問が投げかけられたほか、こうした習慣のせいで中国の貧しい男性が、今まで以上にパートナーを見つけにくくなるのではないかという意見もあった。