食べると肛門が言うことを聞かなくなる魚で(社会的に)死んだ

「野食」とは野外で採取してきた野生の食材を普段の食卓に活用すること。日々、美味しい食材を求めて南へ北へ。野食ハンターの茸本朗さんが今回チャレンジしたのは、全身大トロの味わいがするという魅惑のワックス魚。果たしてワックス魚の正体とは?そしてワックス魚の野食に挑戦した茸本さんの運命やいかに?

初めまして、茸本朗(たけもとあきら)と申します。

小学生のころから、野外で採取してきた食材を普段の食卓に活用する「野食」という活動をライフワークとしており、美味しい食材を求めて東奔西走しつつ、ウツボに食われてみたり、毒キノコを食べてマーライオンになったり、アニサキスに仁義なき一本勝負を挑んだりという日々を送っています。

なんでわざわざそんなことをしているかというと、ときに「なぜこれが食用にされないのだ!?」と思えるような素晴らしい美味に出会えることがあるからです。そういった食材は意外と身近に転がっておりまして、見つけたときは脳内麻薬がどばどば出ます。

とはいえ、ひとつの美味との出会いの陰には、その何倍もの失敗があります。クッソまずいものを採ってしまい、いくつもの調理法を試してみたもののどうしようもなかった……という経験や、採取・調理時に油断して大変なケガを負ってしまった、中毒して丸1日苦しんだというような体験はいくらでもあります。

ぼくは採ってきた食材をブログで逐一レポートしているのですが、こんな体験は恥ずかしいので初めのころは記事になんかするまいと思っていました。
しかしある日戯れに「深海魚を食べたら会社でお漏らしした」という記事をアップしたら、過去にないほどのPVを稼いでしまいました。インターネッツの人々は「いい大人がお漏らしする話」がホント好きだよな……!
これに味を占めたぼくは、それまでの失敗譚をどんどん記事にしていき、やがて人気記事ランキングのほとんどがそれらの記事に占められるようになっていきました。今ではもう「○○はすごい美味しい!」みたいな記事を書いても全然読んでもらえません。かなしい。

まあでもおそらく、そういう失敗体験の記事を書いているほうが、ぼく自身楽しめているのでしょう。
なので当連載でも、ぼくをはじめ野食家たちがしでかした野食に関する「失敗体験エピソード」を中心に書かせていただければ……と思っています。普段から野食をたしなむ方は他山の石として、そうでない方は「こいつらバカでぇww」と思いながら、拙文をお楽しみいただければ幸いです。

なぜ人はワックス魚を食べてしまうのか

さて、野食における失敗話において、やはり「中毒」は切り離せない存在です。
野食材による中毒には大きく分けて「誤食」と「やりすぎ」があり、前者はともかく後者は普通に考えれば防げるものです。しかし「非常に美味だが過食するとよくない」という野食材は少なくなく、それらの自分における「中毒の閾値」を見極めようとした結果、悲劇に見舞われる野食家は後を絶ちません。
そのような、野食家たちを悲劇に誘う食材の中でも、一番有名なもののひとつに「ワックス魚」があります。


多くの魚は体内に鰾(うきぶくろ)を持ち、その中の気体の量を調整することで浮力の調整を行います。しかし、深海魚の一部には鰾ではなく、体脂肪を増加させることで浮力を得ている魚が存在します。キンメダイやノドグロ(アカムツ)などの高級魚が美味しいのも、そのような理由で体脂肪(この場合は不飽和脂肪酸)の量が多いからです。
しかしそのような深海魚の中には、不飽和脂肪酸だけではなくワックス(ワックスエステル)と呼ばれる脂を含有しているものがあります。有名なものに、バラムツやアブラソコムツ(いずれもスズキ目クロタチカマス科)などがあります。


左がバラムツ、右がアブラソコムツ

ワックスはいわば「蝋」なので、人体では消化・吸収することができません。人間の舌では不飽和脂肪酸とワックスの区別ができないため、食べたときの味わいは大トロと同様なのですが、いざ食べてしまうとその油は吸収されないまま腸内を進み、肛門から外へと出ていきます。婉曲表現をしましたが、ぶっちゃけうんこを漏らすのとほぼ変わりません(プライドが滅殺されるという点で)。人によっては腹痛・下痢を引き起こすこともあり、厚生労働省が公開している「自然毒のリスクプロファイル」というページにも掲載されています。

バラムツやアブラソコムツはこのワックスのために食材としての流通が禁止されており、普通に暮らしている限り、これらの魚を口にする機会はありません。しかし、ネットではこれらの魚を食している人がたくさんいます。実はこれらの魚は釣りの対象魚として人気があり、手に入れること自体は難しくないのです。販売は禁止されていますが、自分で釣って食べる、あるいは知り合いからもらうことは違法ではありません。知らない人に食べさせたりするのは犯罪ですからやめましょう。


全身にびっしりと脂が含まれている

そのうえ上記のとおり、ワックスは不飽和脂肪酸と味の上での違いはほぼなく、ときに体脂肪率40%を超えるため、まさに「全身大トロ」の味わいが楽しめます。そのため「食べてみたいから釣る」という人もいるのです。そもそも流通が禁止される前は、静岡を中心に流通し、人気のある食材だったといいます。「おしりから油を出しても食べたい」なんてうそぶく漁師さんもいるくらいです。「トロ」という言葉はかくも人の心を狂わせる。

ネット上では「刺身で3切れまでなら大丈夫」という噂がまことしやかに語られています。実際のところは何切れ食べようがワックスを摂取することには変わりはなく、どこかのタイミングでお尻から出てきます。「大丈夫」の定義とはなんでしょうね。
「でも要はケツからなんか出るってことだろ? じゃあ出そうになったらトイレに行けばいいじゃん大人なんだから」
そう思われる方もいらっしゃるでしょう……

ワックス魚で社会的に死にかけました

ぼくがこれらワックス魚を初めて食したのは、現在勤務中の会社に転職して1年ほど経った時期でした。友人のライター・平坂寛さんによる試食記を読んで「そんなに美味しいのか、ぜひ自分でも食べてみないといけない」と思っていたちょうどその時に、当の本人から誘いを受けたのです。

週末の夜、友達と車に乗り合わせて向かったのは静岡県清水港。バラムツ・アブラソコムツ釣りのメッカです。
普段は1000m近い深海に生息するこれらの魚は、夜になると岸近くの浅場まで浮上してくるためとても釣りやすくなります。いずれも大きくなるうえ、1匹釣り上げるだけで翌日は筋肉痛になるというゲーム性もあって人気が高いです。
釣り船に乗り、ものの30分ほどでバラムツをゲット。


バラムツ メーターオーバーだがこれでも中型

多くの釣り人は食べずにリリースするのですが、ぼくはもちろん食べてみたかったのでキープ。自身で釣り上げたものに加え、同船者が船内に置き去りにしていったアブラソコムツを引き取り、40ℓクーラーボックスがパンパンになるほど切り身を詰め込んで帰宅しました。


脂の乗りがすごい

これだけの量のワックス魚を食べれば当然ながらお尻からワックスが出るわけですが、船長の「加熱して余計な脂を落として食べたら大丈夫だら!」という発言に蛮勇をかきたてられ、ついつい刺身で4、5切れほど、それ以外にも焼き魚や煮魚などでバクバクと食べてしまいました。


ワックス魚の刺身 上がアブラソコムツ、下がバラムツ

彼ら、生だと脂が強すぎるのですが、厄介なことに加熱すると上質なギンダラのような味になりやがるのです。口の中に甘い脂がぶわっと広がり、コクがあるのにしつこさはなく、はなはだ美味。ああ、釣り人でよかった……。

まあ、なんにも良くなかったんですけどね。

食後、半日ほど経ったところでにわかに便意に襲われ、トイレに駆け込みます。
用を足して振り返ってみると、便器の水面にラー油のような真っ赤な油(食事中の方、そして中国のみなさま大変申し訳ありません)が浮いているのを確認。厚い油膜を作っており「こんなに出るなんて、やはりワックス魚は恐ろしいな……」と実感しました。
しかもこれで終わりではなく、その後も2時間おきくらいのペースで便意があり、断続的にトイレに油膜を生成する作業が行われます。

それでも徐々に油の量は減り、便意も発生しなくなっていき、安心しながら迎えた翌日。
会社で仕事をしていると、突然お尻のあたりが温かくなり、履いていたズボンがぷぅっと膨れる感触を覚えました。一瞬の疑問符ののち顔から血の気が引き、そのまま悟りを開き、諦めの境地に到達するのを自覚しました。

あ、いまワイ、死んだ(社会的に)。

それまでは、なまじっか明確な便意があったので誤解してしまったのです。ワックスは肛門から出るとき、いつもこちらの承諾を得ようと努力してくれるわけではなかった。彼らにはただ「蠕動運動と重力に従って肛門に向かい、括約筋を決壊させて外へ出る」という意思しかなかったのです。

お尻から噴出したワックスの量は優に100ccを超えていたでしょう。あれだけ油を便器に出した後でなお、これだけの量のワックスが体内に残っていたという事実を考えると、これらの魚がいかに大量のワックスを含んでいるか、そしてそれを食べることがどれだけ危険かということが泣きたいほどに実感されます。てかマジで泣いてた、絶望で。

「流通が禁止されている魚」を食べた末の惨劇である以上言い訳のしようもなく、その後ずっと「会社でうんこ漏らしたヤツ」として後ろ指をさされ続ける人生をも覚悟しました。
しかしとても幸運なことに、偶然椅子の上にビニール製のクッションを敷いていたこと(クッションは殉職)、予備のスラックスを会社に置いていたこと、そして終業間近で人が少なかったことなどが幸いし、誰にも気づかれることなく、また会社の備品を汚すことなく退散することに成功しました。

その時点でぼくは完全に自分の肛門を信じられなくなっており、帰り道の薬局で老人用おむつを購入しそれを履くことで、ようやく心の安寧を得ることに成功します。

肛門「何者だ!」
ワックス「ワックスです」
肛門「よし、通れ!」

よしじゃねぇぇえええぇぇぇ!!!!

おむつ生活はその後3日にわたり続きました。


この恐怖体験から分かったことは
・ワックスは不随意的に出てくるため、コントロールできると思ってはいけない
・予想以上の量の油が出てくるうえ、食後3~4日は出る可能性があるので油断してはいけない
・どんなに美味しくてもワックス魚を大量に食べてはいけない(社会的な致死量は人によって大きく違う)

ということです。意志の力だけでワックスを制御することなど不可能なのです。今回は会社で出すという社会的に致死的な経験をしましたが、そうでなくても寝ている間にお漏らしして布団を汚したり、満員電車の中で突如噴出させて某宗教団体によるテロを彷彿とさせたりしてしまう可能性は大いにあります。

ワックスをなめてはいけない。美味しいからといって無思慮にばくばく食べると、必ずやしっぺ返しを食らいます。賢明な読者諸兄はぜひぼくの轍を踏まぬようお気をつけいただければと思います。

あなたの食卓にもワックスエステルが……?

いやいやそもそもワックス魚を食べる機会がねーよ、そうお思いの方もいるかもしれませんが、実はワックスを含有する魚はこれら流通禁止になっているものだけではありません。干物にすると美味なことで知られるハダカイワシや、高級珍味として有名なからすみ(ボラの卵巣)、そしてハクジラ類から採れる鯨油も、無視できない量のワックスを含有しています。


神奈川や静岡の一部で人気の食材・ハダカイワシ

これらはいずれも少量を賞味する食材のため問題になることはありませんが、小型ハクジラの代表であるイルカの脂肪は、イルカを食用にする地域では簡単に手に入るため、食べ過ぎてしまうことは起こりえます。
さらに、バラムツやアブラソコムツも実は海外にて「オイルフィッシュ」「ホワイトツナ」などの名前で流通していることがあり、海外旅行の際に食してしまい大変なことになった、という話も聞きます。数年前にはアメリカの日本料理店でアブラソコムツの寿司が提供された結果、訴訟にまで発展したというニュースもありました。

みんな他人がお漏らしする話は大好きですが、いざ自分がそんな目に合うと人間としての尊厳を失いかねません。
(トイレ以外でお尻からワックスを漏らし、尊厳が失われてしまうことを、一部の釣り人は「失格」と呼んでいます)

もし怪しいものを食べてしまった、もしくはワックス含有食品を食べ過ぎてしまったという場合には、おむつを履くことをお勧めします。おむつに勝る安心感はほかにはなく、プライドを捨てても装着した方がよいでしょう。

この連載について

野食ハンターの七転八倒日記

茸本朗

「野食」とは、野外で採取してきた食材を普段の食卓に活用する活動のこと。 野食ハンターの茸本朗さんは、おいしい食材を求めて日々東奔西走。時にはウツボに噛まれ、時には毒きのこに中毒し、、、 それでも「おいしいものが食べたい!」という強い思...もっと読む

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コメント

dknk5 清水港はバラムツ・アブラソコムツ釣りのメッカ…アンツィオの寄港地も清水港…閃いた #閃くな 9分前 replyretweetfavorite

xmameox 嫌いじゃないです。でも 11分前 replyretweetfavorite

8kotty8 ワックス魚、なんておそろしい食べ物… 28分前 replyretweetfavorite

F15M500 https://t.co/Ebg8hDyWng 35分前 replyretweetfavorite