「日米のシナリオの違い」みたいな記事だが、どうにもしっくりこない。
シナリオ云々以前に、まずキャラクターとは何か?。
キャラクター論なんてもはや陳腐だし、今さらだが、軽くさらっと。
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人物が描けていない
起こりの違い。米国はキャラ重視、日本はシーン重視。
シナリオ、お話の組み立て方。米国(ハリウッド)的と日本的の違い|shachi|note
人物=キャラクターは、記号の集合。
「丸描いて、ちょん」から始まるドラえもん絵描き歌を、歌いながら描いてみると「植木鉢〜♫」のところで既にドラえもんだと通じる。
丸がいくつか集合し、いくつか線を引けばシュミラクラ、ドラえもんに見える。
背景となるセワシくんが送り込んだロボットだとか、体重も胸囲も頭のサイズも129.3だとか、ネズミに耳をかじられ鏡を見て青くなりフラれたとか、そういう物語の背景(コンテクスト)を必要としなくてもドラえもんは成立する。
記号の集合がキャラクターだからこそ、ドラえもんもキティーちゃん、ミッキーマウスも背景となる物語から断絶されても、あるいはその物語を必要とせずその特徴だけで成立することができる。
コンテクストの断然した外国の方は、石川五右衛門を観て「わぉ!ピストルの弾を斬るだなんて日本のサムライはすごいね!」と感じるかもしれない。
当たり前だがジャパニーズサムライなら誰でもできるわけではない。
日本の多くの人は、前提となるコンテクストがあるために五右衛門が持つのは斬鉄剣という特殊な刀であって、ピストルの弾でも豪華客船でも斬ってしまうことを知っているし、「つまらぬものを斬ってしまった」と言いながら全裸にしてお色気シーンに突入させるのも知ってる。
ルパン三世というキャラクターのコンテクストは長い時間をかけ、既に多くの人々に共有されているからこそ物語の中でキャラクターのディテールや背景を描かなくても登場するだけで通じる。
バックボーンを描く必要がない。
宮崎駿のカリ城にしろ説明はカリオストロ公国の説明に終始。
ルパンが何者なのか?は峰不二子の口を借りてクラリスに語られたりする程度。
それで充分に足りる。
ルパンの背景、その生い立ちなんてコンテクストがあるからこそ観客にあえて示す必要なく楽しめるように物語は作られている。
押井守的に言えば「キャラクターとしては死んでる」んだろうが。
起こり、起因の違いはあると思います。米国なんかはキャラが大事です。例えば「アイアンマン」なんかは本当にそうですね。ロバート・ダウニー・Jrが社長(トニー・スターク)にきまらなれば作品が出来なかった。と言われるくらいにキャラ重視です。キャラが変わればシリーズすら作り直す(スパイダーマンなんか良い例ですね)くらいの踏ん切りの良さがあります。
元記事では、比喩としてアイアンマンやスパイダーマンが挙げられているが、それらはキャラクターありきの作品。
スーパーヒーローを映画化するならキャラ中心になるのは当然のこと。
必ずしも「ハリウッドだから」という主語には当てはまらない。
一概にハリウッドと言ってもキャラクター作品ではない作品は数多くある。
……まぁ、当たり前ですが。
日本のドラマ海外のドラマ
海外ドラマと日本ドラマの端的な違いとして、日本のドラマの大半が視聴者の知識レベルが低いと思って作り、海外ドラマの大半が視聴者の知識レベルが高いと思って作る。というのがあります。
この辺は賛否両論あるのですが、日本の方は知ってることをやられているのにおかしな説明だったり、海外の方は何が起こってるのかまったく判らないまま進んだりしていきます。
シナリオ、お話の組み立て方。米国(ハリウッド)的と日本的の違い|shachi|note
…………。
ドラマと映画でも状況が異なるのは当然。
アメリカのドラマはまずパイロットとして一話が作られ、そのクオリティによってその後が作られるかどうかが決まる。
だから登場人物のバックボーンに対して割かれる時間は短い。
いきなり事件が描かれる傾向が強く、一話に起承転結やどんでん返しがある。
医療ドラマ「ER」などに顕著だが、シーズンの最初や最後に衝撃的なエピソードを配置し、視聴者を飽きさせない。
一度なんてヘリが落ちてきてレギュラー医師が下敷きになって次話に引っ張った。
そら見るだろ、そんなもん。
評判が良ければ続編が作られ続け、ダメなら打切りになる。
だからアメリカでは、最終回がないままの作品も多い。
一方、日本のドラマは、枠が先にあってドラマが作られる。
そこでどちらかといえばまったりとした展開のものが増えてしまう。
最初から話数が決まっているから、それに準じた構成になる。
恋愛ものなど一話目では登場人物の説明や関係性に終始し終盤で事件発生、次回に続く、なんて構成が多い。
先シーズンのドラマでは「監獄のお姫さま」が面白かった。
さすがクドカン。
お話はこんな感じ。
まずキョン2らによる誘拐事件が描かれる。
父親である伊勢谷友介が拉致。
ここまでは詳しい背景は描かれない。
だが彼女らが元受刑者のグループで、何かの目的があって誘拐を仕組んだことが示される。
二話目からは、元刑務所の受刑者からなる犯人グループが「どうして誘拐をしなければならなかったのか?」背景が徐々に描かれ、同時にリアルタイム(物語内時系列で最新の)の「爆笑ヨーグルト姫」事件の謎も解き明かされていく。
毎話、現在と過去を描く構成は「LOST」にも見られるようなアメリカのドラマっぽい構成。
あまり日本的ではない。
前述の引用のような視聴者の知能レベルなんて持ち出せば、そういうものを置いてけぼりにして進んで行く。
今シーズンなら「コンフィデンスマンJP」はキャラの背景すらまともに描かずひたすら詐欺師集団がカモに大仕掛けな騙しのトリックを仕掛ける。
通常であればそれぞれのキャラの過去や因縁を描く(そして物語の速度が落ちる)ところだろうが、そう言った主人公らの背景を一切描かずひたすら現在の仕事ばかりを描くのはとても面白い構成。
キャラに背景がないから薄くても、仕掛けと事件に厚みがあって構成として成功してる。
キャラとストーリー
キャラ先行、ストーリー先行の差異は日本アメリカという国の差より、作品によるとしか言いようがない。
日本でも「相棒」のような作品もある。
主人公となる杉下というキャラクターの背景を描かなくても事件さえ描けば済む。
杉下右京がどこで生まれ、両親はどんな風で、どんな少年時代を送り、今に至ったかが描かれなくても物語だけで成立する。
あくまでも探偵という装置であって、人間性や人としての歴史を描く必要がない。
前述した「コンフィデンスマンJP」然り。
アレハンドロ・イニャリトゥ監督の映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」
キャラクタームービー全盛のハリウッドの流行に乗れなかった落ち目の舞台俳優を演じるマイケル・キートン。
皮肉なことに現実世界のマイケル・キートンは初期バットマン(ティム・バートン監督時代)役にも関わらず「バットスーツが重いから着たくない」と断った結果、バットマン役から外れ、その後のアメコミ映画ブームに乗り損ねた。
こういうメタ(劇外の)な情報もこの映画では当然コンテクスト。
その後、スパイダーマンのリブート「スパイダーマン:ホームカミング 」に敵役バルチャー(つまりバードマン)として出るのも当然自虐。
(ジャンクロードヴァンダムのスパイものドラマ並みに)。
キャラクターが前面に出た映画がハリウッドでウケて、ウケれば次が作られるのがハリウッド。
ハリウッドは功利主義だからこそウケるものしか作られず、いくら落ち目の役者がそんな状況を嘆いても悪と戦うアベンジャーズやブラックパンサーばかりが撮られる。
当然だが、アメリカ映画はキャラ先行などではない。
「マンチェスター・バイ・ザ・シー」にしろ「ムーンライト」にしろ、どこを観たらキャラクター先行になるんだか……。
一時期は日本の作品にまで手を伸ばし(「オール・ユア・ニード・イズ・キル」は作られたが「戦闘妖精雪風」も「時砂の王」も企画どこに行ったんすかね)原作不足が叫ばれていたハリウッドからすればアメコミヒーローの映画化は温存していた鉱脈。
だからこそキャラ先行の作品ばかりが作られているだけの話。
だが「バードマン」や「ムーンライト」がアカデミーを受賞するのもまたハリウッドの世界。
Netflixもディフェンダーズを次々映像化。
メインのコンテンツに据えている(ブラックライトニングは今ひとつウケなかった……)。
日本では、自国のマンガを映画にするにあたっても原作が異世界を舞台にしてるもんだからコスプレになりがち(ハガレン然り、進撃然り)。
そこを寄せていかないのがハリウッドで、寄せた結果失敗したのがストリートファイ(ry
参考文献
この手の映画論は、どこのものともわからない見当ハズレな素人論より*1きちんと研究した方の専門書を読めば、分析をされているのでそちらを勧めたい。
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構図に関しては「Filmmaker's Eye」が面白い。
大きな書店に行くと並んでいることも多いので是非一読を。
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「映画表現の教科書」を読んでから映画を見ると、見方が変わる。
映像作品において言葉にしなければならない情報はあくまで「わかりやすい説明」であって、その主体は映像。
だが「映像で語る」映画が観客にそれを伝えるのはなかなか難しい。
だからこそ見方がわかれば見え方も変わる。
INFASパブリケーションズ
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神山健治が映画について縦横無尽に語るこの本は必読の一冊。
azanaerunawano5to4.hatenablog.com
東京ニュース通信社
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押井守の評は結構辛辣ではあるが、ともかく褒められがちなジブリ作品をここまで冷静に分析されると首肯せざるを得ない部分も多い。
azanaerunawano5to4.hatenablog.com
角川書店
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あれ?
一度、復刊ドットコムで再発して定価まで下がったんですけどね。
押井守がレイアウト論を書いたMethodsがまたプレミアつき始めてる……。
古本屋で見つけたら早めに買うのをお勧め。
変な素人論よりどれもよほど面白いですよ。
*1:この記事を含む