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高円寺「小杉湯」の番頭さんでイラストレーター。
銭湯図解が人気の塩谷歩波(えんやほなみ)さんに話しをうかがった。
・取材の前後に銭湯行く
・どんな銭湯でも自分の体を合わせる
・銭湯行く日は、その1日すべてが銭湯。遠征時の車内の会話はかけ湯。
などなどアツアツの銭湯トークを聞かせてくれた。


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出会いは鶯谷だった。


鶯谷駅の銭湯「萩の湯」が好きで、ことあるごとに足を運んでいる。
清潔な館内、大きくて熱いサウナ、露天風呂までついて最高にリラックスできる空間だ。
そんな萩の湯で、のんびり炭酸泉につかっていたら、壁に飾られた「浴室図解」のイラストが目に止まった。



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各地の名銭湯が丁寧に描かれた水彩イラスト。
斜め上から俯瞰した画法でどんな施設か丸わかり。説明書きも細かくて、好きじゃなければ書けない文章だ。

気になって調べると、作者は高円寺「小杉湯」の番頭さんにして、イラストレーターの塩谷歩波(えんやほなみ)さんだと言う。



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▲塩谷歩波さん

塩谷さんの前職は設計事務所。1年ほど働いた後、体を崩して休職した。
早く認められたい、がむしゃらに己を追いこみ過ぎた。

休職しているとき、唯一心安らげる場所が銭湯だった。
数千円使ってしまう遊び、若い世代がいるところは休職してる身には負い目が大きかったそうだ。

その点、銭湯はうってつけ。安くて、若い人もそんなに多くない。
3か月の休職期間中、ほぼ毎日通っていた。




前職のスキルを活かして、大好きな銭湯の絵を描きTwitterにアップしていたら、予想を上回る反応があった。そうこうしているうちに、小杉湯のご主人さんからお声がかかり転職。番頭イラストレーターとして1年が経つ。


そんな塩谷さんに話しをうかがったら、どうも「珍スポットと銭湯」ってけっこう共通点があるってことに気がついた。


銭湯博愛主義。「どんな銭湯でも自分を合わせる」


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ーー塩谷さんのTwitter見てると、めちゃくちゃ銭湯とサウナ行ってますよね。サウナの本場フィンランドにも遠征してたし。

塩谷さん(以下、敬称略):この取材前(13時から始まった)にも銭湯1軒入ってきましたよ!このあと、もう1軒行きますよ。


ーー取材を銭湯でサンドイッチするんだ!さすがだ。良い銭湯でしたか?

塩谷:最高でしたね。銭湯ってどこ行っても、最終的に「最高だったな」って感想になるんです。全部が全部、いい銭湯。どんな銭湯でも自分の体を合わせていきます。


ーーかっけえセリフ!一流アスリートみたい。

塩谷:銭湯をどうこう言うんじゃなくて、こっちの体を銭湯に合わせる!
サウナがぬるければその分長時間いるし、水風呂があんまり冷たくなければ、ひんやり感じる頸椎のあたりを冷やしたり、こっち側でやれる工夫がたくさんあるので。

最近、ヨガを始めたので、ヨガのポーズも活用できるんじゃないかって考えてます。足の親指をあごにつけて、ぐっと上部に押し上げると、鼻に冷気が通って気持ちいいんです。


ーーもう、銭湯博愛主義ですわ。

塩谷:銭湯もサウナもリスペクトしまくってるのでどうこう言えません。
取材とかで「ナンバーワンの銭湯はどこ」とか聞かれるんですけど、もはや一番とかじゃないんですよ。

ただ銭湯コンシェルジュみたく、その人に合わせた提案ならできますよ。
こないだあんまり銭湯行ったことない人に「一緒に行きたい!」って言われまして。「じゃあ、用意しますね」って5パターン提案したら引かれましたもんね。


ーー「用意します」って返答も本来オカシイですからね。5パターンってどんな提案だったんですか。

塩谷:たとえば「下町しっぽりパターン」は、まず浅草を散策して、蛇骨湯(じゃこつゆ)入って、湯上りにホッピー通りで一杯やって、最後は夜の墨田川を眺めて締めるってコースです!


ーー銭湯だけというより町全体を楽しむプランですね!

塩谷:そうです、そうです。銭湯に行く日は、その1日すべてが銭湯なんです。


ーーえーと……、その1日すべてが銭湯ってどういう意味でしょう?

塩谷起きた瞬間から銭湯なんですよ。銭湯に向けて気持ちを仕上げていって、銭湯上がったあとに美味しいもの食べて、すごく楽しい1日にする。そうなると、その1日すべてが銭湯じゃないですか。
車で遠征する時なんて、車内の会話はかけ湯みたいなもんです!


ーーじゃあ、今、この瞬間も銭湯ですか?

塩谷:もちろん!こうしてしゃべってたら体が暖まってきました!取材終わって外の空気に触れたら気持ちよさそう。まさに銭湯ですね。



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▲フィンランドで入手したサウナマット。サウナ協会員しか入れないサウナで買った。レアな1枚。


ーー塩谷さんって直接話すまでもっとクールな方だと思いこんでたんですが、めちゃくちゃ熱いですよね

塩谷:銭湯やサウナに出会うまで生きづらかったんですよ。胃が弱くて酒飲みまくるのもムリだし、カラオケでもストレス発散しきれなくて、前職は体壊して休職しました。

銭湯ならストレス発散もできるし、体調も良くなるし、ほんと出会えて良かった。銭湯は救世主。ストレス社会のメシアですよ!



サウナは家庭崩壊しかねないほど依存性が強い


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▲「サ道」作者タナカカツキさんのイラスト入りサウナハット


ーー銭湯もそうですけど、サウナにものめりこんでますよね

塩谷:サウナにハマるのは、社会で揉まれた人たちが多くって、ストレスのはけ口にしてるので信頼度、依存度が桁違いです!
サウナは依存しすぎると家庭崩壊しかねませんよ。


ーー私も好きでしょっちゅう行きますけど、サウナで家庭が壊れるなんてあります!?

塩谷:サウナ好きは家庭持ってる人が多いんですけど「わたしは子育てしてるのに、なにサウナばっかり行ってるの!」って奥さんから怒られたり。「仕事だよ」って言ってサウナ行くこともあるそうです。


ーー浮気してるみたい!サウナの気持ちよさって、ちょっと性の開放に近いところあると思ってましたけど。

塩谷サウナ仲間にSMのM嬢やってる子がいるんですけど「縄酔いとサウナで整う感覚って似てる」って言われましたね。


ーー縄酔い?

塩谷縛られた縄をほどくと、縄でちぢまってた血管がドッと広がるそうで。そん時の開放の気持ち良さが、サウナで整った感覚に近いんですって。


ーーああ、サウナで暖まって血管広がって、水風呂で血管がキュッとなるのに似てるんだ!新しい発見!



変わったおばちゃんがいると話しかけたくなる


ーー塩谷さんの銭湯の絵、寸法も測ってるんですよね?

塩谷:測ってますね。アイソメって建築画法なんですよ。ほんとはいつもメジャー持ち歩いて、銭湯に入りたいぐらい!


ーーメジャー持って、どうするんですか?

塩谷絶妙に使い勝手がいいカランの高さとか測りたくなる!「あ、ここは何cmだからよそと違う!」とか。
駒込にあるサウナ「ロスコ」の飲食スペースの椅子が絶妙にちょうどいい低さなので、あれも測ってみたい。



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▲自由が丘みどり湯


ーー元建築設計士ならではの楽しみ方だ……。銭湯の絵はどれぐらい時間がかかるんでしょう

塩谷1枚書くのに24時間くらいかかりますね。
下書き段階が一番時間かかる。紙のサイズのなかで最大限銭湯が良く見えるにはどうするのがいいのか。寸法やレイアウト、お客さんの様子とか思い出すのに時間がかかりますね。
アニメ見ながら描いてるんですけど、描き終わるころには1シーズン全部見終わっちゃいます。



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ーー塩谷さんのイラストに描かれてるお客さんって横になったり、あぐらかいてたり、自由きままですよね。

塩谷:サウナで寝てる人がいたり、壁に向かって祈祷みたいなポーズをしてたり、女湯は大変なことになってるんですよ。テレビ観ながら美顔器ゴリゴリしたり、だいたい何かやってますね。


ーーサウナ内で話しかけたりするんですか?

塩谷:変わったタイプのおばちゃんがいると話しかけたくなるんですよね。
「サウナ来るのはじめてで、いろいろ教えてください」って話しかけると、たいてい仲良くなれますね。


ーーこんな銭湯もサウナも行きまくってるのに!!そこは下から出るんだ。したたか!

塩谷:「教えて」って言って悪い顔する人いないですから。
そうすると「この場所で寝ると気持ちいいのよ」とかめっちゃルール違反教えてくれたり(笑)
そういう話を聞くのが好き。サウナ室ってそれぞれ限界で出なきゃいけなきゃから、ちょうどいい時間で区切れるんです。長時間話すのは難しい人とでも、気楽に話せるのがいいですね。


ーー高円寺「小杉湯」で番頭もされてますよね。常連さんとも仲良くなれそうですね。

塩谷:はい、常連さんと仲いいです!
とにかく所作が美しいお客さんがいまして。自前で砂時計を持ってきて、あつ湯と水風呂の交互浴でも自分を完全にコントロールしてるし、水風呂のかけ水も片膝ついて様になってる。名前も職業も知らないけど「プロ」って呼んで慕ってます。


ーーああ、いますよね、風呂場での所作が丁寧で、見ていて気持ちいい人!番台でもけっこう話すんですか?

塩谷:番台でのトークって、忙しくて10秒~15秒くらいしかないので、仲良くなるには「おやすみ~」とか「ここんとこ寒いけど体大丈夫~?」みたいに、あんまり敬語使ってちゃダメなんですよ。やってるうちにだんだん掴めてきました。


ーーなんかアイドルの握手会みたい

塩谷:最近、差し入れで食べ物もらうことが多くなってきました。もいだ椎茸とかパチンコの景品とか。ベテラン番頭からは「食べ物もらってこそ番頭として1人前」と言われてたので、すこし理想に近づけたのかも。



人の内面がにじみ出る銭湯って、珍スポットだ


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ーー塩谷さん、珍スポットもお好きだとか?

塩谷:高校の頃から好きで、別視点ガイドも読んでましたよ!
いままで取材やトークライブでは、そういう話ししてこなかったけど、珍スポット的な面白い銭湯も多いんですよ。


ーー教えてください!

塩谷:サウナのテレビに着目すると、駒込「ロスコ」と墨田区の「大黒湯」が面白いですね。


ーーえ?変な番組やってるんですか?

塩谷:いえ、ロスコのテレビはブラウン管なんだけど、画面が波打ってて何やってるのか分かんない。大黒湯はテレビが異常に小さくて、囲いの奥の方にある。
どっちもよく見えないんだけど、みんな眉間にしわ寄せて、必死で観てるのが愛おしくなっちゃう。


ーーあ~、それは面白い空気感だ!

塩谷:店主のオリジナリティが光ってる銭湯も面白いですね。
神楽坂の「第三玉の湯」もいいですよ。サウナ専用の休憩室があるんですけど、もう、おばあちゃんちみたい。

長椅子とマッサージチェア、テレビにお手製のお人形、あとは胡蝶蘭がなぜか3つありまる3畳くらいの普通の部屋。裸で休む場所なのにあまりに家庭的で、風呂あがりにおばあちゃんちの居間でくつろいでるみたいなんです!


ーーそういう家っぽい店、大好き!

塩谷:千葉の「クアパレス」もすごいですよ。



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▲クアパレス


ーーあ、行ったことある、そこ!めちゃくちゃゴージャスな見た目なんですよね。

塩谷:そうそう、銭湯には見えないぐらいファンシー。
また、あそこ、ジェットバスが強いんですよね。「馬力」って書いてありましたから。てすりから手を離したとたんに吹き飛ばされました!


ーージェットバスの勢い強すぎて、宙に浮くかと思いましたよ。

塩谷:あとは、番台さんのクセが強い銭湯もいいですね。
北九州にある「鶴の湯」のおばあちゃんがめちゃくちゃおしゃべりで、しかも、クイズ形式なんですよ。


ーーえ、どんなクイズ!?

塩谷:男湯と女湯がガラス張りの半透明ブロックで区切られてるんですね。「この区切りだと、なぜか男が喜ぶんだよ。なんでだとおもう!?」ってクイズ出されて。「覗けそうだから?」って答えたら、正解でした。


ーーめちゃくちゃ簡単!

塩谷:そういう人と話すことで、銭湯がもっともっと面白くなってきてる。
お風呂に入る行為自体はどこでも変わらないけど、銭湯にはそこの人の内面がにじみ出ますから。
そこが面白い!


ーー珍スポットを「店主の精神がありありと具現化してる空間」と定義づけてるので、たしかに珍スポに近いかも!


塩谷:そういう目線でも銭湯って楽しめますよね



【取材協力】

塩谷歩波(えんやほなみ)
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