甲子園ボウル21度優勝の名門日大が起こした悪質タックル問題は波紋を広げている(写真は日大の過去イメージで当該選手とは一切関係がありません。写真・アフロ)

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アメリカンフットボールの名門、日本大学「フェニックス」(以下日大)の代表クラスのディフェンス選手(3年生)がライバル校である関西学院大学「ファイターズ」(以下関学)との定期戦(6日・アミノバイタルフィールド)で関学のQB選手(2年生)を負傷させた「悪質タックル」の問題が波紋を広げている。

 関学のQBは、パス後の無防備な状況で背後から受けた「悪質タックル」で全治3週間の怪我を負った。関学は12日に記者会見を開き、日大側に経緯の説明と正式な謝罪を求める抗議文書を送ったことを発表。返答期限を16日と定めているが、一方の日大側は、ホームページ上で謝罪文を掲載しただけで、今なお、今回の問題に対しての記者会見も行わず、内田正人監督は“雲隠れ”している。

 関東学生アメリカンフットボール連盟は、同選手に対外試合出場禁止と指導者への厳重注意という暫定的な処分を下し、今後、規律委員会を開き、正式な処分決定を行うことを明らかにしているが、その日程も含めて敏速な動きがなく、日大側も沈黙しているため、ついに東大、法大、立教大の3チームは、予定されていた日大との春のオープン戦の“ボイコット”を決めた。

 現時点での問題がどこにあるかは東大のアメフット部がホームページ上に掲載した【日本大学との試合見合わせにつきまして】という三沢英生監督と、森清之ヘッドコーチが連名で記したコメントに集約されている。

「(前略)これは、選手生命は言うに及ばず、生命そのものを脅かしかねない危険な行為であり、同一選手がその後も反則を繰り返して資格没収となったことと併せて、言語道断と言わざるを得ません。当該選手に対して、連盟から暫定的な出場停止処分が下されましたが、指導者を含めての正式な処分や再発防止策が講じられていない以上、日本大学と試合を行うことは、現段階では難しいと考えます。実際に、日本大学と試合を行う予定であることに対して、チーム内外から心配の声もあがっております。私どもコーチ陣は、選手の安全や生命を守ることを第一に、日々指導を行っております。今回の件の重大さを、関東学生アメリカンフットボールにかかわるすべての関係者が認識し、選手の安全が担保される状況になることを、心から願っております」

 なぜ起きたかの問題追求、そして、今後、このような問題が2度と起きないようにするにはどうすべきか、の2点について当事者の日大と統括団体である関東学連が早急に調査を進めて対処しなければならない。
 学生スポーツの存在意義を問われているのだ。

 そもそも今回の「悪質タックル」はなぜ起きたのか。

 実は、相手チームのエース、特に司令塔であるQBをターゲットに定めて「潰せ」「倒せ」を合言葉にハードタックルを仕掛けることは珍しいことではない。オフェンスラインを突破してQBにタックルを仕掛けるプレーは「QBサック」と呼ばれて賞賛される好プレーだ。指導者や、チームリーダーは、試合前に極限まで集中力とモチベーションを高めて恐怖心を消し去ってフィールドに選手を向かわせる。筆者は「殺す気でいけ」という物騒な言葉をミーティングで発したという話を聞いたこともあるし、実際、ハードタックルで、エースQBが負傷して優勝を逃すーーという事態まであった。

 だが、それらはルールの範疇で行われなければスポーツではなくなる。対戦相手へのリスペクトも然りだ。

 

 元サンケイスポーツ代表で50年以上アメフットを取材してきた武田吉夫氏も、「フィールド上の格闘技と言われる競技だが、ここまでの悪質なタックルは過去に見たことがない。パスを投げた2秒も3秒も後に意図的に負傷させようと背後からタックルをしている。ルールを守らなければ犯罪行為になる。命にもかかわる。関学では過去に猿木さんという名QBが試合中のタックルで負傷、下半身不随になったという出来事があった。私は目の前で取材をしていたが、そのときは2人がかりのタックルの下敷きになった。関学が、今回の問題を看過しなかった背景には、そういう過去も手伝っていると思う。ギリギリのルールにのっとったプレーでさえ、このような事故が起きるのだ。そのためアメリカンフットボールでは、審判を7人も配置して、今回のレイトヒットのような危険な反則、スポーツマンシップにもとる行為に厳しく目を配っている」と苦言を呈する。

 1978年の春のリーグ戦で関学のエースQBの猿木唯資さんが負傷、選手生命を絶たれ車椅子生活を余儀なくされることになったのだ。猿木さんは、現在、税理士として活躍されているが、そういう歴史を持つ関学が怒りをあらわにするのは当然だろう。

 実は、6年前に全米プロであるNFLでも、こんな問題が起きていた。

 セインツのディフェンスコーチが、相手チームの選手を負傷させた場合に、その程度に応じてボーナス金の支払いを設定して(例えば担架で運びだされた場合はいくらとか)、「悪質タックル」を奨励していたという大問題が発覚した。勝利至上主義に走ったあげくの組織ぐるみの“犯罪”である。NFLは、当該コーチに1年間の出場停止処分とチームに約5000万円の高額な罰金を科したが、考案者のディフェンスコーチは結局、5年間謹慎させられることになった。

 今回の問題について関係者を取材すると悪質な行為を3度も行った当事者の個人的な責任はもとより、日大のチーム体質を問題にする声を多く聞いた。チームの指導者による“暴力”“パワハラ”がまかりとおり、選手は言われたことを遂行しなければ試合にも出られないというチーム体質があるようだ。数年前には、あまりの惨状に耐えかねた選手が大量退部するという事件まであったという。

 スポーツマンシップや、モラルの徹底よりも、いきすぎた勝利至上主義が選手を狂わせたのか。それでも昨年12月の甲子園ボウルでは27年ぶりに関学を倒して21度目の優勝を果たした。結果が出たため、そのチーム体質が学内で否定されることもなかったのかもしれない。

 問題は今後の再発防止策と日大への処分である。

 某アメフット界の重鎮は筆者の取材にこんな意見を口にした。

「本来ならば、あの定期戦は3度目のファウルを犯した時点で没収試合とするべきでした。そうできる規約があるのです。日本のアメリカンフットボールの存続にさえかかわる問題です。こんな行為が行われる競技を子供達にさせたいと思いますか? ことの重大さを考えると厳罰をチームに対して下すべきです。日大を除名してもおかしくありません。最低でも3年の出場停止処分を下し2部からやり直させるべきでしょう。またチームの体質にもメスを入れ組織が変わったことを確認することを停止処分解除の条件にすべきでしょう」

 しっかりとした調査を行い、今回の問題が起きた背景を明らかにして、もし、そこにチームとしての責任が大きければ、それ相応の厳罰を下す必要があるだろう。

 前出の武田氏も「刑事告発されてもおかしくない事件。日大フェニックスを作りあげた故・篠竹幹夫監督の精神からはほど遠く、大学スポーツのあるべき姿、その本来の目的からは大きく逸脱してしまっている。まず大学側が、なぜこういう問題が起きたかを内部調査して自主的に監督らの解任はもとより廃部までの厳しい処置を検討すべきでしょう。最低でも、1年間はチームの出場停止処分はしなければならないと思う」という厳しい意見を述べる。

 日大及び、関東学連が、どんな処分、対策を講じるのか。繰り返すが、早急に動かなければ、今後のアメフット界の存続問題にさえかかわってくる。

(文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)