その昔、1980年のこと。『伝説巨神イデオン』というアニメがありました。
バンダイのガンプラが絶頂期に差し掛からんとしていた当時、アオシマというメーカーがイデオンのプラモを作っていました。
イデオンは地球人どうしの諍いではなく、異星のテクノロジーやカルチャーとの衝突を描いた作品であったため、
人間が理解できない大きさの概念とかフォルムの概念を取り入れたメカデザインが特徴なわけですが、
こうなると当然プラモデルも人間が理解できるものではなく、つまりプラモはいっぱい発売されたけど、「ガンプラほどは」売れなかったのです。
時は流れて2018年、地球、日本、静岡市。
駿河屋という模型店で"イデプラ無限在庫セール"が開催されており、何もかもが100円という値段で本当に無限と思われるほど売られていました。
これまでにも同店からは何度かイデオンのプラモデルが1個5円とか10円とかの謎の価格で放出されることはありましたが、
モデラー的には「まだ在庫あったのかよ」としか言いようがありません。当時、作りすぎたのでしょう。たぶん。
▲マジでうず高く積まれた数え切れないほどのイデプラが100円で売られている。
なぜ当時数百円はしたプラモが新品なのに100円とか50円とかで売れるのか。なんでこんなにあるのか。どうなってんのか。ふざけてんのか。
諸説ありますが、そこは触れると怖いので置いておきましょう。
とにかく、人間は安いプラモがあるとテンションが上がり、購入してしまうことがバッフ・クランの人々にも知られているということにしましょう。
それぞれのメカの対比が楽しめるよう頑張ってスケールを統一したものとされています。
造形の捉え方や製品仕様についてもイデプラシリーズ序盤の「勢い」よりも「慎重さ」が求められていたことは想像に難くなく、
おそらくは設定画に近いフォルム、繊細なディテール、そしてポーズ選択などのプレイバリューについて真剣に考えて盛り込まれてたことが見て取れます。
降着ポーズ用の曲がった脚がワンセットしか入っていない……というのは金型1枚で2回打てば2機セットになるのに、
「脚アリ」と「脚ナシ」のランナーが存在しているということ(そこ以外は全く同じ原型ですが、微妙に金型加工が異なっているのは組むと実感できます)。
これは2回打って2機セットにするより1回で2機打ったほうが勝算ありと判断した証左ですから、どれだけアオシマがイデプラに賭けていたのかうかがい知れます。
こんなに期待を込めて、わざわざ同じ原型を2つの金属塊にチマチマと彫り込んだというのに、
われわれは2018年に「100円wwwwww」「10個買っても1000円wwwwwwww」とか言いながら手に入れることができてしまう。
っていうか……何個作ったんだろうね……。一応当時は売れてたプラモなんでしょ……知らんけど。
冷静にそのフォルムとディテールとプレイバリューを考えると、これはけっこうイケてるというか、割り切りながらも可動箇所があって
ちょこんとした、しかし確実に見たことのないメカがスルスルと手のひらの中で出来ていく過程にはかなり陶酔します。
みなさま、イデプラを見かけたら、買うのです。
そして、現代の切れ味鋭いニッパーと強力かつ高速に乾く接着剤を使って、そっと組むのです。
塗っても塗らなくてもいいです。塗って失敗したらもう一個買えばいいです。安いし(オレは手が滑ってアディゴ2個買いました)。
切って、貼って、訳のわからないものが誕生する。あなたがやらなければ、無限に在庫として眠っている。なんだこの遊び。
「プラモ作るって、別にモチーフ云々じゃなくて、なんかおもしろいなー」という気持ちが、ここにあります。
40年近い時を、誰にも見られること無く待っていたバッフ・クランのメカたちの魅力は、ノスタルジーとは別のところにありますよ。きっと。