Written by HOMMURA Kyohei. (@twitter&@facebook)
今回は、日大フェニックスの件でいろいろとアメフトへの誤解が進んでしまうのではないかと思いアメフトの魅力について書いていきたいと思います。
引用:オードリー春日&若林が語るNFL愛。「お前、アメフト知らないだろ!」 - NFL - Number Web - ナンバー
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前置き
今回、日大フェニックスの件についてアメフトが注目されています。こういったことで注目されてしまうというのは非常に残念に思っていますが、これをキッカケによりよいアメフトのプレー環境の整備が進むことを期待しています。
関学戦での日大フェニックスDLによるレイトヒット&アンスポ(暴力行為)とその対応について - RED ZONE
日大フェニックスによる悪質な反則行為に対するチームと関東学生アメリカンフットボール連盟の対応について - RED ZONE
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普段よりアメフトやフラッグフットボールを携わるものとして、このまま多くの人に「危険なスポーツ」という認識を持ってもらいたくありません。
せっかく教育指導要領に載って、全国の小学校でフラッグフットボールがプレーされる環境が整いつつあるのに、今回の件でフラッグフットボールやその周辺のスポーツまで忌避されてしまうことは全くもって望ましいことでありません。
今回の件は極めてレアケースであり、1プレーによってアメフトのすべてを一緒くたにして判断してもらいたくありません。協会やチームの対応についても、内部事情や事なかれ主義によって引き起こされたものであり、アメフトというスポーツそのものに起因するものでないと思っています。
騒ぎが大きくなるにつれ、テレビの地上波や週刊誌などで「殺人タックル」などと取り上げ、煽られ、SNSでは当該プレーヤーへの誹謗中傷も増えてきているように思います。確かに、今回のプレーで相手プレーヤーが大きな怪我をしてしまったり、選手生命が絶たれてしまう可能性もありました。しかし、実際には誰も死んでおらず、大きな影響力をもつメディアとしてそのような表現をするのは不適切であると考えています。また、そういったメディアを見て短絡的に当該プレーヤーを過度に追い込んでしまい、最悪の結末になってしまう可能性もあります。
そうならないためにもアメリカンフットボール連盟、関東学生アメリカンフットボール連盟、日本大学には適切な対応をしていただきたいと思っております。また、メディアにて批判の対象とするのは上記の団体としていただきたいです。
当該プレーヤーやチーム、協会には適切な処分があって然るべきではありますが、関係のない多くのアメフトプレーヤーやアメフトファンにも被害が及ぶことがないように、私見ではありますがアメフトの魅力について語りたいと思います。
なお、国内アメフトの動画はあまり多くないので、アメリカの世界最高峰のプロリーグ「NFL」の動画を中心に、その魅力を紹介いたします。
ルールについて
日本ではアメリカンフットボールはマイナースポーツであるためルールにあまり馴染みがないと思います。
ラグビーと似ているボールを使っているため混同してしまうことが多々あります。見分け方のなかで一番言われているのが「ボールを持っている人だけにタックルしていいのかラグビー、誰にでもタックルしていいのがアメフト」というものがあります。
これはかなりざっくりとした説明で、ラグビーかアメフトかを見分けるためにはわかりやすいかもしれませんが、アメフトを捉えるためにはなかなか言葉が足りないところがあります。
もう少し噛み砕いた言い方をするならば、「アメフトはオフェンスとディフェンスに分かれており、オフェンスはボールを持っている人に向かってのみタックルしてOKで、ディフェンスはタックルしにくるオフェンスに対して誰でも邪魔して守る(ブロック)ことができる。」という感じでしょうか。
「タックル」と「ブロック」の違いというのは初心者には難しいと思いますが、そのあたりはざっくりでいいと思います。
「誰にでもタックルOK」ということではなく、誰が誰にどのような状況であればタックルしていいというのが決まっています。危険な状況下でのタックルや、ヘルメット同士でぶつかるようなタックルは禁止されており、チームにはペナルティが課せられます。
全体的なルールとしては、オフェンスチームは4回の攻撃でボールを10ヤード(約9m)進められればさらに4回の攻撃権が与えられ、最終的にゴールまでボールを運ぶことで点数が入ります。ディフェンスは持っているボールや投げられたボールを奪うか、4回で10ヤード進ませないようにすれば攻守交代となるので、それを目指します。
アメフトの魅力
前置きが長くなってしまいましたが、ここから本題です。
アメフトの魅力について下記の3点に分けて紹介したいと思います。
- 制御されたスピード&パワー
- 戦術戦略による駆け引き
- スペシャリティの集まり
制御されたスピード&パワー
今回、暴力行為があってしまいましたが、やはりアメフトの魅力のひとつは強烈な身体接触です。これは否定できません。
ただし、それは当然ルール内のもとで行われるものであり、スピード、パワー、テクニック、それらが正確に制御されたハードヒットです。
ボクシングや野球でも大雑把にブンブン振り回された結果でのKOやホームランよりも、絶妙な角度とタイミングで打たれたカウンターや厳しいインコースのボールを一閃振り抜いたホームランのほうがカタルシスを生むように、アメフトのハードヒットにも似たようなカタルシスがあります。
アメフトにおけるハードヒットにもいろいろあるので、ポジションに分けて紹介します。
ディフェンスライン
まず紹介したいのはディフェンスライン(DL)です。
引用:[05]03(1)ディフェンス・ライン | アメフトのルールとプレー解説 [ねこアメ]
このポジションはディフェンスの最前線に位置して、パスを投げるオフェンスプレーヤー(QB)やそこからボールをもらって走るプレーヤー(RB)に向かってタックルをしにいきます。このときオフェンスライン(OL)と呼ばれるポジションのオフェンスプレーヤーはそれを阻止すべくブロックします。
OLには屈強なプレーヤーが配置されるため、DLがタックルを決めるためにはOLの邪魔をはねのけたり避けたりするパワーやスピード、テクニックが要求されます。
もちろんパスを投げたあとのQBにタックルすることは反則になります。
セーフティ
次に紹介するのはセーフティ(S)です。
引用:[05]03(3)ディフェンス・バック | アメフトのルールとプレー解説 [ねこアメ]
このポジションはDLとは反対にディフェンスの最後尾に位置しており、パスを受けたオフェンスプレーヤーやDLがタックルできなかったオフェンスプレーヤーにそれ以上進まれないためにタックルをしにいきます。(上図では中央のFSとSSの総称がセーフティです。)
上の動画は強烈過ぎるので、観る者にとってみれば魅力的に映るシーンでも、プレーヤーやその周りの人にとってみればネガティブに映るかもしれません。ただ、アメフトの競技性質上、ルールのなかであり得ることはあり得ると伝えていくことも必要であると思っています。
動画にあるプレーのなかには反則取られてしまったものもありますし、それすらもアメフトの魅力であると言うつもりはありません。年々、プレーヤーの安全をいかに守るかが議論され、ルールはアップデートされていっています。
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ランニングバック
ディフェンスが続きましたが、最後に挙げるのがオフェンスのランニングバック(RB)というポジションです。
このポジションは主にボールを持って前に運ぶ役割を担います。前述の通り、ディフェンスはボールを持っているオフェンスプレーヤーに向かって襲いかかってくるので、タックルに負けない強靱な肉体と華麗にかわしていくスピードが必要になります。
こちらは引退されてしまいましたが、国内リーグにて活躍された末吉選手の動画です。
戦術戦略による駆け引き
次にアメフトの魅力として挙げたいのが戦術と戦略です。
アメフトの試合では、一つのプレーが終わるたびに「ハドル」と呼ばれる作戦タイムが設けられています。
そのハドルでは11人全員に次に実施する作戦が伝達されます。プレーヤーはあらかじめ作戦におけるそれぞれしなければいけない動きや役割を覚えており、作戦名が伝えられただけで数秒後にはプレーを行っています。オフェンスの作戦というのは下記のような感じです。
引用:http://www.qbclub.co.jp/column/origin_32.html
このような作戦が100個以上あり、それらを覚えてカラダに動きを叩き込まないといけないためアメフトプレーヤーは単なる「脳筋」であってはいけません。作戦を忠実にこなすことでより確実に相手の作戦を止めることができます。
その上で、相手が次どのような作戦を仕掛けてくるのか、という駆け引きがアメフトの大きな魅力の一つになります。
このあたりについては「オードリーのNFL倶楽部」にて「若林の熱視線」にて詳しく紹介されています。
NFLにおいて、駆け引きが一番象徴的だったシーンを紹介します。2015年に行われたスーパーボウル(NFLのチャンピオンを決める試合)でのプレーです。
このときの状況は、紺のユニフォームのシアトル・シーホークスが24-28で負けており、試合時間は残り26秒となっています。白のユニフォームのニューイングランド・ペイトリオッツはこの攻撃を止めることができれば勝ち、ゴールまでボールを運ばれてしまえば負けが確実です。
ゴールまで残り1ヤードしかないのでRBに渡して突破する、もしくはそれのフェイクでQBが持って走るというのがセオリーです。しかし、シーホークス(紺)はそのどちらでもなく、裏の裏をかいてパスプレーを選択します。
一方のペイトリオッツ(白)は、RBとQBのランをどちらも警戒しつつも、パスプレーでくるなら可能性を事前の研究によって把握しており、その対策がバッチリ決まったことでインターセプト(パスを奪い攻守交代にする)となり、勝ちをほぼ確定させました。
このような駆け引きはどんなスポーツにもあるとは思いますが、アメフトの場合はハドルがあることでかなり細かく作戦が決められており、毎プレーが途切れるためその作戦の成否もわかりやすくなっています。
もちろんこういった戦術と戦略がわからなくてもアメフトは楽しめると思いますが、こういった側面を知ることでさらに観戦するにしても、プレーをするにしても楽しくなるのではないかと思っています。
上で貼った「若林の熱視線」は書籍にもなっているので、是非読んでもらいたいです。
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スペシャリティの集まり
最後に紹介するのはむしろプレーする側としての魅力かもしれません。その魅力とはアメフトというのは「スペシャリティ」の集まりであるということです。
もっと噛み砕くと、どのプレーヤーも役割が明確に決められており、それぞれがスペシャリストになることで作戦が成り立っているということです。
前述したDLやS、RB、QB、OLなどのポジションはもちろん、パスを受ける役割のワイドレシーバー(WR)、パスを阻止する役割のコーナーバック(CB)、キックオフやパントを蹴る役割のキッカー(K/P)など細かく役割が決められており、ほとんどのプレーヤーがそのポジションのみを担当します。
これによって何がいいかというと、必ずしも全般的な運動能力が高い必要はなく、何か一つに秀でた能力を持っているだけで活躍できる点です。
例えば、走るのが苦手でも投げるのが得意であればQBになれますし、走るのが苦手でもカラダが大きければOLができますし、サッカー経験者であればキッカーになれます。
特にキッカーはサッカーにおけるGKのように他のプレーヤーとは全く異なる技術が要求されます。身体接触はほぼないため、体格に劣る日本人でももしかしたらこのポジションでNFLが実現するかもしれません。これもスペシャリティが要求されるアメフトならではの魅力です。
もちろんキッカー以外のポジションでもNFLを目指しているプレーヤーはたくさんいます。日本人NFLプレーヤーが誕生するのはいつの日になるのかわかりませんが、その実現のためにはアメフトへの誤解を取り除き、少しでも多くの人に関心を持ってもらったりプレーをしてもらうことが必要だと思っています。
フラッグフットボール&タッチフット
たくさんの魅力があるアメフトですが、そこから身体接触を取り除き、誰でも安全にプレーができるように考案されたスポーツもいくつかあります。
その一つが自分がプレーしている「フラッグフットボール」です。このスポーツではタックルの代わりに腰についているフラッグを取ります。タックルを守るためのブロックも大人ルールだと禁止になっています。
手前味噌で恐縮ですが、自身のチームの試合動画を貼っておきます。
フラッグフットボールの他にも、タックルの代わりにタッチするタッチフットというスポーツもあります。
これらのスポーツは身体接触はありませんが、アメフトの魅力である「戦術や戦略」「スペシャリティの集まり」という部分については充分に踏襲されており、アメフトよりもプレーすることに対するハードルが低いので、自らがプレーできる面白さというのが加わった魅力的なスポーツだと自分は思っています。
学習指導要領にフラッグフットボールが掲載されたことで、小学校の体育授業でもプレーされており、年々注目を集めてきているスポーツですので、これをキッカケに知っていただけると嬉しいです。
オススメのアメフト映画&マンガ
最後にアメフトのことをよく知らなくても楽しめるオススメの映画とマンガを紹介したいと思います。
映画のリンクはAmazonビデオとDVDのどちらも貼っております。Amazonビデオはレンタルであれば200円ほどで観られますし、DVDも1000円しないくらいで注文できます。
ロンゲストヤード
「囚人vs看守」でアメフトの試合をすることになり、囚人側のQBは看守側から八百長を提案されて、、、というストーリーです。
出演する人物のなかには元NFLプレーヤーがいたり、一時期日本の格闘技で大活躍したボブサップがいたり、しかも、撮影では実際にプレーをしながらストーリーを作っていくというやり方をしているためかなりリアリティのある映像になっています。そのなかでもコメディ要素があるのでポップに観られるのでアメフトがわからなくても楽しめる作品だと思います。
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ルディ/涙のウイニング・ラン
体格的にも経済的にも恵まれていない少年が、憧れのノートルダム大学でプレーするために奮闘し編入するも、フィールドに立つ機会もなく最後の試合を迎えてしまい、、、というストーリーです。
この作品の最初のシーンで自分は泣いてしまいました。アメフトとか関係なく、スポーツにすべてを注ぐ青春映画として好きな映画です。
ブラインドサイド/幸せの隠れ場所
この作品は、マイケル・オアーというNFLプレーヤーが裕福な白人親子の養子となり、差別問題とも戦いながらNFL入りを果たすまでの実話をベースとしたストーリーとなっています。
タイトルにもなっている「ブラインドサイド」というのはQBの利き手とは逆のサイド、およびそのサイドからタックルを受けさせないように守るオフェンスラインのポジションのことを指します。母親に「QBを私だと思って守りなさい!」と叱責されるシーンが印象的です。
スポーツ映画というよりは親子愛をテーマにした作品で、これもアメフトを知らなくても充分に堪能でき、かつアメフトの一つの魅力を知ることができる作品だと思います。
武井壮さんも下記の記事にて4本アメフト映画を挙げているので是非読んでみてください。
アイシールド21
オススメの漫画はもちろん「アイシールド21」です。俊足のいじめられっ子が謎のプレーヤー「アイシールド21」となり弱小高校アメフト部で奮闘するというストーリーです。
友情、努力、勝利という少年ジャンプの王道の青春スポーツ漫画でありつつ、読んで学べるアメフト入門にもなっています。
下のまとめでは真っ先に「アイシールド21」が挙げられています。
「ないものねだりしてるほどヒマじゃねえ」とか「0.1秒縮めるのに1年掛かったぜ」というセリフは否応なしにモチベーションを喚起させてくれます。
引用:https://twimap.net/twitter/lastng0802
まとめ
今回の件で日本におけるアメフトの何かを失ったのは間違いありません。
ただ、これですべてが終わったわけでもないですし、事態が収束してからが勝負だと思っています。アメフトプレーヤーやアメフトファンはここで見放すことはせず、冷静な意見とアメフトの魅力について発信してもらえたらと思っています。
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どうにか、どうにかアメフトの魅力が伝わるように書いてみました。長文乱筆失礼しました。