1.同和地区の問い合わせー東京でも今なお堂々と
2017年5月8日、大手不動産会社(従業員7401名からなる株式会社の不動産事業部門を担う子会社)の社員が、江戸川区役所に「江戸川区の〇〇(地名)というところは同和地区ですか?」との問い合わせを行った。転勤で東京に住まいを確保したいという顧客からの質問を受け、インターネットで調べてみたがわからなかったので、こともあろうに区役所に問い合わせをしたのだという。
不動産物件が同和地区のものであるのかどうかを調べたり、購入にあたって同和地区の物件を避けたりするなど、部落あるいは同和地区(ここでは以下同和地区と表現する)と呼ばれてきた土地は他の場合には見られない不当な扱いを受けている。部落差別の現れ方の一つで、結婚差別、就職差別などとともに部落問題の核心にかかわる差別行為である。これを「土地差別」と呼んでいる。
東京では以前に、マンション建設会社社員が区役所に地図を持ち込み、同和地区を確認する事件や、不動産仲介業者が同和地区の所在地を部落解放同盟東京都連の支部役員に質問するという「信じられないような事件」さえ発生している。全国的にそして今日でもこのような事例は枚挙にいとまがない。そのあまりにも堂々とした差別者の姿に、土地差別が当たり前の行為として社会にまかり通っている現実を思い知らされる。
2.宅建業者の証言
図1は、それぞれの府県が当該地域の宅建業協会及び全日本不動産協会と連携して行った人権に関する実態調査の結果である。そのうちこれは、日常の営業の中で顧客や同業者から「物件が同和地区のものであるのかどうか」の質問を受けた経験をたずねた結果である。
いずれの府県においても4割前後の宅建業者がこうした質問(調査)を受けたことがあると答えている。土地差別の実態は全国的に、しかも日常的に私たちの身の回りで生じていることがうかがえる。
3.土地差別と土地価格問題
不動産もそれが商品である以上、需要と供給の関係において価格が形成されていく。土地差別の現実は、同和地区の土地に対する市場の需要を抑えこみ、結果として同和地区の土地価格を相対的に引き下げている。これが土地差別と連動した土地価格問題である。土地所有者にとっては資産に対する差別であり、融資を受ける際の担保物件評価においても不利な取り扱いを受けることとなる。部落差別は地面にまでしみ込んでいる。
図2は、2017年11月に実施された三重県における宅建業者に対する人権に関するアンケート調査の結果である。「同和地区内の物件と同和地区外の近傍類似地の物件とでは、実勢価格の差はありますか」との質問に、はっきりと「差はある」と回答したものが27.3%に達している。「差はない」の14.1%に比べると1.9倍になっている。
「同和地区の土地は近隣に比べて安い」という話をあちらこちらで聞くことがある。何の疑問や不思議もなく半ば当たり前のように受け止められている「常識」に土地差別問題の根深さを感じる。【次ページへつづく】
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