「どんぶり一杯」の薬を医者が出す理由

特別編1回 薬を多く処方しても医者は儲からない

2018年5月14日(月)

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 こんにちは、総合南東北病院外科の中山祐次郎です。

 皆様にお知らせがあります。今回からの8回は、「一介の外科医、日々是絶筆・特別編」として毎週記事をお送りいたします。

 この特別編でのテーマは、「私の医者としての本音を書いていく」というもの。私が医者として働いてきた中で、最も言いづらい部分、つまり「本音」部分を書いていきます。これまで医者が語ってこなかった内容が主になります。もちろん、ただの週刊誌的な「医者ってこんなひどい人たちなのです」などという露悪を書くつもりはありません。私が書きたいのは、皆さんに「こんな医者の本音を知っていれば、こう接したのに」「医者ってこう考えていたんだ、納得」と感じていただけるような、皆さんと医者の距離を縮めるような事柄です。

 ご意見やご感想、ご質問がありましたら、ぜひお寄せください。なお、私中山のフェイスブックツイッターでも構いません。

1日20錠はザラ

 「私の薬はなぜこれほど多いのだろう」

 60歳代くらいまでのお若い方(外科医の感覚ではそうなります)は、あまり実感していらっしゃらないかもしれませんが、70~90歳代ではそう感じる方も多いと思います。

 私は外科医ですが、アルバイトで内科外来をやり、2カ月だけですが内科と精神科の病院の院長を務めたこともありました。それらの経験から考えると、80歳代になると大量の薬を飲んでいる方がかなり多くいらっしゃいます。1日10種類以上、合計で20錠以上も飲んでいる患者さんも珍しくありません。薬20錠は、ご飯茶碗一杯分ほど。これでは薬を飲むだけでお腹いっぱいになっちゃいそうだな、と思います。

 では、なぜ薬がそれほど多くなるのでしょうか。

 実は、薬の種類が多い理由は、残念ながら医者のせいなのです。

 人間も80の声を聞く頃になると、病気を患っている人が増えてきます。それも一つや二つではないことが多いのですね。例えば胃潰瘍、便秘、不眠、腰痛、花粉症……といった具合です。

 そして我々医者は、病気ごとに薬を出します。皆さんもご存じの通り、医者は内科・外科・整形外科・耳鼻科などと「科」が分かれています。ですから、胃潰瘍と便秘と不眠は内科で、腰痛は整形外科で、花粉症は耳鼻科で、それぞれお薬が出る、ということが起きるのです。胃潰瘍に1日4錠、便秘に1日6錠、不眠に2錠、腰痛に3錠、花粉症に2錠と点眼薬、点鼻薬。計17錠と点眼薬、点鼻薬になります。これに、「過去に狭心症をやった」なんてあったら、さらに増えてしまいます。

コメント15件コメント/レビュー

複数の薬投与がもたらす身体機能への害についての最新研究などの情報も期待していないので、肩すかしをくらった。この視点はあうべき医療の方向性を考えて行く上で重要ではないか?
あえて記事の付加価値を見つけるならば、医師が薬の処方を多くすればすれるほど、医師の金銭的取り分が少なくなるという仕組みくらいか。(2018/05/14 12:39)

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「「どんぶり一杯」の薬を医者が出す理由」の著者

中山 祐次郎

中山 祐次郎(なかやま・ゆうじろう)

外科医

1980年生まれ。聖光学院高等学校を卒業後、2浪を経て、鹿児島大学医学部医学科を卒業。その後、都立駒込病院外科初期・後期研修医を修了。2017年2~3月は福島県広野町の高野病院院長、現在は郡山市の総合南東北病院で外科医長として勤務。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

複数の薬投与がもたらす身体機能への害についての最新研究などの情報も期待していないので、肩すかしをくらった。この視点はあうべき医療の方向性を考えて行く上で重要ではないか?
あえて記事の付加価値を見つけるならば、医師が薬の処方を多くすればすれるほど、医師の金銭的取り分が少なくなるという仕組みくらいか。(2018/05/14 12:39)

(2)
たった一人の医師にしか診察してもらっていないのに、この体たらくは何だろう?これが複数の科にまたがれば、ドンブリ一杯の薬になるのは火を見るより明らかである。

そもそも、医師によってはエクスキューズのための処方が相当あるのではないか?標準治療の範囲であれば、余分とは思ってもドンブリ勘定で薬を出しておけば良い、何かあっても言い訳できる、責任を免れられる、と思っていないか?適当には処方していないと言い切れる医師がどれ程いるだろうか?患者が治ろうと治るまいと、標準治療をしておけば事足れりという医師とは少なからず私は出会っている。

薬には、副作用があるのは勿論、体に負荷をかける面もある。ニュートラルということはないはずである。であれば、急性期にはしっかり服薬させ、症状が落ち着いたら徐々に様子を見ながらギリギリまで減薬するのが、専門家本来の職能である。ここまで丁寧に患者を診ている医師がどれほどいるだろう。

厚生省の指針で入院している高齢者の薬を大幅に減らしたら、患者がどんどん元気になり院内を歩き出した、という話を日経で連載中の別の医師がしていたが、それは一体何なのか、筆者には考えて欲しい。

要は、「ドンブリ薬」は、インフォームドコンセントと称して患者に治療法の選択を丸投げし、責任逃れをしている医者がいるのと同じではないのか。

医師という職業は、古代から、当然厚生省以前から、存在する専門職であり、古代ギリシャ以来のヒポクラテスの誓いをした上で医師になるわけである。従って、制度上の不合理さを言い訳に、患者の治療を越えた投薬や手術をやって良いわけはない。保険診療の裏をかいてでも、他の科の医師ともめてでも、真に患者に資する治療をするのが医師ではないのか?(2018/05/14 12:28)

(1)
こちらの先生は違うのかもしれないが、専門職としての能力とモラルに欠ける医師がいるから、ドンブリ一杯の薬になるのではないだろうか?

専門科毎に出す薬の合計がドンブリになるわけだが、飲み合わせの検証は誰がするのだろうか。そもそも、四種類以上の飲み合わせは治療の領域を超えているのではないか?

以前、父が便秘をこじらせ困っていた。医師は漫然と下剤と整腸剤を出すのみで、何もしなかった。家族の要請でようやく浣腸をしてくれたものの、間に合わず、摘便となってしまった。

その後、色々調べて判ったのは、同時に処方されていた降圧剤の副作用に便秘があることだった。何故、別のタイプの降圧剤を試さなかったのだろうか?

整腸剤も全部同じではなく、ある種類で効かなくとも違う種類なら効く場合があり、試さないと分からないことも後で判った。

素人でもこれだけ解るのに、この医師は何をしていたのだろう?

因みに、この病院は大手警備保障会社の経営する会員制クリニックで、待ち時間も少なく、問診などの時間もタップリあった。(2018/05/14 12:28)

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