AMAZONの『女性の医学』(近藤誠)にレビューを投稿した産婦人科医ワトソン君が相も変わらず統計数字を粗雑に扱って論理のごまかしを開陳しています。
あれやこれやと書き連ねれば連ねるほど、それまでの説明や主張が綻びて自ら墓穴を掘ってきているのは、統計学や論理学の素養がある人であれば理解できるでしょう。
今回のブログ記事では、彼がコメント欄で述べている「上皮内がんからのがん化率は23%」が統計データの杜撰な扱いとごまかしとも言える論理から導かれた誤った結論であることを解説します。
3月18日付の彼のコメントを以下に引用します。
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上皮内がん(CIN3を含む)を含めた総数は27850人ですから、そこから10737人を引くと、17113人が上皮内がんの患者となります。ただし検診を受けてない人や、受けていても見逃されている人もいますから、実数はその2~3倍ぐらいあるかもしれません。一方で上皮内がんという診断がついた人は、そのほとんどが治療を受けるので浸潤がんになるのはごく少数です。
あくまでも概算ですが、上皮内がんの有病者が診断数の3倍、つまり17113人×3=51339人であるとして、そのうち診断されておそらく治療された17113人を差し引くと、34226人が診断されずに放置される上皮内がんとなります。一方、10737人の子宮頸がん(浸潤がん)のうち、腺がんを除くとおそらく8000人前後が扁平上皮癌でしょう。8000/34226=0.23ですから、上皮内がんからのがん化率は23%になります。これは諸家の報告と比較して矛盾しない数値です。もしも実際には1/3以上の上皮内がんが発見されていれば、もっとリスクは高い計算になります。いずれにせよ「99%はそのままであるか、消えてしまうがんもどき」であるとは言えません。
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ワトソン君は、日本女性の子宮頸がん(浸潤がん)、上皮内がん、高度異形成の罹患率(数)等の統計データをあれこれいじくり回して、「がん化率23%」という数値になんとか漕ぎ着けて「諸家の報告と比較して矛盾しない数値」と述べています。
(※「諸家の報告」と言っているのは、私のブログ記事「高度異形成~上皮内がんは浸潤がんに進行するのか?(その1)」で紹介した〔2〕や〔3〕のような論文を指します)
最初に指摘しなければならないのは、AMAZONのレビューやコメント、そしてほたかさんのブログや私のブログ記事の中でワトソン君の主張を批判し、その中で繰り返し問題にしているのは、検診で発見されている若年女性(特に20代女性)の高度異形成~上皮内がんは、産婦人科医が「命を脅かす」と言うところの浸潤がんに本当に進行するのか、進行するとしたらどれくらいの割合なのかということと、検診で生じている過剰診断と治療(手術)の深刻な弊害とその頻度だということです。
ワトソン君が答えるべき論点、焦点はそこにあります。
そこでまず言えるのは、上記引用文の「17113人が上皮内がんの患者数」という数値が年齢階級別に捉えていない全女性の数字になっている点です。若年女性に発見される高度異形成~上皮内がんの、浸潤がんへの進行を問題にしているのですから、全女性の上皮内がんの数を出発点にしてはいけません。若年女性のそれを出発点にしなければなりません。
20代女性に発見される上皮内がんは全体の17133人より少なくなる(計算の分母が小さくなる)ので「がん化率23%」が高くなり、ある意味それは、ワトソン君の主張にとっては都合がよいはずです。
ただし、地域がん登録に計上されたデータから全国推計した「上皮内がん患者数17113人」という数値の信憑性、信頼性には大きな疑問があります。
上記引用文の前段でワトソン君は、「今まで上皮内がんと計上された中には高度異形成が入っておらず、ガイドライン改定後に高度異形成が時間差をもって漸次計上されるようになり、それが見かけ上の上皮内がんを増やしている」との主旨を述べています。
その説明に今のところ異義をはさむつもりはありませんが、そうだとすると、これまで使ってきた高度異形成~上皮内がんの統計データ値は実際の値よりもかなり低いということになります。
つまり、全国の医療機関の産婦人科医によって診断・治療されている高度異形成が、上皮内がんとしては報告・計上されていない、つまり統計上の数字に加算されていない部分が相当にあるというわけです。
統計に計上されていない高度異形成の診断・治療を含めて正確なデータを把握することは、過剰診断・治療の問題を分析する上で非常に重要なことです。それを把握する方法のひとつとしては、診療報酬支払サイドのデータベースを調べる方法があります。医療機関からのレセプトに基づいた、例えば診断名・円錐切除術の件数等の情報はかなり正確に統計処理・電子化されているはずです。
疾病別診断件数や治療法別件数などの情報は、診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会およびその関連機関によって集計蓄積されており、様々な形式で統計的に整理され公開もされています。その一部は、予防医学や疫学研究などの基礎データとして役立てられてもいます。
しかし、年間の年齢階級別の円錐切除術件数(診療報酬請求件数)といったような形式で公開された電子情報にはたどり着けませんでした。
(公開されていないのかもしれませんが、どなたか詳しい方がおりましたらご教示願います。)
日本の子宮頸がん検診で、若年女性において発見され治療されている高度異形成~上皮内がんの統計データ数値は、かなり曖昧で不正確なものです。
そのような背景もあって、私は別な角度から、つまり産婦人科医らの論文に記載された青森県の実際の検診の統計データを元にして、現在の日本の産婦人科医や病理医の診断基準に従えば、30歳未満女性の高度異形成~上皮内がんの有病率は約1%になるという推算をしてみたわけです。
日本の産婦人科医の子宮頸がんの診療ガイドライン、診断基準はかなり統一、共有されているはずですから、地域による罹患率の多少の差などはあるにしても、その約1%という数値には大きな誤差はないだろうと考えます。
言い換えれば、「地域がん登録による全国の推計データ」から高度異形成~上皮内がんの有病率を計算するより、私が推算した数値のほうがより実態に近い可能性があります。
話をワトソン君のコメントの検証に戻します。
彼の「上皮内がん患者数17113人」は実態よりかなり低い数値だろうと書きましたが、正確な数値は提示できないので、とりあえず17113人というデータ数値を前提に話を進めます。
40代~50代女性より20代女性のほうがずっと高い割合で高度異形成~上皮内がんが発見されるので、全体の半数が20代女性に発見されたとして、17113人×0.5=8557人を20代女性の高度異形成~上皮内がんの患者数とします。
次に、ワトソン君は概算として「上皮内がん(高度異形成を含む)の有病者が診断数の3倍」という設定を立てていますが、20代女性の検診受診率はどう考えても20%は越えていないだろうと思われます。したがって受診率を仮に20%とすれば、診断数の5倍、8557人×5=42785人が有病者数となります。
発見されずに放置される高度異形成~上皮内がんの数は42785人-8557人=34228人となります。結果的にはワトソン君の34226人とほぼ同じになりますが、統計データの捉え方や論理が違います。
この34228人という20代女性の高度異形成~上皮内がんの数値が、どれくらいの割合で浸潤がんに進行するのかという検証のための分母になります。
その次に分子となる数値ですが、ワトソン君はまたここでも全年齢層の女性の浸潤がん患者数、8000人を持ち出しています。この数から「がん化率=8000/34226=0.23」を結論しているわけですが、これは間違っています。
20代女性という10年の区分幅を持った群(分母)の10~30年後の予後を追跡調査するのですから、分子も同じく10年の区分幅で見なければなりません。これを全年齢層(の浸潤がん患者数)にしてしまうのは大きな間違いです。
分かりやすく説明すると、仮に20代女性の異常病変が20年後40代女性になった時にその20%ががん化するとすれば、50代女性のそれは20代女性の次の世代である30代女性の20年後を表していることになります。
したがって全世代の女性の総浸潤がん数を計算の分子にするのは、「がん化率」を数倍から一桁近く読み間違えることになります。
具体的にどのように数値処理して分子の値を計算するのが妥当なのかはちょっと混み入った話になるので、ここでは検診推進派に譲る形で、浸潤がん罹患率のもっとも高い年代層である40代女性の浸潤がん罹患数を計算の分子にしてみます。
40代女性の浸潤がん患者数は多目にみてざっと2300人ほどになります。
したがって、2300/34228=0.067となり、「がん化率」は6.7%になります。「過剰診断・治療」率は93%にもなります。
この数値は先のブログ記事「子宮頸がん検診による過剰診断・治療の異常な発生頻度(2)」で述べた「20代女性が検診を受けて「病変」を発見され手術を受けると、ざっとその9割は過剰診断・治療(手術)ということになります。」と矛盾しません。
また細かく言えば、20代女性の人口総数と40代女性のそれは異なり、40代女性のほうが1.4倍ほど多いので、浸潤がん数の補正も必要になります。その作業をすれば、93%はもっと100%に近づきます。
さらに検討すべき重要な論点があります。
40代女性の浸潤がんの中にある、浸潤がんの発見経緯、病態の問題です。
この年代は検診受診率が高い世代ですが、検診を継続的に受ける中でいきなり浸潤がんと診断された受診者も少なくないはずです。
これは「中間期がん」と言われているもので、例えば、継続的に検診を受け続けてきた女性が前回の検診では異常がなかったのに、たまたま不正出血があって診察、検査を受けてみたら、いきなり浸潤がんが見つかったというものです。中高年女性ではこのような形で浸潤がんと診断されるケースもまれではありません。
つまり、40代女性に発見される浸潤がんは、「若い時(20代)の高度異形成~上皮内がんが長年(10~30年)放置されて浸潤がんに進行した」という、産婦人科医らが言う「上皮内がんの自然史」とは全く異質な、近藤誠氏が言うところの所謂“スピードがん”が40代の女性の浸潤がんには、少なくない割合を占めているのではないかということです。
そのような、頸部粘膜上皮内にとどまる期間が極めて短くて、あっという間に浸潤し、検診ではいきなり浸潤がんとして発見される確率が高い「スピードがん」が浸潤がん全体の中でどれくらいの比率であるのかは、それを推計できるようなデータや論文を今のところ得ていないので、分かりません。
いずれにせよ、そのようなスピードがんは、高度異形成~上皮内がんのがん化率の計算の分子からは省かれるべきで、「過剰診断・治療」率の93%という値はさらに100%に近づくことになります。
子宮頸がんはがんの中でも進行が比較的ゆっくりしているがんなので、5年生存率も高いほうであると言われています。浸潤がんの中でもそういった増大スピードの速い、「上皮内がんの自然史」とは異質な性質を持ったがんが、より「命を脅かす」致命的ながんであるという言い方もできると思います。
逆の見方で言えば、無症状の若年女性に発見されるような高度異形成~上皮内がんは、そのほとんどが命を脅かさないものではないかという考え方も成り立ちます。
こうして色々検討してみると、ワトソン君ら産婦人科医が言う「高度異形成~上皮内がんは10~30年かけて、その20~30%が浸潤がんに進展する」という言説よりも、近藤誠氏の高度異形成~上皮内がんの「99%はそのままであるか、消えてしまうがんもどき」という主張のほうが説得力を帯びてきます。
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