青い鳥は、幸福の象徴と見なされることが多い。
モーリス・メーテルリンクの代表作である「青い鳥」による影響だと思う。
チルチルとミチルは幸せの青い鳥を探して様々な世界を旅する。けれど幸せの青い鳥は一向に見つからない。落ち込んで帰ってきたところ、青い鳥は自分達の部屋の中にいた。そんな感じの話だ。
殆どの「青い鳥」はチルチルとミチルが部屋に帰ってきて青い鳥を見つけたところで終わってしまうという。そして子供向けの童話というイメージが強い。
その教訓は、「幸せは身近なところにある」だ。
しかし原作には続きがあるらしい。やっと青い鳥を見つけたは良いが、その青い鳥もすぐに二人の手から飛び去り、どこかに行ってしまうのだ。
そこで最後にチルチル役とミチル役が観客に向け、問いかけるように次のようなセリフを叫ぶ。(これは原作が劇なのである。)
「どなたか、あの鳥を見つけた方は、どうぞ僕たちに返してください。僕たち、幸福に暮らすために、いつかきっとあの鳥が必要になるでしょうから。」
チルチルとミチルは、「あの鳥は自分達のモノだから、返してくれ」と言う。
「リズと青い鳥」の主人公である鎧塚みぞれが、「私なら青い鳥を、ずっと籠の中に閉じ込めておく」と言ったように。
目次
「響け!ユーフォニアム」の血統書
2015年のテレビアニメ放送開始から、3年が経った。
「リズと青い鳥」は、その「響け!ユーフォニアム」シリーズのスピンオフ作品となる完全新作で、主人公は同シリーズに脇役として登場していた鎧塚みぞれと傘木希美だ。
当初から「響け!ユーフォニアム」というアニメの魅力に取り憑かれていた私にとって、そしてファンの皆さんにとって、鎧塚パイセンと傘木パイセンの存在は身近なものだった。(本筋の主人公である黄前久美子にとって二人は先輩である。)
この二人にスポットが当たる場面がいくつかあったからだ。
なので当然、「響け!ユーフォニアム」を期待して映画館に足を運ぶことになる。
結果として「リズと青い鳥」は、完全に「響け!ユーフォニアム」だと言っていい。少なくとも私は、はっきりと、そう思う。
この二人が出てくると、どうしても「スラムダンク」になってしまう。青春スポ根アニメである。この汗臭い二人の存在は、今回は隅に追いやっておいた方が良い。
しかしそれでも前へ前へとしゃしゃり出てくるのが高坂麗奈。
高坂麗奈という存在が、そうさせるのだから仕方がない。誰も彼女を止められない。ということで高坂麗奈だけは今回も、きっちりと仕事をしていらっしゃいます。
では青春スポ根アニメでなければ「響け!ユーフォニアム」ではないのだろうか。
そんなことはない。「リズと青い鳥」が、それを教えてくれた。
「響け!ユーフォニアム」とは、思春期の真っ只中にある女子高生達が、「学校」「部活」というフレームワークの中で、ああでもないこうでもないと悩みながら、音を奏でる物語である。
そういった意味で「リズと青い鳥」にも、はっきりと「響け!ユーフォニアム」の血統書が付いている。
どっちがリズで、どっちが青い鳥なのか
本作品では「リズと青い鳥」という、リズという女性と青い鳥(少女の姿になることができる)の出会いと別れを描いた物語をベースにストーリーが進行する。
前半では鎧塚みぞれが自らをリズに例え、傘木希美を青い鳥に例えているような描写が見られる。しかし後半では傘木希美が自らをリズに例え、鎧塚みぞれを青い鳥に例えているような描写も見られる。
この逆転がストーリー上の大きな見どころとなっていて、最初は鎧塚みぞれがリズだと思って見ていたものが、ある時点から「いや、鎧塚みぞれが青い鳥なのだ…!」と気づかせてくれるような展開になり、ジワジワと本作品の面白みを感じられる。
しかし実際のところどうなんだろうか。(何が「実際」なのかよく分からないが。)
私は、お互いにとってお互いが青い鳥なのだと思う。
要するに、どっちもリズで、どっちも青い鳥なのだ。
鎧塚みぞれにとって傘木希美は特別な存在である。傘木希美にとっても鎧塚みぞれは特別な存在だ。(どのように特別か、が少し違うけど。)
リズにとって青い鳥が特別な存在、強い想いを抱く対象であるとするなら、鎧塚みぞれにとっては傘木希美が青い鳥だろうし、傘木希美にとっては鎧塚みぞれが青い鳥なのである。
理想的な「二人」の関係性とは
本作品を見終わって一番に考えたのは、「お互いにとってお互いが青い鳥であるという関係性こそ、理想なんだろうか」ということだった。
どちらかがリズで、どちらかが青い鳥では童話のように、二人は結ばれない結末になってしまうと感じたのだ。
傘木希美は「ハッピーエンドが良いじゃん」と言った。
良かったじゃないか。君達は青い鳥と青い鳥だから、ハッピーアイスクリームでハッピーエンドになったんじゃないのか。
…しかし、モーリス・メーテルリンクの「青い鳥」よろしく、この物語にも続きがある。
鎧塚みぞれと傘木希美は抱き合って気持ちを伝え合ったのも束の間、二人の高校卒業後の進路が分かれることは決定的となってしまった。
手に入れたはずの幸せも、またすぐ飛び立ってしまうんですね。
ちなみにこういった「二人」の関係性を深く描いているところも、「響け!ユーフォニアム」の本筋と同じである。
ただ、こう、なんというか、どことなく汗臭い本筋に比べて、まだ本作品は良い匂いがするんですよね…という程度の違いだ。
とにかく学校!な「リズと青い鳥」
ストーリー以外の面について、少し。
本作品は恐らく意図的に、「響け!ユーフォニアム」の本筋よりも更に執拗に、学校という舞台に拘って作られている。
というか、殆ど学校しか背景が無い。
コンビニで買い食いもしなかったし、お祭りで山にも登らなかったし、土手でユーフォニアム吹かなかった。
学校は鳥籠の暗喩というわけだ。
ただただ登校から下校までの間しか描かれず、その代りに下駄箱・階段・教室などの風景の描写、音の入れ方に対する拘りが半端ない。これは執念を感じるレベルで凄かった。
学校を描かせれば間違いなく、この「リズと青い鳥」が2018年のアニメの最前線・最新系となるのだろう。それだけで見る価値があるのではないか。
そして本作品の見せ場の一つ、鎧塚みぞれが自ら志願してソロパートを吹く場面。
泣くわ。そりゃ泣くわ。冗談ではなく、この辺りから徐々に劇場内の各所で啜り泣きが聞こえてくるのです。
この場面でのオーボエの音色に込められた感情たるや、そのどこまでも伸びていき突き抜ける爆発力たるや、それはもう私の中で音楽をテーマに扱った深夜アニメの傑作である「四月は君の嘘」を凌駕してしまう。
このオーボエを映画館で聴きたいがために、もう二回ぐらい本作品を見に行けると思う。
その「音」を聴くために
ということで本作品は、十分に劇場で見る価値がある。
そしてそれは一番に、「音」を聴くためである。
吹奏楽部の皆さんが演奏する音を聴きなさいという話だけではない。
この映画の冒頭から、鎧塚みぞれが「足音を聞いて」傘木希美が近づいてきたことを察したのではないかと思われる描写がある。まるで飼い主を待つ犬のように。
そういったところから、この映画は間違いなく「音」に拘って作られている。
吹奏学部を舞台にした作品なので当然といえば当然だろう。
本筋の青春スポ根アニメのようにスカッとして「良い汗かいた」的な展開(偏見が酷い)では無いかもしれないけど、これはこれでちゃんと「響け!ユーフォニアム」ですよ。
良い作品だと思います。
田中あすかパイセン…
このブログのアニメ感想の記事の多くには「推薦度」があって最高はS なのですが、本作品はA です。何故なら私の大好きな田中あすかパイセンが一瞬も出てこないからです。
あ、冗談です。
推薦度:A