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出版事業や動画配信事業を運営するカドカワの川上量生社長は日経 xTECH/日経コンピュータの取材に応じ、著作権侵害コンテンツを多数掲載した海賊版サイトへのアクセスを遮断する「サイトブロッキング」を政府が容認するに至った経緯と、将来の望ましい法制度について語った。
サイトブロッキングの議論はコミックを中心にした海賊版サイト「漫画村」を機に始まったことではなく、「3、4年前から必要性を主張していた」と川上氏は明かす。だが、著作権を含む知的財産の保護に関する政府の会合などで議論を呼びかけても、具体的な議論は進まなかったという。
「海賊版は作品の泥棒であり、表現の自由の侵害に当たらない」。川上氏はカドカワを通じて他の出版社にもブロッキングの必要性をこう説いて回った。だが出版社は表現の自由を尊重する意識が強く、当時は賛同を得られなかった。
こうした雰囲気が一変したのが、コミックスや小説などを扱う海賊版サイト「Free Books(フリーブックス)」の登場だった。2017年前半に存在が知られるようになり、複数の作家から出版社に「このままでは生活できなくなる」「作品を預けているのに、出版社は僕らの権利を守ってくれないのか」と猛クレームがあったという。
フリーブックスは広告も出稿せず、サイト管理者の意図は不明。一般にコミックは動画よりもデータ量が小さく、比較的低コストでサイトを維持できる。「出版社には対抗する手段がなかった」(川上氏)。フリーブックス登場以降、出版社はブロッキング容認に傾いた。
「NTTを訴えさせてもらえないでしょうか」
川上氏は2017年10月、NTTの鵜浦博夫社長に問題について相談した。ブロッキングの必要性を訴えたうえで「NTTを訴えさせてもらえないでしょうか」と持ちかけたという。
川上氏の狙いは2つあった。一つは、訴訟を起こして、ブロッキングの必要性について世論を喚起すること。もう一つは、コンテンツをアップロードした発信者の情報開示を拒否する「防弾ホスティング」を運営する海外事業者などを通じて配信される海賊版サイトについて、ブロッキング以外に有効な代替策が無いと判決文で示してもらうことだった。
訴訟自体は負けても構わず、他に有効な代替策が無いことの証拠を積み上げたかったという。「当時はCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)事業者に発信者情報の開示を請求しても、発信者としての防弾ホスティング事業者を紹介されるだけで、その先にはたどれなかった。広告の出稿の要請は、コンテンツ業界は過去何回かにわたって組織的に取り組んでいるが、限定した効果しかなかった」(川上氏)。
川上氏はNTTの法務担当者ともブロッキングについて意見交換した。意図したのは「どうやって訴えれば、裁判官に踏み込んだ判決文を書いてもらえるか」だった。ただ話し合いの最中に、政府の知的財産戦略本部でブロッキングの議論が急展開し、訴える必要が無くなったと判断したという。