――内藤先生は2011年からHAL 東京 カーデザイン学科で教鞭をとっているそうですが、経歴を簡単にお教えください。
内藤先生「一番長く在籍していたのは日産自動車なのですが、その前には何社かデザイン事務所や他の自動車メーカーにも勤めていました。日産自動車ではカーデザイナーとして、チーフデザイナーを務めました。今では自分の事務所も持っていまして、ここHAL 東京で学生を指導しながら、自身のデザインの仕事も請け負っているという形です」
――ではカーデザイナーやカーモデラーが携わる、広い意味での“カーデザイン”という仕事について、教えてください。
内藤先生「ちょっと大げさな言い方になってしまうかもしれませんが、プロダクトデザインという領域がある中で、カーデザインは一番ハイエンドなのではないかと思います。というのも、車をデザインするには、非常に多くの知識やスキルが求められるんですね。なぜなら車は鉄板、ゴム、ガラス、布、革、プラスチック……などなど、ありとあらゆる素材が1つの集合体になったものだからです。素材を適切に扱うための技術も必要ですし、それぞれの特性を考えたうえでデザインするというのは、容易なことではありません」
――確かに……。自動車という製品の成り立ちは、とりわけ複雑ですよね。それでは、カーデザイナーとカーモデラーの違いについては、どのように捉えるべきなのでしょうか?
内藤先生「本学科でも、カーデザイナー専攻やカーモデラー専攻という名称で区別してはいるのですが、本来この2つは分けられるものではないと、私は学生たちに言い聞かせています。カーデザイナーは平面上で絵を描く“2次元のデザイナー”なわけですが、粘土などで立体モデルを作るカーモデラーは、言わば“3次元のデザイナー”だと考えられますよね」
――そう聞きますと、学生の田原さんが話してくれた「実はカーデザイナーもカーモデラーも学習カリキュラムに大きな違いはない」という言葉がしっくりきます。
内藤先生「ええ。本学科では、あえてカーデザイナーとカーモデラーとの間に明確な垣根は作らず、どちらの分野も学習させるようにしているのです。それがHAL 東京で学ぶ代表的なメリットで、学生たちはデザインの絵も描けるし、クレイモデルも作れるし、デジタル技術にだって対応できます。このように、できることの幅が広ければ広いほど、自動車メーカーへの就職でも有利になっていくのです。私が今まで仕事でお付き合いしてきた一流のプロフェッショナルな人ほど、カーデザイナーでありながらクレイモデル作りの技術もきちんと身に付けていたり、カーモデラーでありながら絵も上手かったりと、複合的な知識と技術を持ち合わせていましたからね」
――本当にレベルの高い人というのは、カーデザインにおいてもカーモデルにおいても、優れたスキルを持っているということですね。そんな人材を育てるために、HAL 東京カーデザイン学科ではどういった学習カリキュラムを採用しているのでしょうか?
内藤先生「本学科には車が大好きで最初から構造に詳しい人もいれば、さほど自動車の構造に詳しくない人も入学してきますので、1年次のうちは基礎学習に時間を割いています。やはり車のデザインをしていく上では、まず車の中身(構造)がどうなっているのかを頭に入れなくてはいけませんからね。『そもそも車とは?』という、座学メインの学習カリキュラムで徹底的に基礎を学びます。また、自動車業界は世界を相手にしたグローバルなビジネスとなりますので、日常英会話などの総合教育の授業も受けてもらいます」
――なるほど。カーデザインの本場はヨーロッパですし、自動車業界で将来的に飛躍していきたいのなら英語のスキルも必須なのかもしれませんね。
内藤先生「2年次に進級すると、カーデザインやカーモデルの本格的な勉強が始まり、実際に粘土でクレイモデルを作るようにもなります。そして3年次では、2年次で学んだスキルをさらに向上させつつ、やがて就職試験を受けることになりますので、企業に提出するポートフォリオ(作品集)を制作していきます。また、これもHAL 東京の特徴だと思うのですが、3年次の10月には学生たちを実際に自動車メーカーで1ヶ月間のインターンシップに参加させているんですよ」