日本郵政グループが、非正規社員の待遇を向上させるため、正社員の待遇を引き下げるという、前段未聞の決断を行った。これまで正社員の待遇は一種の聖域とされてきたが、とうとうパンドラの箱が開いてしまった。
この話は決して日本郵政特有のものではなく、日本の企業社会そのものに由来している。企業の基本構造が変わらない限り、非正規社員の待遇を改善する代わりに、正社員の待遇を引き下げる動きは拡大していくだろう。
日本郵政グループは今年4月、約5000人の正社員が受け取っている住宅手当を段階的に廃止するとともに、非正規社員に対して、これまで認められていなかった一部手当を支給する方針を打ち出した。
従来の企業社会では、正社員と非正規社員の間には、身分格差といわれるほどの待遇差があり、これを是正するため、同一労働、同一賃金に関する議論が行われてきた。
だがこの議論は、基本的に非正規社員の待遇向上が大前提となっており、正社員の方の待遇を引き下げるという概念は存在していなかった。その意味で今回の決断は、一種のコペルニクス的転回といってよいだろう。
今回の決定が、春闘の労使交渉の延長線上にあるという点も非常に興味深い。
当初、組合側は非正規社員の待遇向上を要求していた。だが、会社側は非正規社員の待遇向上を受け入れる代わりに正社員の待遇引き下げを提案。組合側もこれを了承した。正社員の待遇維持に必死になっていた従来の労働組合では考えられない決断であり、会社が直面する現実について組合側も認識していることが分かる。
もっとも今回の決断には、日本郵便の契約社員が正社員との待遇格差是正を求めて起こした訴訟が大きく関係している。一審判決では原告側が一部勝訴しており、日本郵政グループには対応を急がざるを得ないという切迫した事情
だが、非正規社員の待遇を改善し、その代わりに正社員の待遇を引き下げるという動きは、決して一過性のものではない。これは日本の企業社会が持つ基本的な構造に由来するものであり、今後、この動きは徐々に各社にひろがっていく可能性が高い。
では、なぜ日本企業は、今後、正社員の待遇を引き下げなければならないのだろうか。