Kさん(53)は今は高校3年生の娘がまだ幼いときに夫と離婚したシングルマザーです。離婚後に始めた飲食店の経営は順調ですが、「大学進学を希望する娘の教育費と自らの老後資金をどのように捻出すればいいのか、考え出すと不安でたまらない」そうです。娘とともに相談に訪れました。
■私立大進学や浪人で貯蓄が底をつく
飲食店経営にかかる経費や国民年金保険料、健康保険料などを差し引いたKさんの手取り収入は月31万2000円前後です。貯蓄は、離婚の際に元の夫から受け取った慰謝料と養育費400万円を含めて計530万円あります。
娘は国公立大学が第1志望ですが、滑り止めとして私立大学の受験も検討しているようです。ただ、Kさんは「今の収入と貯蓄だけでは国公立が精いっぱい。私立だったり、合格した大学が自宅から通えなかったり、万一浪人したりしたら、貯蓄は底をついてしまう」と話します。
Kさんの家計を見る限り、私も現実はそうだと思いますし、娘も「なんとか国公立に合格したい。母には負担をかけたくない」と話します。
■「家にいるときまで料理はしたくない」
私はまず、支出に問題がないかどうかKさんの家計の状況を精査しました。無駄遣いといえるような支出はないものの、まだ節約できる余地もあるので、Kさんと娘と一緒に改善策を話し合いました。
削減できそうな支出はまず、食費です。普段、Kさんは自宅から離れた飲食店で遅くまで仕事をしていることもあり、娘の弁当や夕食のために総菜を頻繁に購入しています。店が休みのときなども「家にいるときまで料理はしたくない」という心理が働くようで、外食に出かけたりデリバリーを利用したりすることもあります。
次に目に付いたのが通信費です。Kさんと娘はともに大手キャリアのスマートフォン(スマホ)を利用しています。さらに、Kさんは仕事でどうしても通話する必要があり、スマホの利用料を押し上げています。
■娘の訴え、聞き入れず
話を進めるうちに表情が次第に険しくなってきた娘は「大学に進学したらアルバイトをしてお母さんの負担を少しでも減らしたい」と切り出しました。離婚後、Kさんが苦労して自分を育てていることが身にしみて分かっていたのです。
しかし、Kさんは「あなたは勉強だけ頑張っていればいい」と聞き入れません。ただ、娘も負けていません。「お母さんはいつも自分だけで問題を抱え込み、ひとりで何とかしようとするけれど、私にだってできることはある」といい、「弁当は自分と母の分を私がつくり、夕食も用意する」と提案しました。
そして大学の学費については奨学金の利用を検討していることも明らかにしました。娘はすでに高校の進学相談で、奨学金について詳しく調べていたのです。
この親子はきっと、娘が「お母さんを助けたい」と訴えても母親は「私がなんとかするから大丈夫」と突っぱね続けているのだろうと思った私は、この家計相談が娘の思いを母親に伝える「好機」だと感じました。
■話題を支出削減から奨学金へ
そこで私は話題を支出の削減から奨学金に変えました。娘が人生で初めて背負う「借金」にはなりますが、返還額がどの程度になるかなどをきちんと検証し、計画的に利用するのであれば、奨学金は学業継続の強い味方になります。また、お金を借りてまで大学に通うということは、授業を欠席せずに真面目に学業に向き合うといった効果もあると私は考えます。
さらに老後資金が足りない人が無理をして教育費を負担すると、当然ながら老後を迎えたときの備えが不足し、結局は子どもに迷惑をかけることもあるのです。Kさんははっとした表情で「そこまでのことは正直、考えていなかった」と打ち明けました。
結局、娘の学費は奨学金でまかなうことにし、高校3年の時点で進学後の奨学金を申し込む「予約採用」の手続きをとりました。併せて、志望する大学で扱っている給付型の奨学金についても調べ、できるだけ負担が少ない方法で大学へ通える道を探っていくことにしました。
■教育資金と老後資金の準備が整う
一方、Kさんの家計は娘の協力により食費を月に1万4000円減らしたほか、娘が率先してKさんの分も含めてスマホを格安スマホに切り替えて通信費も同額を削減しました。
また、生命保険のうち死亡保障と医療保障は継続するものの、貯蓄型のものは流動性資金を確保する観点から解約。月々の保険料も1万7000円減らしました。
こうした取り組みで、Kさんの家計は月々1万9000円ほどだった黒字が7万円にまで増えました。そしてKさんの老後資金づくりのため、このうち2万円を積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)で運用していくことにしました。そして、この2万円を除く5万円を娘の学費のために貯蓄することにしました。
Kさんは娘の教育資金も自らの老後資金も、まだ十分とはいえませんが、準備する体制が整いました。今後、実際に娘が大学に進学してからどの程度の学費がかかるかや、老後資金をどこまで増やすかを再検討します。
■最善策は親子でよく話し合うこと
親が「シングル」かどうかにかかわらず、教育資金と老後資金のバランスは大切です。子どもの教育にお金をかけ過ぎると、親の老後資金が脅かされます。子どもが独立するなど成長すれば、親が子どものすべての面倒をみなくてもよくなります。親だけが頑張るのではなく、柔軟な考えを持ち、子どもとよく話し合い、親子それぞれがお互いにとってベストな道を探ってください。そうすることが教育資金と老後資金のバランスを整える最善策なのです。
(「もうかる家計のつくり方」は隔週水曜更新です)
横山光昭(株)マイエフピー代表、mirai talk株式会社取締役共同代表。顧客が「現在も未来も豊かな生活を送ることができる」ことを一番の目標に、独自の家計再生・貯金プログラムを用いた個別の指導で、これまで1万件以上の赤字家計を再生。著書は累計100万部を超える『年収200万円からの貯金生活宣言』シリーズ、累計65万部の『はじめての人のための3000円投資生活』シリーズがあり、著作合計88冊、累計270万部となる。講演も多数。 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。